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『本当の地獄を見せてあげる♡』(りうら×ないこ)









部屋の空気が異様に静かだった。

冷蔵庫のモーター音だけが、薄暗い空間に規則正しく鳴っている。


壁には、写真。笑っている俺。無防備な寝顔の俺。誰が撮ったんだよ、こんな……。


「どうしたの、ないこ?」


背後から聞き慣れた声が落ちてくる。


「りうら……お前、これ、なんだよ」


「見ちゃったんだ」


にっこりと笑うその顔は、いつも通りで。

けど、目が。笑ってない。ぜんぜん。


「なんで……俺の部屋に、こんな……俺の写真が……壁一面……」


「だって、好きなんだよ。愛してるから。何がおかしいの?」


りうらは、一歩一歩、こっちへ歩いてくる。

その手には、カッターナイフ。真っ赤な刃先。血だ。俺のじゃない。たぶん。


「嘘だろ、お前……冗談だって言えよ……」


「ないこ、ずっと嘘ついてたよね。俺の気持ちに気づいてて、見ないふりしてた。無視してた。逃げてた」


「いや、お前、それは……!」


「だから、俺が教えてあげる」


りうらが目の前に立つ。顔が近い。狂ったほどに甘い笑顔。

なのに吐息は冷たく、首筋がざわつく。


「本当の“地獄”ってやつを、ね」


そのまま、耳元で囁かれる。


「“好き”って言ってくれなきゃ、指を一本ずつ、落としていくから」


ぞわり、と背中が痺れた。吐き気が込み上げる。


「りうら、落ち着けよ。俺たち、友達だろ? な? 正気に戻れ」


「ふぅん……友達、ね。そう言ってたけど、他の奴には見せる顔、たくさんあったよね。俺には見せないくせに。どうして? 俺だけには、全部くれないの?」


カッターが、俺の頬をなぞる。血が、一筋、垂れる。


「ねぇ、ないこ。あの時の言葉、覚えてる? “誰かに好かれるの、苦手”って。言ってたよね」


「ああ……覚えてるけど……」


「だから、俺が、全部壊してあげる。誰にも好かれないように。もう二度と、誰にも笑いかけられないように」


「やめろ……やめてくれ、りうら……!」


「安心して。俺だけは、最後まで愛してあげるから」


その瞬間、首に縄がかかった。

引き倒され、床に叩きつけられ、目の前が赤黒く染まる。


「“愛”だよ、ないこ。これは“愛”」


暗転する意識の中、最後に聞こえたのは、

――甘く囁くような、殺意を孕んだ声だった。


ねぇ、ないこ……本当の地獄を見せてあげる♡




『本当の地獄を見せてあげる♡』

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