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タイトル:「幼馴染の約束」
あたし、篠原夏鈴は、クラスでもムードメーカー的存在だと思ってる。笑顔と明るさで、みんなを引っ張っていくのが得意なタイプ。だからかな、周りのみんなからはちょっとした頼りにされることが多い。でも、そんなあたしにも、頼りになる人がいる。それが、齋藤伊織。幼馴染で、あたしの隣にいつもいる男子。
小さい頃からずっと一緒だった伊織は、今では少し照れ屋で、いつもあたしの面倒を見てくれる存在だ。あたしが何かして笑っていると、すぐに「夏鈴、騒がしいよ」って注意してくるけれど、その顔はどこか嬉しそうで、あたしにはその笑顔がたまらなく好きだった。
昔は、伊織が泣き虫だったんだよね。あたしより少し背が高くて、ちょっとだけクールに見えるけれど、実はすごく繊細な性格だった。だからよく泣いて、落ち込んでた。それでも、あたしはいつも元気に「大丈夫!」って声をかけて、彼を励ましていたものだ。
覚えてる。小学校のとき、夏休みの最初の頃、ちょうどあたしと伊織が家の近くの公園で遊んでたときのこと。伊織がちょっとしたことで泣き出して、「あ、伊織また泣いてる」って思ったあたしはすぐに駆け寄って、「大丈夫だよ、そんなことで泣かないで」って言ったんだよね。だけど、伊織はすぐには泣き止まなくて。
その時、あたしは必死に伊織を笑わせようとして、変顔をしたり、ドタバタと踊ってみせたり、何でもしたけれど、全然効果がなかった。でもね、ふと気づいたんだ。伊織が泣きながらも、必死にあたしのことを見ていたことに。
あたしが笑わせようとする姿に、彼が安心したんだろうなって、その時思った。それからしばらくして、伊織が泣き止んで、ポツリと「ありがとう」って言ってくれた時、心の中で「ああ、ほんとはあたし、好きなんじゃないかな」って、ちょっとだけ思ったけれど、すぐにその思いを胸にしまった。
それから時間が経って、中学生になった。あたしも少しずつ、周りの目を気にするようになったけど、伊織は変わらなかった。優しくて、頼りがいのある彼は、今もあたしの周りのことを気にかけてくれる。だけど、最近、なんだか彼の態度にちょっとした変化を感じるようになった。目が合うと、なんだか少し恥ずかしそうにそっぽを向くことが増えたし、あたしがちょっとボーっとしてると、「ちゃんと見てよ」って少しだけ怒った顔をしてきて、逆にドキドキしちゃう。
今日は学校帰りに、久しぶりに二人で歩くことになった。あたしは歩きながら、何気なく「ねえ、伊織、最近なんか変だよね?」って言ってみた。
「え?」と、伊織が少し驚いた顔をして、振り返った。「何が?」
「なんか、前より素直じゃないというか。目を合わせたがらないし、なんか緊張してる感じするし」
「そう?」と、伊織は少し顔を赤らめながら、「別に…そんなことないよ」って答えた。
その言葉に、あたしは本当に思わずニヤッとしてしまった。昔は、あたしがどんなに騒いでも、伊織はそのまま静かに受け入れてくれることが多かったけれど、今は違う。少し照れるような、でもどこか嬉しそうな顔をする伊織が、なんだか可愛くて。前に戻った感じ。懐かしい。
「夏鈴…」
伊織があたしの名前を呼んだ
その瞬間、心臓がドキッと跳ねた。
「えっ…な、なに?」
「…あのさ、夏鈴がずっと元気で、周りを明るくしてくれるから、俺、なんか…」と、伊織がモジモジしながら続けた。「ずっと、ああしてくれることが普通だって思ってた。でも、最近、それがすごく特別だって気づいたんだ」
あたしはしばらく黙って、その言葉を噛み締めていた。何かが心の中で弾けたような気がした。伊織は、あたしを特別だと思ってくれているのかもしれない。それは、あたしが感じていた気持ちと同じだった。
「伊織…あたしもさ、ずっと気づいてたよ。昔みたいに、あたしだけが元気でいればいいって思ってた。でも、最近、伊織の顔を見てると、なんだか胸がいっぱいになる」
そう言って、あたしは少し微笑んだ。伊織はしばらく黙っていたけれど、やがてゆっくりと顔を近づけて、あたしの手を握ってくれた。わー!?わっ。
「夏鈴、俺、これからもずっと一緒にいたいんだ」
その言葉を聞いた瞬間、あたしの胸はもういっぱいで、涙が溢れそうになった。あたしと伊織の距離は、ようやく少しだけ近づいた気がした。
夕日の中、二人の影が長く伸びて、少し照れたような、でも確かな思いが心に残った。夕日があたし達を照らす。今日はめちゃめちゃ良い日だった。それはー。君が、いてくれたから。