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フェルトの子供らしいまっすぐさと、ラインハルトの震えるような不安がとても丁寧に描かれていて、ぐっと引き込まれました。亜人と人間の複雑さを背景に、それでも手を差し伸べたくなる気持ちがじんわり伝わってきます。最後の「ありがとね」に、あの日の出会いがどれほど大切だったかが詰まっていて、胸が温かくなりました🌷
フェルト視点
まだアタシが5歳そこらの子供の頃、盗みの帰り道に赤髪碧眼の亜人を拾った。
自分より身長が高く10歳ほどに見えたが、歳下のアタシに対しても怯えた様子だったのは覚えている。
狼に近い耳と、尻尾。人間の体に動物の特徴がある種族、所謂「亜人」。
普段は気にも留めないが、痩せた体に諦めた碧い瞳に、その時ばかりはどうにも無視できなかった
「おい、そこの」
声をかけるとそいつは顔を上げ、何度か瞬きを繰り返す。
『…どうしたの』
「おまえ家は?親は?」
『…いない』
「んじゃアタシんとこくるか?人足りなくてさ、こいよ」
『…君、子供しょ?僕と一緒にいるとダメだよ』
今思えばアタシの身を案じていたのだと分かるが、当時の自分は否定された感じがして、無性に苛立った。
幼少期の自分は、今の自分にとって1番理解できない存在だ。
「なんでだよ、死にそうなくせに」
無理矢理そいつの手首を掴み、有無を言わせず盗品蔵へ向かった。
立ち上がらせる際、一瞬そいつが岩のように重かった。
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「ロム爺!亜人拾ってきた!」
大声を上げて入ると、「巨人族」の2m近い大男が奥から現れる。
親代わりとして物心ついた頃から世話してくれて、爺ちゃんみたいな存在。どうやら生みの親から引き取ったらしい。
アタシとそいつの姿を視界に入れると、ロム爺は眉を上げ目を見開いていた。
『…何があって亜人を連れて来るんじゃ?』
「帰ってたら見つけた」
『ペットじゃないんだぞ』
「別にいいじゃん、「犬の手も借りたい」つってたし」
『「猫の手も借りたい」と言ったんじゃ。それにあくまで比喩で言ったんであってな…』
ロム爺は何か言おうとしていたが、全身傷だらけのそいつを見ると何か察したのか、それ以上追求せず息を深く吐いた。
『…今、飯を用意してやるから待ってろ』
ロム爺が奥に引っ込むと、赤髪のそいつはアタシに声をかけた。恐る恐ると言った表情。顔には不安と混乱など、色々な感情が混じっていた。
当然だ、歳下のチビに話しかけられたと思ったら突然手を掴まれ、知らない場所、知らない人物がいる所へ連れて来られたのだから。
『…ねぇ、あの…』
まず何から聞けば良いのか分からないと言った様子で、扉と床の境界線を見下ろしていた。
「ここはアタシの家、んでさっきのデカい奴はロム爺って言う」
『いや、そう言うことじゃなくて…』
「じゃあなんだよ、言えよ」
『…えっと、何で僕をここに…』
何か言いかけたが、『フェルト!机の用意をしてくれ!』と伝えるロム爺の大声で掻き消され、アタシは「はーい!」と返事をし掴んでいる手を引っ張る。
「ほら、おまえも手伝え」
そいつは少しの間黙り込んだ後、『分かった』と言い中に入った
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「おまえはあっち持て、アタシはこっち持つから」
壁にかけられている机に近づき、手を離し指を指して指示する。そいつは大人しく従い、反対側まで移動し机の端を両手で掴んだ。
「いっせーのーせっ…!」
掛け声と共に当時のアタシにとっては重い机を、そいつは軽々持っていた。ロム爺がアタシにでも合うようにと、ロム爺の体には小さく、アタシの体には大きい机を作ってくれたものだ。
だが、5歳には丸太を持つのと同じこと。
机を運び終えるとそいつはアタシの側へ戻り、言いかけた言葉を再び聞こうと軽く肩を叩く。
『…ねぇ、さっきのことで…』
「あっ!そう言えばおまえの名前聞いてなかったな!なんて言うんだ?」
『え?…あの、それより』
「アタシはフェルト、おまえは?」
『…ラインハルト』
「へー、なげー名前だな。らいんはと?」
『…「ラインハルト」だよ』
「あいんはうと…らいーはうと…」
口で覚えようと反芻するアタシを見て、聞こうにも聞けず見下ろしていたラインハルトは、いつ思い出しても不憫だった。
簡単な料理を乗せた小皿を三人分持ち、奥からロム爺が戻って来る。
「ロム爺!こいつ「らいんはうと」って言うらしいぞ!」
『…ラインハルト、です』
『間違ってるじゃねぇかフェルト』
「うるせ!どっちも一緒だろ!」
机の上の料理を見て床に座り、料理に手をつけ始めるが立ったまま見下ろすラインハルトを見上げ、手首を掴んで座らせる。
『…ラインハルト、だな?食べ終わってから話を聞こう。まずは食え』
『…ありがとう、ございます』
俯いたままのラインハルトは、スプーンに手を伸ばし恐る恐る食べ始めた
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ラインハルトはロム爺に何度も視線を向けながら、目の前の飯を食べ進める。名も知らぬ場所に加え、自分の身長の二倍はある男に見下ろされている、普通は警戒もするものだ。
「ごちそーさま!」
料理を平らげ、スプーンを皿の上に置く。アタシが食べ終わった時には既に二人の皿は空で、ロム爺がラインハルトと話をしていた。真剣な雰囲気で、ロム爺はできる限りストレスを与えないように力を抜いて話し、ラインハルトの表情を何度も伺っていたのを覚えている。
『…お前さん、親はいるのか』
『…いますが、追い出されてしまって…』
『その耳と尻尾は、生まれつきか?』
『いえ、先祖返りで…両親は人間です』
『…帰るアテはあるのか』
『…ないです』
「なぁ、なんの話してんだ?」
好奇心から聞いたが、ラインハルトはこちらに顔を向け困ったように見つめ、ロム爺は何と言うか考えている様子だった。
『…フェルトにはちっと早い話だ』
「はぁ?なんでだよ、ちょっとは教えろよ」
『…亜人と人間の話じゃよ。複雑なやつだ』
ロム爺の曖昧で隠そうとする姿勢に、腹が立った。疎外感を覚え、まるで自分じゃ分からないと言われたような言葉。
亜人と人間が昔にどんな戦争をして、未だ受け入れられない者もいるのか、その時のアタシには重かったのだろう。説明しようとはしなかった。
ラインハルトも亜人と人間の歴史は知らない様子だったが、自分の両親の態度から何となく察していたと思う。ロム爺も同じ「亜人」として、同情のようなものを抱いていた気がした。
『…お前さん、力仕事はいけるか?』
『?…はい、それなりには』
『んじゃあ、うちの盗品蔵手伝え。フェルトの監視も任せたいんだが…』
『…え?』
その時ラインハルトが出した声は、現在の本人に聞いても人生で1番間抜けな声を出していた。口は小さく開いたままで、目を丸くしていた。
「ロム爺!こいつ住ませても良いのか!?」
『人手が足りんからな、合理的にいかんと』
『…良いんですか?』
『一人増えたところで変わらん』
ラインハルトは口を小さく開き、何かを言おうとして閉じた。眉は僅かに寄り、視線は机へ落ちている。怒っているようには見えなかった。今にも誰かに謝りそうな、見えない何かに責められ耐えているような顔をしていた。
当時のアタシには意味なんて分からなかったが、今なら少しだけ分かる気がする
『…僕、亜人ですよ』
『儂も同じだ』
「ロム爺巨人族だからな!めっちゃでけーし力もあるんだよ!」
『…加護もある、危険な亜人なんですよ』
「そんときはアタシが殴って止めてやるよ!」
『むしろプラスじゃ、フェルトが暴走しても止められそうだしな』
「ロム爺!!」
ぺしぺしと向かいの大笑いしているロム爺を叩き、「そこまで幼くないよな」と聞こうとし、視線をロム爺からラインハルトに移す。
「おまえもなんとか…」
言いかけて、止まった。肩が小さく震え、目には今にも溢してしまう涙が溜められている。何度か鼻を啜ってから、ラインハルトはやっと口を開く。
『…ありがとう、ございます…』
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??????視点
『あの時のお前、めっちゃ泣いてたよな?』
「ちょっと、揶揄わないでよ。あの頃はまだ子供だったから仕方ないでしょ?」
『今でも偶に子供だろ』
「フェルトほどではないかな」
『誰がガキだ誰が!』
尻尾を左右に一定のペースで揺らし、口元を隠して笑う。本気で怒っているわけではなく、呆れに近い感情に見えた。
『お前ほんと、歳上だからって舐めやがってよ…』
「別に舐めてるつもりはないよ?」
『顔見れば分かるわ!』
フェルトは自分を見上げ、恨めしそうに文句を言っていた。
『フェルト!ちょいとこっちに来てくれ!』
奥からロム爺がフェルトを呼び、フェルトは『わーった!』と軽く返事をし奥へ向かう。
「…拾ってくれてありがとね」
僕は独り言にすらならない声量で呟き、フェルトの背中を見つめた
『あ?なんか言ったか?』
向かっていた足を止め、こちらを振り返る。黒いリボンで結んだ髪が翻り、独り言とも認識していない様子で赤い瞳をぱちくり瞬かせる
「…何も言ってないよ、それより速く行かなきゃじゃない?」
彼女は一瞬、口を開きかけたが、すぐにロム爺の方に行った