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過去作の再掲です。
⚠️心中表現 強姦表現
『なみのしたにも』
「なあじゅう、逃げよか」
急にそんなこと言うから、びっくりしちゃった。しかも真剣な顔で。どうしたんだろう、とか、だいちゃんが言うってことはきっと何か理由があるんだろうなぁ、とか、頭の中だけで思った。
それから車を運転させられて、到着したのは海。くもりだからかな、黒っぽい色してる。
「手ぇ繋いでもいい?」
「うん、けどだいちゃんはいいの? 外だよ?」
「もういいんよ」
もう一回びっくり。だってだいちゃんはこういうとこ人に見られるのが苦手だから。
戸惑ってる俺の手をぎゅっと握って、まっすぐ海に向かう。だいちゃんが何をしようとしているのか分からなくて、そのままついて行った。
波打ち際でふと、だいちゃんが立ち止まる。
「じゅう、おれのこと好き?」
「好きだよ。大好き。」
どうしてそんなことを聞くんだろうか。もしかして、俺分かりにくかった? 不安にさせちゃったかな。そう思って握った手に軽く力を込める。ぴくっとだいちゃんが反応した。
「おれも、じゅうのこと大好き。大好きなんやけどさ、苦しくて」
声が震えてる。
「……撮られてもうたの、知っとる?」
「え、」
全然、知らなかった。いつ、どこで。外では絶対バレないように手すら繋がないようにしてたのに。
「俺ん家のカーテン開いててさ、撮られたんよ。少し前に。」
言葉が出なかった。だいちゃんはそんな俺の顔を見て、申し訳なさそうに続けた。
「それでな、この前その写真が送られてきて、『売られたくなければ誰にも言わずにこの住所に来い』って、言われて」
ぎゅっと手を握られる。
「そこでな、えっと……っ」
だいちゃんの声が詰まる。もしかして、あぁ、そんな、
「ごめ、じゅうたろう……ごめんなさいっ。おれっ、言われたまんまするしか、なくてっ」
握った手にさらに力が入る。どうして謝るの、いちばん怖かったのはだいちゃんなのに。
「じゅう、じゅうっ、なあ、ぼくもう、いややぁ」
その言葉を聞いた瞬間、反射で抱き寄せた。
「だいちゃん、だいちゃん。気付けなくて、ごめんね。」
「……ぅ、ああぁ……っ」
そのまま、だいちゃんが泣き止むまでぎゅって抱きしめていた。
「ねえ、心中しようか」
「……ええん?」
「もちろん。大好きなだいちゃんが嫌になっちゃう世界、俺も嫌だから」
――ねぇ、いい?
――いいよ。
ちゃぷ、と海に入る。俺が少し先を行く。まだ冷たくて、服がじっとりしてまとわりついてきて気持ち悪い。あー、薄手の服にすればよかったかもなぁ。まあいいか。もう死ぬし。
そんな事考えてたらくいっと手を引かれた。いつの間にか腰まで浸かってたみたい。
「……今なら、まだ戻れるで」
不安そうな声。だいちゃんはきっと、俺を連れていくのが怖いんだろう。
「死にたくないならあんなこと言わないよ。」
「でも、」
手が震えてる。不安にさせたまま冷たい海で死ぬのは嫌だなあ。
「……だいちゃん、知ってる? よっしーから聞いたんだけど、海の底にも都があるんだって。そこはきらきらしてて、だいちゃんに嫌なことするやつもいなくて――たぶんディズニーもある」
これで、笑ってくれるかな。
「……ぷっ、あははっ! なんやそれ! にゃはははっ!」
ふふ、やっと笑った。やっぱりだいちゃんには笑顔が似合うなあ……天国でもずっと笑っててほしい。できれば俺の隣で。
「ちゅーしていい?」
「……雰囲気ないなあ。ええよ」
軽く、触れるだけのキス。唇が俺より少しあったかい気がした。
「ね、きっと大丈夫」
「うん。柔太朗がいるならきっと、なんとかなる」
今度は二人並んで海を歩いた。手に伝わってきていた震えはもうなくて。
だいちゃん、このまま永遠にふたりきりになろう。
うん、もう怖くないね。
コメント
1件
読み終えました……。すごく、胸が締め付けられる話でしたね。外で手すら繋げなかった二人が、最後は海の中でキスをする——その対比があまりに痛くて。だいちゃんが「苦しくて」と震える声で打ち明けるところ、それに対してじゅうたろうが「いちばん怖かったのはだいちゃんなのに」と思いながら抱きしめる流れ、言葉の選び方がとにかく優しくて切なかったです。「海の底にも都がある」って笑わせようとするじゅうたろうの優しさに泣きそうになりました。まだ第1話だけど、二人の関係性の丁寧な描き込みに惹かれました。続きが気になります。
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