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仁人 side
きっかけは、友達からの何気ない一言だった。
「舜太って仁人中心だよね」
友達からそう言われた。友達は俺と舜太の関係を知っていて、2人とも仲良くしている奴だ。
「俺中心かな……?」
確かに、舜太は俺のことを大事にしてくれる。それはかなり感じている。
「うん。前より友達と遊ばなくなった気がする」
「そう、かな……」
「仁人がいることで、舜太が周りとの付き合い減らしてるんじゃない?」
「……え?」
思わず聞き返してしまった。言った本人はそこまで深刻な顔をしているわけではないため、本気で言っているわけではないということが分かった。
「いや、悪い意味じゃなくて。舜太、仁人のこと大好きだから、仁人が舜太のこと縛ってるんじゃね」
友達は冗談っぽく笑う。彼が本気で言っていないことは分かる。けれど、俺にはその言葉を冗談として受け止めることができなかった。
その友達と別れてからも、さっきの言葉が頭から離れなかった。
帰り道に1人になった瞬間から何度も思い出してしまう。俺が舜太を縛っている?
確かに舜太は俺と付き合ってから周りとの付き合いが減った気がする。もちろん今でも友達と遊びに行くことはあるし、俺がそれを止めたことはない。けれど、友達が多い舜太は前はよく遊びに行ったり、ご飯食べに行ったりが多かったが、今は前より少なくなったように感じる。
_______仁人が舜太のこと縛ってるんじゃね
友達が何気なく言った一言が頭をよぎる。こんなの本気で言っている訳じゃないってわかってる。
「……そんなつもりないのにな」
俺は自分の記憶を思い返し始めた。
『今日、友達と遊ぶんじゃなかったの?』
『うん。でも仁ちゃんと会いたかったから』
『俺はいつでも会えるし、遊んできなよ』
『いいの。俺が仁ちゃんといたいの』
そのときは嬉しかった。自分を選んでくれたことが嬉しくて、深く考えなかった。
でも、今思えば、あのとき「じゃあ行ってきなよ」と言って、本当に舜太を送り出せていたのだろうか。自分からもっと強く背中を押すべきだったんじゃないか。
そんなことを考え始めると、止まらなかった。
***
友達にそう言われてから初めて舜太と会った。
「仁ちゃん、今日何食べる?」
「舜太の好きなものでいいよ」
「じゃあ、あそこ行こう!」
いつものように隣を歩く。いつものように舜太が笑う。その笑顔を見ながら、俺はふと尋ねた。
「……舜太。最近、友達と遊んでる?」
「え?」
「いや、前より俺といる時間増えたから」
舜太は少し考えてから笑った。
「増えたかも」
「……そう」
「でも、俺が仁ちゃんといたいからだよ」
また、その言葉だった。俺は舜太に向かって微笑んだが、胸の奥は苦しかった。舜太は自分で選んでくれている。それは分かっている。
けど、その「好き」が強すぎて、他のものを見なくなっているとしたら?
もし、自分と付き合っているせいで、舜太が本来経験できたはずのことを失っているとしたら?
その夜から、俺はずっと考えていた。
舜太の未来、友達との時間、仕事や夢。知らない場所や知らない恋。
俺は舜太と付き合って後悔していないし、男同士だからといって嫌だと思ったことなんて1度もない。舜太も多分今はそう思ってる。
けれど、俺と付き合っていることで、舜太がこれから出会えるはずの恋を阻止している。この先の未来、良い人と出会って、結婚して、子供も生まれて。でも、俺とだとその未来は絶対に歩めない。
舜太は俺より年下で、俺より未来がある。俺が舜太の未来を潰してはいけない。
「別れた方が、いいのかな……」
口にした瞬間、胸が痛んだ。嫌だ、別れたくない。ずっと隣にいたい。けれど、俺のせいで舜太の世界が狭くなることの方が嫌だ。
俺は舜太に電話をかけた。本当は直接言った方がいいに決まってる。けれど、顔を見てしまったら言えないと思った。舜太の顔を見たらやっぱり別れたくないってなってしまう。だから、電話で言うことにした。
数回のコール音の後、舜太の声が聞こえた。
『もしもし、仁ちゃん?』
「………もしもし」
『どしたん?なんか元気ないやん』
声だけでも舜太は俺が元気ないことを分かってしまう。困るけど、そういうところが好きだ。
「あのさ、舜太。俺たち別れよう」
あぁ、言ってしまった。もう戻ることはできない。
『………え?なんて言った仁ちゃん』
「………別れようって言った」
『そんな冗談おもろくないって』
「冗談じゃ、ないよ」
胸が痛い。舜太の困惑している声が耳に残る。スマホを持つ手が震える。
『なんで……仁ちゃん俺のこと好きじゃなくなったん?』
「………とにかく、別れよ」
好きじゃなくなったのか、その問いに答えることはできなかった。だってまだ大好きだから。好きじゃなくなったと嘘つくことはできなかった。
『俺、納得してへんからな』
「…………」
『ちゃんと理由聞くまで別れない』
「……そう、ばいばい」
『ちょ、仁ちゃん……!』
俺は電話を切った。これ以上舜太と話していたら別れるという意思が崩れてしまうと思ったから。
スマホには舜太からのメッセージと不在着信で溢れていた。全て見ていないし、返信もしていない。
今舜太は遠くに行って仕事をしているため帰ってくるのは明日だ。だから、今日は俺に会うことは出来ない。
ごめんなさい、舜太。好きだよ、ずっと。
***
次の日、俺は個人の仕事だった。
仕事を終え、マネージャーが家まで送ってくれる。外は雨が降っていた。
車が家に近づいていくと、マネージャーから戸惑った声が聞こえる。
「何かありました?」
「……あの、曽野さんが……」
「え、?」
車の窓から外を見るとそこには俺の家の前で、雨が降っているのに傘もささずに立っている舜太がいた。
「なんで……」
車を降りて、舜太に近づき、俺が入っている傘に入れる。
「あ、仁ちゃん」
「お前……何してんだよ……」
「俺がびしょ濡れになって待ってたらさすがに家に入れてくれるかなって」
舜太はそう言って笑う。
一体いつからここにいたのか。何時間雨に降られて俺を待っていたのか。
舜太の体はびしょ濡れで、流石にこのまま帰す訳にはいかない。
「はぁ、俺ん家入って。風呂貸すから」
舜太を家に入れてまず、風呂に入らせた。風邪ひかれたら困る。びしょ濡れになった服は洗濯機に入れ、俺の服を貸した。
どうしよう。舜太が俺ん家に来てしまった。そりゃこれから一切会わないなんてことできないって分かってたけど、今日会うとは。心の準備ができていなかった。
風呂場から足音がして、舜太がこちらへ向かってきた。
「袖と裾短いわ」
「嫌味か」
舜太は俺の服を着ているが俺が着てる時より裾と袖が短くなっている。身長が違うんだからしゃーないやろ。
「ねぇ、隣座っていい?」
「………うん」
舜太は俺が座っているソファの隣に腰をかける。さっきまでの舜太とは違い、急に真面目な表情になる。あぁ、詰められるんだろうな。
「仁ちゃんさ、なんで別れるなんて言ったん?」
「………別れたくなったから」
「俺のこと好きじゃなくなったん?」
「それは………」
言えない。別れようとか言えても好きじゃなくなったとは言えなかった。大好きだから。どうしても、言えなかった。
「ほら、やっぱ俺のこと好きじゃなくなってないやん」
やっぱり舜太には分かってしまうらしい。
「仁ちゃんがほんまに俺のこと好きじゃなくなったんだったら、嫌やけど別れを受け入れるよ。けど、違うんやろ。俺のこと好きなんやったら、俺は別れへん」
「っ………」
「ねぇ、仁ちゃん。俺怒ってるんだよ。なんで別れようなんて言ったの」
怒りと悲しみが混ざっている。そんな目をしていた。
「………この前、友達に仁人が舜太のこと縛ってるみたいって言われて。その時はそんな事ないって思ったけど、考えてみると俺と付き合ってから舜太が友達と遊ぶ回数が減って、俺優先になってるなって思った。
それから、いろいろ考えちゃって。舜太が俺と付き合ってるせいで、他のものを見なくなって本来経験できたはずのことを失っているかもって。
舜太は良い人と出会って、結婚して、子供も生まれて幸せになって欲しい。でも、俺とだとその未来は絶対に歩めない。
舜太は俺より年下で、年上の俺が舜太の未来を潰してはいけないから、だから……」
俯きながら一気に言った。舜太の顔がまともに見れない。
「それが理由で別れたってこと?」
「……うん」
「……仁ちゃん、こっち見て」
俺は舜太に頬を掴まれて、舜太の方を向かされる。
「仁ちゃんちゃと答えて。仁ちゃんは俺のこと好き?」
「……すきだよ、好き。大好き」
嘘はつけなかった。
「俺も仁ちゃんが好きだよ。だから、こんな理由で別れるなんて許さない。なんで勝手に自分と付き合ってると幸せになれないって決めつけてるん?俺は仁ちゃんといるから幸せなの」
ストレートに気持ちを伝えてくれる舜太。俺にはない部分だから、そこが羨ましくも感じるし、好きなところでもある。
「確かに俺は仁ちゃんより年下やけど、もうガキじゃないねん。自分の幸せくらい自分で考えられる。考えた上で仁ちゃんと一緒にいたいの」
「舜太の時間、俺が奪っちゃうかも……」
「何言うてん、俺は少しの時間でも仁ちゃんといたいねん。奪うとかない」
「結婚も子供もできない」
「そんなんいい。仁ちゃんといられへん方が嫌や」
「俺、もう舜太から離れられない。ずっと、一生好きでいちゃう」
「そうじゃなきゃ困る。仁ちゃんが好き。ずっと、一生大切にしたい」
外からの雨の音が部屋に響く。
「……別れるなんて言って、ごめんなさい。やっぱり舜太と一緒にいたい」
「反省してや。俺は仁ちゃんと一生一緒にいる覚悟できてるねん。絶対別れるなんて言わないで」
舜太はそう言って俺のことを抱きしめた。舜太の愛をひしひしと感じる。ごめんなさい。俺の勝手な判断で別れるなんて言って。
「仁ちゃん」
「………ん、」
舜太と俺の唇が重なる。
雨はまだ降り続いていて、部屋の中まで音が聞こえる。その雨に負けないくらい、俺たちはキスの雨を降らせた。
コメント
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第1話、拝読しました。 舜太くんの「俺がいるから幸せ」っていう真っ直ぐな言葉が刺さりましたね。仁人さんの「舜太の未来を潰してはいけない」っていう気持ちも痛いほど分かるんですけど、自分の幸せを自分で選ぶって宣言してくれたあのシーン、本当に良かったです。雨の中待ってる姿には胸がギュッと締め付けられました。2人の距離感が丁寧に描かれていて、続きが気になります。素敵なお話をありがとうございます🌷