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ナイトレイブンカレッジ卒業後の5年間で、将来のことについて母親とぶつかるにぶつかりまくって、気がつけば自分のアイデンティティーが散らばっていたと思う。 ようやく自分らしさを見つけられたと言うのに、やり直しだ。
だけど、前とは違って、散らばっていったアイデンティティーがボクの気づかないところで形になってボクを見ているように思う。今となって、自分らしさを手に入れたボクは、言い方を変えればアイデンティティーの存在を知ったということ。
しらないこと、わからないことは形にすることができない。知っていること、わかることはいくらだって形にすることができる。
わかりやすく例をあげるなら、スポーツはルールさえ知って入れば、経験が少しでもあれば、実力がなくてもプレイすることができるということ。質になるか物になるかの違いだと思う。
自分らしい自分と自分らしさを失った自分。
どちらも大切な自分だけど、どちらも他人事。お互いを一人として認識している。
***
夜が近く海は、夜空を飲み込んだように星が無数に輝いていた。やがて、月が顔を出し、星よりも明るい光で輝く。ふと、水面に影が伸びた。
「あれぇ?金魚ちゃんじゃん。こんなとこでどしたの?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
水面に顔を出しているその正体に少しだけ安堵し、声を返した。
「やあ、フロイド。キミは何も変わらないね」
「それ褒めてる?」
ボクの少し弾んだ声と返答に少し不満を感じたフロイドが、頬を膨らませ、ふてくされた。
久しぶりに会えた喜びや安心感で気が緩んだのだ。そんなボクに疑問符を浮かべるフロイド。気に入らなかったのか、ボクの手を引いて海へ引き込んだ。
まだ少しばかり冷たい海。なぜだか心にシンと沁みた。
「フロイド!?」
水面から顔を出し、先ほどとは打って変わって、驚きの声をあげた。
引き込んだ本人は楽しそうに笑っている。
「金魚ちゃん一緒に泳ご〜?」
バシャン!
とフロイドが水面を跳ねた。その時できた光を纏った水しぶきが時間をかけて落ちるのを見た。星よりも、月よりも綺麗だった。
不自由さを感じない綺麗さに、言葉を失ってしまった。
「うん。」
ようやく声が出た頃には、フロイドに手を引かれ泳いでいた。
何気ない日々の夜に、ひょんなことから迷いこんだ海には、見慣れたものは何一つないな。
だんだんと光が届かなくなり、周りの景色も見えなくなる。ボクの心の中みたいだなとか思いつつふと隣をみると、フロイドが淡い光を纏った。
「迷子になってもオレが見つけてあげんね」
「じゃあ、どうやってボクの居場所に気づかせよう」
いたずらっ子みたいに笑った。見つけてもらえるかもって思ったら嬉しくなったんだ。
〜〜〜
オレはいつだって、誰よりも先に異変に気づく。日に日にストレスが溜まっていくこと、疲れていくこと。
金魚ちゃんてさ、顔見なくてもわかるんだよ。声で。金魚ちゃんは一人じゃないんだよ?
だから金魚ちゃんが手を挙げて叫んでいるのもだれかがきっと見ているから。
どうしてそんなに我慢すんの?誰も怒らねーのに。
「怖がらないで」
金魚ちゃんの苦しい思い、辛い思い、悲しい思い、一人で抱え込まないで。力になってくれる人がっ絶対にいるんだよ。
自分を犠牲にしないで。
貴方は貴方の生命だけを輝かせて。
だから、どうしてそんなに一人で抱え込みたがるのか理解できない。なんで助けを求めないのか、そんなんじゃいつまでたっても見つけてあげられないじゃん。ヒントの一つぐらいくれないと、また見失ってしまう。だから一人にならないで。
金魚ちゃんと一緒に海を泳いだ日から数日、今日はたまたま陸に用事があって、たまたま金魚ちゃんを見かけた。明らかに疲労が表情に滲んでいる。隣にいる、金魚ちゃんに似ている女性は金魚ちゃんの母親だろうか。
(あぁ、これね)
見つけてしまえば、後はとても簡単だ。
***
気がつけばまた海に来ていた。目的はないと思う。
でも、ここにくればフロイドに会える気がして。自由でか客観的な意見が聞ける気がして。
水面をただ静かに眺めた。波の音が遠くに聞こえる。潮風が少し肌寒い。昼間は真夏らしい日差しで、とても暑かったのに、それが嘘のように、夜は涼しい。
水面が小さく波打つ。
「フロイド、今日はやけに静かだね」
そう呟いてから、顔を上げた。いつもと違って、真剣な顔をしたフロイドがそこにいる。
どうしたのか聞く前に、フロイドが手を伸ばした。「一緒に泳ごう」と言っているのだろうか。何も言葉を発さないフロイドに戸惑いつつ、その手をとった。
瞬間、勢いよく海に引き摺り込まれた。楽しそうな、嬉しそうな笑い声が聞こえる。無意識につぶっていた目を開けた。心底嬉しそうな、でも安堵しているようなフロイドが笑う。
「見つけたぁ」
花が咲いたかのような見事な笑みだった。
そんな顔を見てしまったら、堪えることをやめてしまう。溜め込んだ、抱え込んだ涙を溢れさせる。
いつだって、ボクの知らないところでキミは、ボクを見つけてくれる。案内してくれる。だから、キミの手を離さずずっとずっと繋いでいたい。光の方へ連れて言ってくれるキミの手を。
ねえ、ボク。いつまで悲しんでいるの?ここでちゃんと見ているから。
もう泣かないで。心の霧が晴れたら、虹の元へ歩いてみよう。
「フロイド、雨が上がったよ」
「よかったね〜」
空が見えたら。
傷が癒えたら。
「「歩いてみよう」」
二人だけで。
母親も入らない海の底で。