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仕事終わり、今年もラストまで働いた人たちはケーキとシャンメリーで乾杯だ。矢田さんは彼氏が迎えに来るらしく、ケーキは持って帰るとはしゃいでいた。俺は持ち帰り用のショートケーキにフィルムを巻く。
「結子さん、すっごく可愛かったね。彼氏さんと上手くいくといいなぁ」
「そうっすね」
「あれー? 反応薄い」
「反応って……。矢田さん、俺に何を求めてます?」
「え、だって……」
矢田さんはキョロキョロとまわりを確認してから声を潜めて俺に近づいた。内緒話をするように、耳元で囁かれる。
「遥人くん、結子さんのこと好きでしょ?」
「……は?」
反応するのにたっぷり数秒はかかった。なんだなんだ、どこをどうしたら俺が畑中さんを好きだということになるんだ。お前の目は節穴かと言いたくなるくらいに虚をつかれた。
「なんでそうなるんです?」
「違うの? だって遥人くん結子さんに懐いてるじゃん」
「懐く……」
ちょっと矢田さんの言っていることが意味不明。畑中さんに懐いているのは矢田さんの方なのでは?
「結子さんがもし別れちゃったら慰めてあげてね」
「はあ、まあ、そりゃ……」
慰めるって、矢田さんの言う慰めるって純粋な慰める意味だと思うけれど、なぜか邪な考えが頭をちらついた。……なんでだよ。自分に突っ込む。
そうこうしていると、ものすごくゾワッとする視線を感じて顔を上げる。店の外に男性のシルエット。ガラス張りだからよく見えるのだろう。うわー、最悪だ。俺は矢田さんから一歩距離を取る。
「矢田さん、彼氏迎えに来たんじゃ?」
「え? あっ、ほんとだ!」
ぱあっと花が咲いたかのように笑顔になった矢田さんは、幸せオーラを振りまきながら彼氏のもとにとんでいった。
矢田さんの彼氏は矢田さんが好きすぎて俺に牽制してくるくらいの人。俺と矢田さんは何でもないっていうのに、嫉妬深すぎるだろう。
ていうか、だ。畑中さんは俺が矢田さんを好きだって言うし(あながち間違いではなかったけど、もうその気持ちは卒業)、矢田さんは俺が畑中さんを好きだって言うし、矢田さんの彼氏は俺に牽制してくるし……一体俺を何だと思ってるんだ。