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これは俺の自論なんだけど、絶対人って一生に一回は厨二病になる瞬間が来ると思う。盗んだバイクで走り出したい時があると思う。でも大体の人はノートに暗黒ポエム書いたり二重人格になったりで終わるから大学生になったあたりでめちゃめちゃ恥ずかしくなる以外に実害はないんよね、大体の人は。で、そこに入んなかったのが、俺。厨二病学生のノリのまま夜の街とか行ってみた。流石に童貞そこで捨てるとかはしなかったけど、その代わり結構奥まで行ってたっぽくて気付いたら風俗もチカチカ光るネオンもほとんど見えなくなっててあ、やべってなった。普通ならここで引き返す、でも俺は進んだ。何故か。厨二病だからだよ、その後マジで後悔したけど。
「何見てたの?」
銃を突き付けられる。逃げようにもそんな素振りを見せたら最後一瞬でチョコチップメロンパンにされるだろう。でもこのままでも殺されるな確実に。詰んだこれ。
「黒の組織の取引」
だったら正直に答えた方がいい。引き金に込められた力が強くなり、カチッと安全装置を外す音がした。ここで目を瞑って死を待つってのも癪だったから相手の目をじっと見据える。俺と同じくらいの歳の、紫色の目をしたヤツだった。厨二病とかじゃなくて、本当に裏社会でやってるヤツもいるんだな、と思うと、不思議と恐怖以外の感情が湧いてくる。殺される直前だっていうのに笑ってた、多分。
ーーソイツも笑って、引き金を引いた。一瞬遅れて、銃声が鳴った。
「……アレ?」
一向に、弾が撃ち込まれない。かといって死んでる感覚もない。訝しげな俺を前に、たった今発砲したはずのソイツはしてやったりといった顔で、先程とはうってかわって親しげに話しかけてきた。
「すごいね、普通泣いて命乞いとかするのに」
「ハッ、んなことしてもどーせ殺されるし」
ソイツは面白い子だなぁやっぱり、とうんうんと頷いて、両手から銃を投げ捨てる。一つしか持っていないように見えたのにスペアもあったのか。空砲だからといって安心していたらどうなっていたことか。
「俺と、賭けしない?」
いきなり、賭けをしないかと持ちかけられる。
「賭け?」
「うん、この銃のうちどっちかは空砲でどっちかは弾が入ってる。君は一つを選んで頭に向かって撃つ。空砲だったら君の勝ち。ウチに入ってもらう。実弾だったらそれまでだけど」
あまりにも俺のメリットがない。空砲だった場合勝手にマフィア入ることにされてるし。こんなの納得できるはずもない。せめて、空砲だったら逃がすとかにしてくれないと。そんな思考を読み取ったのか、コイツはさっきまでとは何か違い、冷たく口角を上げて、関係があるのかないのかよくわからないことをべらべら喋り出した。
「ウチは仕事が早いことで有名なんだ」
「…はぁ」
「情報収集も得意で」
「……」
「…ね?さとみくん」
背筋に冷たいものが走る。どうして、俺の名前を知っているのか。疑問が次々と思い浮かぶ。仕事が早いとか言っていたのはこの事だったのか。
「それだけじゃない、両親、弟が一人…猫飼ってるんだ、俺も猫好きだからおそろいだね」
世間話の一つのように話される俺の家族構成。目が全く笑っていないところを見ると、それは『賭けの代償』を表していた。つまり。
「俺の家族が人質ってことかよ」
「あたり、頭いいね」
「うっせ」
俺が、助かるもといマフィアに入れば家族が殺され、俺が死ねば家族は助かる。もちろん賭けを受けなかった場合は両方殺される。心理テストの問題をリアルで突きつけられた気分だ。
「…ちょっと考える」
「いいよ、好きな時で」
「十年くらい考えていい?」
「それは無理」
俺は性格上、心理テストだろうが現実だろうが絶対に答えを変えることは無いと思う。が、ここは周りの状況を無視して完全な心理テストとして答えた方がいい。…いや、俺がどんな答えを出すかなんて最初から分かりきったことだったけど。
「…よし」
「決まった?」
「ああ、銃ってこのどっちか?」
「うん」
「俺の答えは…」
両手に銃を握り、安全装置を外す。自分のこめかみに銃口をぴたりとくっつけ、そのまま引き金を。
引く、と見せかけて体を捻り、相手に向かって撃つ。漫画やアニメだったらいとも簡単に撃っていたのが、実際にやってみると反動がえぐい。体が後ろに引っ張られるような感覚がするし、思わず目を瞑ってしまう。しかし、かなり近くで発砲したので少なくとも一発は当たっているはずだ。
ーーなんて、淡い希望を抱いていなかったと言えば嘘になるけど。
「残念!」
まさかソッチの方だとは、思わないじゃないか。
「じゃあさとみくん、ウチに入ってね?」
「いや、条件は自分の頭に向かって撃つ、だったから俺は賭け不履行だし、お前もどっちも空砲だったんなら賭け不履行だろ」
二人とも規定を無視したんだったら賭けは無効になる。最初から無かった事になって大人しく家に帰らせてくれないか。
「え?俺もさとみくんも何も不履行じゃないよ?」
「は?」
「俺は頭に向かって撃つって言ったんであってさとみくんが自分の頭を撃つなんて一言も言ってないし、俺はちゃんと弾入れたよ。…途中で爆ぜたかもしれないけど」
ソイツは、足元にあるカスのようなものを拾って見せてきた。それは、紙の切れ端だった。
「弾ってこれかよ…」
屁理屈だ。しかし、それを否定することもできない。
「だから…さとみくんの勝ちだよ」
心からの笑顔を、殴りたくなった。でも、今の俺じゃ絶対に勝てないことは分かりきっている。ここは感情を抑えて、一旦大人しくしておいてチャンスを伺うべきだ。どれくらいの期間になるかとかは全く分からないけど。
「…一つだけ聞いていい?」
「何?」
「あの賭け、どんな選択をしても俺が死ぬことは無かった。俺の勝ちは決まってたんだよ。じゃあなんでわざわざあんな事したの?」
「…気まぐれだよ、ただの」