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「……おや。なんかやってるなぁ」
六駆はミンスティラリアを真っ直ぐに西へと向かった。
シミリートの魔素探知モニターの助けもあり、すぐに人族の基地を発見する。
彼の計画では単身で敵を撃ち滅ぼす予定だったのだが、既に戦端が開かれているようであり、少しばかり戸惑った。
ミンスティラリア全域に魔王軍が屯所を作っているという話を覚えておいでか。
元々人族の武装基地が多くあった西側には、戦争の終結後に駐留軍を配置し、10年ほどの期間、人族が再び蜂起しないかを監視していた。
人族は実に狡猾であり、見た目上は魔王軍に従っているように過ごしながら、少しずつ武力を回復させていった。
ここで悲しい事に、魔族の元来持つ人の良さが裏目に出る。
「反乱の意思なしと判断したら干渉をやめよ」と指示した先代の魔王の遺言は、駐留軍のほとんどを引き上げさせてしまい、いくつかの屯所だけを残していた。
結果的にそれが今回の一斉蜂起を事前に察知できなかった点、さらにはすぐに対処できなかった事に繋がるのだが、唯一残していた屯所には、魔王軍ナンバースリーの異名を持つ、トンバウルがたまたま訪れていた。
トンバウルはわずかな兵士を連れて、人族革命軍本部に攻撃を仕掛けていた。
それは特攻の様相を呈していたが、結果的にその無謀な勇気が六駆の目に留まり、ほんの数分だが潰すべき基地の発見を早めていた。
「どうも、もしかして、僕の事をご存じで?」
数秒戦況を眺めただけで、指揮官を見つけ出す六駆。
トンバウルに声をかけた。
彼もまた鳥獣人。猪の顔を持ち、背中にはトンボのように薄い羽根がついている。
「はっ!? え、英雄殿! 先ほどのお声を聞き、我ら、到着をお待ちしておりました!」
「ああ、それは良かった。もう大丈夫です。安心して下さい」
「ははっ! 心強いお言葉! 我らも全力をもって!」
「いえ、大丈夫ですよ。とりあえず、兵士の皆さんを退避させてもらえますか? ちょっとガチってスキル撃ちますから。巻き添えにしちゃいけないので」
普段ヘラヘラしているおっさんがマジメな顔でキレると、どうしてこんなに迫力が増すのか。
事情は分からないが、トンバウルは「なんかやべーぞ」と察知。
速やかにテレパシーで仲間を全員上空へと戻した。
「今、最後の者が戻りました!」
「分かりました。さて……。ふぅぅぅぅんっ。『滅・大竜砲』!!」
普段彼が放つ『大竜砲』も、既に常軌を逸した威力を誇るが、六駆おじさんがガチった上位スキルは、もはや秒で辺り一帯を火の海に変えており、何がどうなってこうなったのか説明できる者はいなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「な、なな、なんと言う! 皆の者、英雄殿がやってくれたぞ!!」
「待ってください。まだ半分くらい残ってますね。まったく、ゴキブリ並みの生命力じゃないですか」
人族も長年かけて準備して来た一斉蜂起である。
六駆の出現が想定外を極めているが、武装基地本部が攻撃される事も計算していた。
「ほほう。全員でバリアを張ったんですか。結構本気で撃ったのに、ショックだなぁ」
六駆おじさん、少しテンションが下がる。
だが、全軍の魔法術師が一斉に防御魔法を使っても、どうにか命を守るのが精いっぱいで、基地の機能は既に停止していた。
「猪のお兄さん。ちょっと相談に乗ってくれます?」
「はひっ!? そ、某がでございますか!?」
六駆くんのガチスキルは、何故か味方の戦意も喪失させていた。
「さっきまでの我らの攻撃は、子供の水遊びだったのか」と思うに至り、戦いの終結後に退役を決めた者も多かったと言う。
六駆よ、勝手に魔王軍の士気を下げるな。
「これから一網打尽にしたいんですよ、あの鬱陶しい魔法使う人たちを。これじゃあ、話し合いもできやしない」
「は、ははっ!」
トンバウルは思った。
「あ、この人、話し合うつもりだったんだ」と。
「この基地の性質が分からないので、どんなスキルが良いと思います? 火、水、風、電気、土、氷に熱線、真空や重力、他にもいろいろなものがありますけど」
サーティワンアイスクリームばりの豊富な虐殺の種類に、トンバウルは故郷の母を思い出し、この戦いが終わったら彼女の得意料理のシチューを食べに帰ろうと考えた。
気付けば、目からは涙が流れており、この怖い人は味方のはずなのに一緒に居たくないとトンバウルの本能が告げていた。
「トンバウルさん?」
「は、はい! そうですな、この基地に集っている魔法術師は、火や水ならばまた全力でガードしてくると思われます! もちろん、英雄殿のスキルを2発、3発と撃てば、ヤツらの守備など無意味でしょうが!」
「それは面倒ですね。なるほど、つまりは物理か。……ああ、嫌だなぁ。イメージが悪いんだよなぁ、このスキル。親父の得意なヤツだもの。まあ、仕方ないか」
六駆は再び、大気中から煌気を体に取り込み始める。
その姿は光に包まれたのち、激しく発光し、この世の終わりを見ているようだったと、のちにトンバウルはこの戦いの顛末を記した自著で語っている。
「それじゃあ、景気よく行きましょうか! 『凶・岩石群』!!」
ひとつの直径が10メートルはある隕石が、文字通り悪夢のような数、敵陣めがけて降り注ぐ。
『岩石群』は六駆の父、大吾考案のスキル。
相手が属性系のスキルを弾く場合に、物理でごり押しして楽をしようと閃いたらしい。
煌気を纏った隕石は属性防御の壁を突き破り、物理防御の壁もついでに突き破る。
45秒。
六駆が人族の武装基地を完全に崩壊させるまでにかかった時間である。
トンバウルが数えていた。
と言うか、トンバウルも何かしていないとあまりの恐怖に気が狂いそうだったので、とりあえず頭の中を空っぽにして時間を数えていた。
これが1分を超えると、彼の精神も危うかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
地上に降り立つ六駆。
一応、『凶・岩石群』には人を避けるように情報付与してあったが、今回に限り彼は「まあ失敗しても良いや」と思っていた。
が、どうやらその情報付与は成功していたらしく、瓦礫の中からうようよと人族の兵士たちが出てきた。
「こ、この、悪魔め! 『ウインドスライス』!!」
「英雄殿! 危ない!!」
風の刃を放ったこの男、実は魔術師団の団長であり、10000の兵の中で最も強い魔法力を持っていた。
そんな彼の放った、最後の力を振り絞った全力の魔法。
「ふんっ。なんですか、これ。そよ風かな? うちの莉子の『太刀風』に比べたら、鼻くそですね。お手本をお見せしましょう。風の刃ってのは、こう! 『太刀風』!!」
こともあろうに、六駆おじさん、素手で魔法を粉砕する。
ついでにお手本まで見せてあげる優しさ。
穏やかな顔で、相手の心をへし折りにかかる。
「ひ、ひぃぃやぁぁぁっ!? あ、ああああ! 悪魔ぁ!! 悪魔ぁぁぁ!!」
六駆の『太刀風』は、向こうに見える霊峰ゴンブラまで到達し、地表を削って山の標高を下げた。
「誰が悪魔ですか。失礼な。普通の人ですよ、僕」
この期に及んで自分を普通と言って憚らない六駆。
君は誰に恥じる事もない立派な悪魔なので、普通とか言わないでほしい。
ちなみに、悪魔のターンは始まったばかりである。
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