サニー号の甲板に、ゆるやかな潮風が吹いていた。朝日が昇りきり、海の青がはっきりと広がる時間帯。ダイニングからは朝食の香りが漂い、ナミやロビンの会話がかすかに聞こえてくる。
ゾロは、甲板の端で剣の手入れを終え、静かに腰を下ろした。昨晩の鍛錬で少し寝つきが悪かったせいか、まだ身体が完全には目覚めていない。そんなところへ、コーヒーの香ばしい匂いとともに、サンジが現れる。
「ほらよ」
ゾロの横に、無言でコーヒーのマグカップが置かれた。驚いて顔を上げると、サンジはすでに隣に腰を下ろしていた。
「……何だ、毒でも入ってんのか?」
「バカか。キッチンに顔出さねぇお前のために、わざわざ持ってきてやったんだよ。」
サンジは自分のカップを傾けながら、ちらりとダイニングの方を見る。ナミとロビンが食卓で談笑し、チョッパーははしゃぎながらパンを頬張っているのが見えた。ブルックの陽気な笑い声も聞こえる。
「……珍しいな。」ゾロはぼそりと言った。
「は?」
「てめぇがわざわざキッチンを離れるなんてな。」
サンジは一瞬動きを止めたが、すぐに鼻で笑った。
「たまにはな。」
ゾロは何も言わず、目の前のコーヒーを手に取った。湯気の立つそれを、一口飲む。ほろ苦さの奥に、微かに甘みを感じた。
「……意外と悪くねぇな。」
「当然だろ。おれの淹れるコーヒーに文句つける気か?」
サンジはそう言いながら、もう一口コーヒーを飲む。ゾロはその横顔をちらりと見た。
「……ま、たまには悪くねぇ。」
その時、遠くから甲板に響く声があった。
「サンジー!飯ーッ!」
ルフィの声だ。起き抜けのだるそうな響きに、ゾロが呆れたように鼻を鳴らす。
サンジはふっと口元を緩めた。
「起きてきたか……おれァ戻る。そうだ、お前もついでに飯食いに来い。」
ゾロは短く「ふん」と鼻を鳴らし、手元のカップを見つめた。まだ半分ほど残っている。
「……今行く。」
サンジは何も言わず、ただ軽く手を振ると、キッチンへと戻っていった。 ゾロは少し遅れて立ち上がり、マグカップを持ったまま朝の空を見上げた。太陽はすっかり昇り、今日も暑くなりそうだった。
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