杉並区、練馬区区長からの要請があり、内閣に緊急でTFCD(臨時飛行物体対策室)が設立された。会議では現段階での被害の状況やこれからの更なる被害拡大の予想に対策の方法、諸外国への通達や応援要請の是非、そして未確認飛行物体に対する命名などが行われた。その飛行体はΛ字を描いて飛行し、レーザーのようなものを弾丸状に発射することから「Λバレット」と名付けられた。しかし、命名以外に、話はなかなか進んでいなかった。
Λバレット。出どころ不明。謎の飛行物体。この一日で分かったことと言えば、飛ぶことと、レーザーを撃つ事くらいである。レーザーは一回目が発射された丁度十二時間後にもう一度発射された。次からも十二時間置きに発射されるのではないかと考察された。赤外線レーダでは感知できず、人工衛星のカメラから軌跡を見てみても不規則で何処を狙っているのかも不明であった。諸外国でも前例が無く日本で初めて観測された。会議はその後夜遅くまで続いた。
「被害の状況は?」
「はい。本日、午前8時30分2秒に東京都杉並区上空でのΛバレットから第1回目レーザー発射がありました。そして、同日、午後8時30分7秒に同じく東京都は練馬区の上空で第2回目の射撃を確認。自衛隊に依頼した捜索隊の捜索の結果では、建物の一部破壊や停電などが起きているそうですが、断水は起きていないそうです。怪我人や死亡者の確認はまだ出来ておりません」
「ちょうど12時間、か」
「はい。1回目が午前8時30分2秒に、2回目が午後8時30分7秒です」
「明日の朝も8時半に来そうだな・・・」
「5秒のずれがありますが、誤差の範囲と考えられます。その可能性も十分にあるかと」
「被害は今の所特別大きい訳ではないのか?」
「建物が全壊、倒壊したり、火災が起きたりなどの重大な被害は未だ起きていないようです。建物の部分的な破壊や近辺の停電が今の主な被害です」
「何が狙いなんだ・・・?奴は今はどこにいる?」
「はい。只今、東京都練馬区の西側上空を飛行しています。今後どこに向かって移動するかは不明ですが、ここ2時間、ずっと停滞しています」
「なるほど。・・・では、明日の朝に向けて、Λバレットに対する撃退の作戦を計画する──」
日も跨ぎ、夜中も遅くなった。遂に、撃退の方法の会議に移行した。時間や撃退方法など、細かに定められた。
「──では、最後にもう一度確認します。この任務を『北豊島Λバレット撃退任務』と命名。本日午前4時0分より、朝霞駐屯地から16式機動戦闘車、87式偵察警戒車、96式装輪装甲車、軽装甲機動車、そして霞ヶ浦駐屯地からAH-64Dを、東京都練馬区、立野公園へ配備を開始。午前5時30分、集合完了。安全確認の後、午前5時45分、射撃配置。午前5時50分、装備の最終確認、点検。午前6時0分、任務開始。まず、中央即応連隊が残った近隣住民を避難させます。その後、周囲の安全を確保した上で任務遂行。制限時間はΛバレットのレーザー発射予測時間を鑑みて一次制限を午前7時50分までとし、長引いた場合、二次制限を午前8時15分とし、以って任務は完全に終了とし、装備等、駐屯地へ帰投します。以上です」
「よし。明確なデータがあるわけではないが恐らく8時半にもう一度来るだろう。それまでに奴を必ずダウンさせるぞ。では、杉並区、練馬区、そして防衛省、陸上自衛隊等、各機関に連絡をしておけ」
「承知致しました」
時計の短針は2時を指していた。