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卒業式の日の、佐野さんと吉田さんの話。
学パロです
アルバムの最後のページがカラフルな文字で埋まる。
だるかったはずの高校生活も気付けば終わりに近ずいていた。
「はい。ありがとね、よっしー」
「こちらこそ。ありがと、柔太朗」
そう言って返されたアルバムの端を見ると、相変わらず少し崩れた文字と間違えた漢字の並んだメッセージが目に入る。
「なんて書いてあんだよ」なんて笑いあっていたら、突然廊下から名前を呼ばれた。
振り返るとアルバムを持ちながら大きく手を振っている別クラスの勇斗が見えた。
さっきまではクラスの人達に囲まれていたのに、抜け出せたのだろうか。
「行ってきなよ」
「うん」
そう言って机の上のペンとアルバムを手に取る。
「……よっしーさ、」
「ん?」
しばらくの沈黙のあと、柔太朗がおそるおそる口を開く。
「卒業式の日、すぐに帰らないであげてね」
「?うん」
唐突な発言に頭にハテナを浮かべながらも、一応了承する。
向かった先では勇斗が「遅い」と文句を言っていたが、それは軽くあしらった。
.
卒業式が終わって。
気付けば教室に残ったのは俺と柔太朗だけになった。
先程まで泣きじゃくっていたクラスメイトも、写真を撮りあっていた友達も校庭に出てしまった。
教室の掲示物を見て思う。
案外、呆気ないな。
色んな想いが沢山あるのに、それが溢れては来なかった。でもなんとなく、この教室の空気を感じていたかった。
俺と柔太朗は特に会話をすることもなく、帰ることもなく、ただその空気を感じていた。
ボソッと、柔太朗が呟く。
「遅いな…」
「誰か待ち?」
「んー、まぁ」
「そ。」
それだけで会話は終わってしまう。
十分にこの空気を感じたら、今度は校庭の友達に会いに行こうとカバンを持つ。
柔太朗から、「どこ行くの」と聞かれたとき、答えるより先に廊下からバタバタと音がした。
「仁人!」
目の前に現れたのは随分と息を切らした勇斗だった。
「勇斗?なにしてんの」
「いや、ちょっと…、」
しばらく勇斗の呼吸が整うのを待っていると、落ちついてきた頃に口を開いた。
「…柔太朗…あのさ」
「はいはい。じゃあね、よっしーも」
「え、どこいくの」
「んー、体育館裏?」
それはもう告白じゃねえか。早く行ってあげろ。
手をヒラヒラとさせて、あっという間に柔太朗は居なくなってしまった。教室に残ったのは俺と勇斗だけ。
「…勇斗も告白された?」
勇斗がクラス、学年問わずモテていたのは有名な話だった。
きっとこんな日には、沢山の告白を受けるのだろう。
「…まぁ、うん」
やっぱりな。
分かりきっていたけど、その事実に少しだけ胸が痛む。そして聞きたくもないのに聞いてしまう。
「……誰か、OKした?」
それを知ってどうするんだ。頭の中は冷静なはずなのに、口は言うことを聞かない。
もうひとりの自分がいるかのような、なんでも言ってしまう厄介な俺がいる。
「っていうか、そりゃするか。うちの女子みんないい人ばっかだもんな。むしろ高校3年間のうちに彼女いなかったのが不思議って言うかさ」
どうしても、勇斗の目を見れなかった。けれど勇斗はじっと俺のことを見ていたのだろうと、何故か伝わる。
俺が一人で突っ走る時、いつもそうだから。
言葉が途切れた時、そっと優しく名前を呼ばれた。
「仁人」
「……あ、ごめん」
「俺、誰もOKしてないんだけど」
「えっ?」
想定外の事実に何も言えなくなる。
その時初めて勇斗の顔を見ると、いつもより少し大人びたような微笑みでこちらを見ていた。
「まぁ、俺好きな人いるし」
「え?」
そんなこと、初めて知った。
今まで所謂恋バナというものをあまりしなかったのもあるが、その素振りを全く見なかった。
なんか悔しいな。知らない勇斗があったの。
「え、まって。じゃあ早く行った方がいいって。帰っちゃったらどうすんの」
「多分帰らないよ」
「どこからの自信?」
「だって俺、ここに告白しに来たんだもん。」
………ん?
「俺のクラス?じゃあもうみんな下行ったよ」
「そうじゃなくてさ」
「え??」
わからない。でも分かってしまう。そういうことになってしまう。でも、分からない。
何も言えないでいると、勇斗はいつもの笑顔でひとしきり笑ったあと、真面目な表情になった。
「わかんない?」
「…うん」
「じゃあ言ってあげるね」
勇斗は大きく息を吸って、聞き逃さないようにハッキリと言った。
「俺の好きな人、仁人だよ。吉田仁人がすき。」
「だから、もしよかったら、俺と付き合ってくれませんか。」
頭が着いていかなくて、言葉にならないような声を漏らす俺の手をそっと取る。
童話の中の王子様のように。
「返事、聞かせて」
こんなキラキラとした顔で言われたら──ううん。勇斗はいつだってキラキラとしていた。
その姿に俺は惹かれていた。
話すだけで、歩くだけで、まるでステージの上に立つアイドルのようなオーラを纏っていた。そんな勇斗が稀に、俺の前でだけ見せる気の抜けた顔だって好きだった。
「…俺も、すき」
返事は自然と口から出ていた。
勇斗はその言葉を聞いて一瞬驚いたように見えたが、すぐに満面の笑みを作ってその場にしゃがみ込んだ。
「はぁぁぁ…よかったぁ………」
全身の力が抜けたのか、しばらく立ち上がらなかった。
かと思えば。俺の手を掴んで上目遣いでこちらを見てくる。
「…じゃあ、俺、仁人の彼氏ってことでいい?」
「…うん。俺も……勇斗の彼氏?」
「あたりまえだろ笑」
そりゃそうか、なんて笑いあったその声は、誰もいない教室で響いた。
.
勇斗の我儘で、恋人繋ぎのまま校舎を歩く。
今までだって一緒にいたのに、やっぱりどこか違うような気がする。
なんだか、むず痒いような。
耐えきれず、うっすらと疑問に思っていたことを聞く。
「俺のこと…その、いつから好きだったの?」
「それ聞いちゃう??」
「え、だめなの?」
「いやいいけどさ、」
と、言ったあと勇斗はしばらく考えた。
なんだよ、覚えてないのか。
「なんか、これ!ってきっかけがあった訳じゃなくて、気付いたら、みたいな。」
「それ気付いたのは?」
「1年。同じクラスだったじゃん?」
「なっがいな」
「俺一途だもん」
さすがにそれは認めざるを得なかった。
直後はなんとも思わなかったのに、少し思い返せば、一緒に遊んだ時も、修学旅行に行った時も、廊下から俺を呼ぶ時も、勇斗は俺のことが…と思うとなんだか恥ずかしくなる。
耐えきれなくて繋いだ手をぶんぶん振り回していると、勇斗からも同じ質問をされた。
「それは……」
「なに、だめなの?」
「いや…なんというか……」
知らなかっただろ。
俺は入学式でお前に一目惚れしてたんだぞ。
お前より一途なんだぞ。
「まぁ、それはおいおい?」
「なんだよそれ!」
まぁ、一旦秘密にしてみてもいいんじゃないですか。
軽くどつきあいながら、俺たちは最後の門を通り抜けた。
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