今から9年前…それはとある日のことだった。
〜今から11年前〜
…いつまでこんな日々が続くんだろう。
逃げ出したい、けれども…
ここ《暁月家》 にいる時点で無理なことよね。そんなこと、最初から分かってはいるんだけど…
「…おい、新人。お前はそっちを頼む。俺はあっちの見張りをする。」
「了解です、先輩。」
っ、!誰かくる、暁月家《政府》の人間かしら?お願いだから、私を解放して..
「…」
何この人…私をじっと見つめてくるわ、
嫌っ、!早くどこかに行って…!!
俺の名前は舞条優吾《まいじょうゆうご》、暁月家の見張り兼護衛役だ。
暁月家は国民からの信頼が強い政府だと思っていたが、こんな裏があるとは。
このことを世間に言ったところで殺されるだけか
「…」
…この人、とても美しい…
綺麗な金色の髪、透き通った赤色の目。整っている顔。
俺には彼女が世界で一番美しい女性に見えた。
何でこんな人がこんな所にいるのだろう、
何故か分からないけどすごい惹かれる人だなぁ、、
「…貴方っ、私に何する気なの?」
彼女、声が震えている。政府の奴隷だから当たり前か。
にこっと微笑んで話しかけた。
「いえ、私はここの見張りをするだけの護衛人です。何も危害は加えません。」
こちらを睨むような目で見つめている彼女。
あぁ、何て美しいんだ。俺はこの人に恋をしてしまったのか?いや、今はそんなこと考えている場合じゃないな、仕事に取り掛かろう。
「…では、もう行きますので。」
「…」
仕事が終わり、地上に戻ろうとしたその時、
「ね、ねぇ…さっきの貴方、」
先ほどの美しい女性が話しかけてきた。
「…どうしましたか?」
彼女が警戒しながら話し始めた。
「貴方、私に危害を加えないって…本当なの?」
俺は驚いた。政府の奴隷でありながら、護衛人に話しかけるなんて。
俺がもし奴隷だったら誰一人として信用しないけどな。
「よく私のことを怖がりませんね。確かに私が貴方に危害を加えないのは事実ですよ。それがどうかしましたか?」
「…」
「もしそれが本当なら、私は嬉しいわ。ただそれだけなの。ただ、それだけのことなの。」
俺はこの時の彼女の笑顔が忘れられない。俺は完全にこの女性に恋をしてしまった。してはいけない恋をしてしまったんだ。
俺はそれから、彼女と交友関係を持った。
彼女の名前は「カーラ•フェルナンド」
現在30歳だそうだ。30歳であの美しさ、何て人なのだろう。
俺はますます彼女に見惚れてしまった。
その後も彼女と話をし、分かったことがある。
彼女は、自分の美しさが原因で暁月屋敷地下牢に入れられることとなったらしい。
暁月家の上の人間の相手、暴力など、いろいろなことを受けてきたらしい。
彼女と交友関係を持つにあたって、奴隷の女性と仲良く話しているのが先輩たちに不満らしく、時々上の人間に消されそうになったこともある。
その時は俺も流石にやばいと思った。
あ、これ死ぬなってね。まぁ今も生きてるんだけどね。
〜今から9年前〜
ついにその事件は起こった。のちにその事件は「暁月家虐殺事件」と呼ばれ、世界中で話題となった事件となる。
何で起こってしまったのか、何で止められなかったのか。
「…助け、てくれ。死にたくな、っっあ”あ”あぁっ”?!」
鳴り響くたくさんの人の叫び声。死体で溢れる暁月屋敷。まさにその日は街中が赤く染まった。
この事件を巻き起こした人物、それは、
「ヘレナ」だ。
彼女は俺の愛人、カーラと同じく政府の奴隷でこの暁月屋敷地下牢に入れられていた15歳の少女だ。
事件を起こしたヘレナという少女、どことなくカーラに似た雰囲気だと感じた。
「やめて、こないで、!!っっ!!い”や”っ”!い、やっ…」
また一人、死人が出る。そしてまた一人。
一体何人もの人間が死に至ったのだろう。
「…私はなぜこの世に存在している?なぜ、」
「なぜなんだ、何で私は、…。」
彼女はそう言いながら次々人を殺していった。
「私を産んだのは、あいつか…。」
「あいつが私を産まなければ、私はこんなに辛い思いをしなかったはずだ。」
「あいつのせいで、私は…私はっっ!!」
ヘレナは一人の女性を探して歩き回る。
そして、
「見つけたぞ。私の母親、カーラ•フェルナンド。」
そう、ヘレナの母親は、俺の愛人のカーラだった。
「ごめんね、私が政府の奴隷になって…誰かもわからない男との子供を産んで、そして、貴方を辛い目に合わせてしまって…ごめんね。」
「ヘレナ、私は貴方のことを愛しているの。誰との子か分からない子供でも、貴方は私の子だから。私を憎んだっていい。私を殺したって、貴方の恨みが少しでも晴れるなら、それでいいわ。」
「…ただ一つだけ。死ぬ前に会いたい人がいるの。」
ヘレナは答えた。
「そんなことをしても無駄だ。死ぬ前に会いたい人がいる?会ったところで、お前の死を見て絶望するだけだ。」
「私は今すぐにお前を殺したい。この欲望を抑えることはできない。」
カーラは諦めたような顔でヘレナに向かって微笑んだ。
そして言った。
「分かったわ。こんなダメな母親だけど、私は貴方を愛していたわ。」
カーラは死んだ。俺がそれを実際に知ったのは、彼女の死体を見てからだった。
彼女の死に顔は、俺が初めて見た彼女の笑顔とそっくりだった、
どんなことを思って殺されたのだろう?
俺はカーラを守れなかった。守れなかったんだ。情けない、自分が憎い、俺は…。
俺は運良くヘレナに見つからずに生き延びることができた。
〜今から9年前〜
私の名前は暁月叶芽《あかつきかなめ》
暁月家最高権力者の暁月元ニの娘だ。
私には「命令•契約」という能力がある。命令は眼前の対象に命令を実行させることができ、 契約は相手の願いを叶える代わりにそれなりの代償を与えるというものだ。
この能力は使える能力ではあるが、お父様にあまり使うなと言われているので最近は使っていない。
だが、本当にいいものだ。気分がいい。能力を使うと、皆私の命令に素直に従う。契約を結ぶと、皆私のことを信用してくれる。
私にぴったりの能力だ。
だが、お父様もお母様も私にはあまり興味がないみたいだ。二人はいつも地下で何かをしている。
使用人に話を聞いてみたが、お父様に口を封じられているのか、曖昧な答えしか返ってこなかった。
この時、私はお父様の命令に背いて能力を使えば良かったのだ。能力を使えば、すぐにでも分かったのに。
ある日、事件が起こった。暁月屋敷が一人の少女によって崩壊状態になったのだ。屋敷にいた人間は皆死に、屋敷に残ったのは私くらいしかいなかった。
私は驚いた。帰ったら、屋敷がやけに静かだったからだ。
何歩か歩いたところで酷い光景を見た。
人が死んでいた。
生まれて初めて見た光景だ。
私はとても驚いた。何が起きたのかすぐには分からなかったため、お父様とお母様の部屋へと向かった。
そして、
「…お父様?お母様?」
二人はすでに生き絶えていた。
両親が殺された。一人の少女によって。
私は泣いた。悲しかったのだろう。
…悲しかったのか?今でも分からない。
なぜ私は泣いたのだろうか。
そんな中私は気づいた。
(地下に行って何があるのか調べよう。もうこの世にお父様とお母様、使用人も、誰一人いない。この屋敷には私一人だけだ。)
そして屋敷地下へと向かった。
そこで見たものは、想像以上のものだった。
「…奴隷?ここは、奴隷用の牢屋、と言ったところか。」
正直、暁月家は国民からの信頼が強く裏などない政府だと思っていたのだが、
「…実験室?何を実験していたのだろう?
他にも部屋がたくさん、」
実験室では、おそらく奴隷などを使って生物実験でもしていたのだろう、
今この屋敷では、私ただ一人。そう、ただ一人だけ。
つまり、この暁月屋敷を支配することができるのは私だけだ。
今、私はとても気分がいい。この屋敷を自分の手で支配できるからだ。
この屋敷を支配できるということは、私が玲国の最高権力者になるということだ。
両親が死んだことなどもうどうでもいい。
それくらい私は嬉しかったのだ。
その時誰か生きている人間を見た気がしたが、気のせいだろう。
〜現在〜
舞条優吾は暁月家最高責任者となり、暁月叶芽は暁月家の最高権力者となった。
二人のそれぞれの夢は惜しくも異なっている。
舞条優吾は愛人を殺したヘレナ、および全人魔をこの世から消すこと。
暁月叶芽は、その逆といったところだ。
この二人の関係は、他人のようで深い繋がりがある、簡単には表しにくい関係なのだ。
〜暁月家虐殺事件記録、end〜
※暁月家虐殺事件とは
人魔化の全ての始まりの事件。
この日から人魔が増え始めた。
舞条の愛人と叶芽の両親が亡くなった事件。
◯時系列
11年前
舞条優吾 25歳
カーラ•フェルナンド 30歳
ヘレナ•フェルナンド 13歳
暁月叶芽 13歳
9年前
舞条優吾 27歳
カーラ•フェルナンド 32歳
ヘレナ•フェルナンド 15歳
暁月叶芽 15歳
現在
舞条優吾 36歳
ヘレナ•フェルナンド 24歳
(見た目は15歳のまま)
暁月叶芽 24歳
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