「あ、プリン食べちゃうねー」
冷蔵庫を覗き込んでいた若井は、そう言いながら戻って来た。手にはプリン。
「ええええちょっと待って、待てや、おい」
「ん?」とすでにパッケージを開けていた。
「それ俺のじゃね!?」
「え、これ何個入りだったっけ」
ちょっと考えてみる。「四……四個だった」
若井も首を傾げた。「俺、まだ食べてないけど。これで一個目」
「あ! 俺……三つ食べたのかー」
「おい」
と突っ込まれたけど、俺はここで折れるのは何か違う気がした。そうだプリンは俺のためにあるんだ、と被害妄想が止まらない。
「でも俺食べたい! 食べたいです」
「はあー? 俺食べてないじゃん無理」
「また今度買ってくるから」
「というか俺がこれ買って来たんだから、自分で買って食えよ」
俺たちはしばらくにらみ合った。彼の手の中にあるプリンがおびえている。
「じゃあ」
「あ?」
「ラップバトルだ」
「何でやねん」
実は最近、俺はラップにはまっている。いろんなラップの曲を聞いているのだが、自分で作ったことはない。けど若井になら、何となく、勝てそう。
俺は「じゃあ俺、先攻」と言う。
「俺まだいいって言ってないけど」と若井が静かに呟く。
「yo♪ yo♪ yo♪ yo♪」
「うぜえ」
「俺が先攻♪ 一発で閃光♪」
若井はいたって真顔だ。
「俺はプリン♪ お前不倫♪」
「風評被害」
「お前の犬食い まじ上品♪
お前の言ってること まじ感心♪」
「何も言ってねーよ」
「ってみんな言うけどお前はただのギタリスト♪」
「はいギタリストですが何か?」
「お前は自称ミニマリスト♪」
「んなこと言ってねーよ」
「i am パーフェクトヒューマン♪」
若井のまだらな拍手が飛んできた。
俺は大満足。「ありがとう素晴らしいプレイだった」
「終わってねーよ後攻あるだろ」
「いやいや、戦うまでもなく、俺のがすごいだろ」
と調子こいていたら、
「yo! 俺様後攻 出身高校不明♪
どしたん? 話聞こか?♪
どしたん? お前の目は節穴?♪
独学でガテン系のラテン語♪ っていうけど本当は韓国語お前よりペラペラ♪
司法試験不法侵入のプロ♪
お前はニーチェしか知らんアーティスト♪ 自分を神だと思ったペラペラ紙切れ思い知れ♪
ミセスのプロセス 俺のセンス♪
お前は不完全でいかんせん完全♪」
窓の外で小鳥がチュンチュン鳴いている。
若井の真顔がウケる。
「やられた」
「そ?」
「俺の負けや」
「じゃあこれは、俺のね? ははは」ようやく若井はにやにやと笑った。
プリン、もう一個買ってこいつにおごってやろう(;‘∀’)
コメント
7件
見た☆