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標的の魔物を倒したレインは、街へと戻っていた。

向かうは魔物狩り組合。倒した魔物の魔石を納品し、依頼の達成金を受け取るためだ。

「おい…アイツだ。目を合わせるなよ。何されるかわかんねーからな」

「えっ?あんなヒョロい奴がですか?俺でも倒せそうっすよ?」

「馬鹿言うな。アイツは誰とも組まずソロでシルバーランクになった奴だ。強さは間違いないが、それよりもやべーのが、躊躇がないところだ」

「そうなんすね…。俄には信じられねーっすけど、わかりました」

レインはお尋ね者というわけではないが、素行不良者として、この街の魔物狩りで有名だった。

素行不良の主な理由は、話し合いなどなく、気に入らない事は全て力で解決しようとするからである。

この世界の…いや、底辺職である魔物狩りでは、暴力は見過ごされている節がある。

正義感の強い者達も多いが、個人で取り締まれるものでも無い。

そんな無法地帯な魔物狩りの中であっても、レインは別格だった。



ある日、この街にやって来たばかりのレインに絡んだ男がいた。

魔物狩りではよくあるルーキーの洗礼とも呼ばれる、先輩からの絡みだ。

その男も周りに格好つけようと、レインに絡み、パシらせようとした。

が、レインは何も言葉を返さずに、その剣を振るった。

男の右腕は肘の先から飛んでいき、痛みのあまり地べたを転げ回った。

幸いな事に一命は取り留めたが、男の腕が元に戻る事はなかった。



それがレインのこの街での、初顔見せとなったのだ。

もしその男が死んでいれば、レインは殺人犯としてお尋ね者になるが、その事さえも気にした素振りは見せなかった。

有名な魔物狩りや騎士・剣士などには、通り名や二つ名という世間が勝手に呼ぶ名がつくことがある。

有名な二つ名では『ドラゴンスレイヤー』など、その武勇を誇るモノが多い。しかし、レインに付けられた二つ名は『無慈悲』、または『怪物』であった。




「お帰りなさいませ、レイン様」

「「お帰りなさいませ」」

魔物狩り組合を後にしたレインは、街外れにある一軒家へと辿り着いていた。

そこは借家であり、借主はレインである。

中に入ると扇状的な装いの美女・美少女達三人がレインを迎え入れた。

その表情は誰が見ても媚を売るモノであり、親愛や情愛などは微塵も感じ取ることが出来なかった。

「お湯加減は如何でしょうか?」

レインは少女達の挨拶に応えることなく家へと入り、リビングに棒立ちとなる。

これは身体を拭けという無言の合図である。

少女達は慣れたモノで、すでに沸かせてあった湯を桶に汲み、布を浸してキツく絞る。そして他の者達がレインの服を脱がせ、流れる動作で身体を拭いた。

もちろんお湯加減を聞いたところでレインが答えるわけもなく。

身体を隅々まで拭いた所で、桶を片付ける者と、部屋着を着させる者とに分かれ、次の準備に取り掛かった。






翌朝。ボロ雑巾のように扱われ、汚れた少女達を家に残し、レインは今日も魔物狩り組合を目指した。

組合の入り口に着くと大剣が邪魔をする為、背中から鞘ごと抜き取り、左手に持つ。

そしてレインが組合に入ると、賑わいを見せていた組合内は静けさが支配する。依頼を受けるため受付に並んでいた魔物狩り達は、モーゼの十戒の一節ように割れ、その道を開けた。

いつも見る光景にレインは疑いもせず、その道を感情の窺えない表情で歩く。

しかし、最近では起こらなかった出来事が今日は起きた。

ザッ。

昨日、先輩魔物狩りからレインの噂を聞いていた少年が、その道を塞いだのだ。

少年は近隣の村の出身。その大柄な身体のお陰で将来を約束されていたかと思ったが、頭の方が足りず、騎士にはなれなかった。

魔物狩りの半数は騎士への道を絶たれた者達だ。そういった者は志も相応に高い。

騎士は庶民の憧れであり、功績次第では貴族になれることもある、人気の職業だ。

騎士になるには基本的に文武両道でなければならないが、時々過ぎた武を持つものは周りを乱すという理由で落とされることもあるという。

この少年は単純に文が足りなかっただけではあるが。

「おいっ!順番を守れよ!みんな早く仕事に行きたいのは一緒なんだよっ!」

少年は当たり前の事を当たり前に主張した。

普段感情を見せないレインに変化が起きるが、誰も気づかない。

「ぅ…せぇ」

「あん?なんだよ!言いたいことがあ・・・」

ガシャンッ

レインの剣の柄頭が少年の鳩尾みぞおちに入った。

何が起きたのか視認出来たものは居ないが、レインが左手で鞘を前方に押し出した格好を見て、事の起因を把握した。

体格が劣るレビンの小さな動きとは裏腹に、少年は身体をくの字に曲げ、受付カウンターを破壊し、漸くその身を横たえることが出来た。

口から血が混じった泡を吐き、意識なく痙攣する少年を助ける者はいない。

何がレインの琴線に触れるのかわからないからだ。

誰も近寄らない少年に唯一近づく者がいた。レインだ。

「ま、待ってくれ」

先日、少年にレインの事を教えた魔物狩りの男が、制止の声を絞り出す。しかし、その声はレインには届かない。

少年にトドメを与える為に近づいているのだと、周りの者達は息を呑む。

だが、周りの予想とは裏腹に、レインは壊れたカウンターの前で足を止めた。

「昨日と同じような依頼はあるか?」

まるで何事もなかったかのように、受付に問うレイン。

受付は先日の女性。

「あ、あります!これが依頼書です!」

焦った受付の女性は、すでに別の魔物狩りから受理をしていた依頼書を、レインに見せる。

「……わかった。これを受ける」

「は、はいっ!よろしくお願いします」

その言葉に応えることなく、レインは魔物狩り組合を後にする。

残されたのは、壊れたカウンターと時が止まったかのように誰も動かない、動けない魔物狩り達だけだった。

その中でいち早く動けたのは、少年の知り合いの魔物狩り。すぐに少年を担ぎ上げ、組合を飛び出していった。

向かう先は恐らく治療院だろう。間に合うかは不明である。

次に動いたのは別の受付。

「だ、大丈夫?」

「う、うん。何あれ…」

レインを担当した受付嬢を心配して声をかける。彼女達はここに入りまだ日が浅い。レインという怪物を知らなかったのだ。

レインのことを、薄気味悪い普通の魔物狩りだと思っていたようだ。

「でも、大丈夫なの?あの依頼、別のシルバーランクの魔物狩りの人達が受けてたよね?」

「……あの人達、私に興味深々だったから……一度身体を許せば、許してくれるよね?」

「あまり安売りは感心しないけど、それしか無いよね」

ただの受付は無力だ。特に高ランクの魔物狩りに対しては。

この受付の安易な解決策が、この街の魔物狩り組合を揺るがすこととなる。

日常が造った怪物

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