テラーノベル
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夜も深くなってきた頃、スタジオでの練習が終わった。
汗のにじむ髪を掻き上げ、ソファにもたれて深く息をついた若井の横で、りょうちゃんがまだキーボードを片づけている。そこへ、何の音も立てず、すっと元貴が近づいてきた。
「ねえ、今日は泊まりでしょ?」
元貴が不意にそんなことを言うので、若井は一瞬、まばたきをする。
「え、うん……? まあ、明日早いしな。りょうちゃんち行く?」
「ううん、今日は……うちに来てほしいな。二人とも。」
その言い方はどこか柔らかく、けれど――引っかかる。
まるで誘うような、甘く湿った響きが含まれていた。
そしてその夜。元貴の部屋は、どこか前より温度が高いような気がした。窓は閉められているのに、ほのかに香るのは甘い何か。ラベンダーでもなく、バニラでもない。嗅ぎ慣れない匂い――けれど不快ではなく、むしろぼんやりと気を緩ませる。
「……ねぇ、なんか変な匂いしない?」
若井がぼそっと言うと、りょうちゃんもふと鼻を動かす。
「……する。でも、元貴んち、こんなだったっけ?」
そのとき奥のキッチンから、元貴がグラスを三つ持って出てきた。
「おつかれさま。リラックスして、ね?」
微笑んだ元貴の瞳は、どこか潤んでいるように見えた。
唇はやけに赤く、首筋から鎖骨へかけて、汗ではない艶が浮かんでいる。
少し経ち、若井は自分の鼓動が異様に早くなっていることに気づいた。
隣にいたりょうちゃんも、わずかに頬を赤くして目を伏せる。
「……なんか、酔ったかも。酒、入ってた?」
「入ってないよ?」
元貴が、まるで無邪気にそう言って、若井の隣に腰を下ろす。
そして、耳元に口を寄せて囁いた。
「……でも、ボクがそばにいると、変になるでしょ?」
その声にゾクリと背筋が震えた。
息を飲んで目を向けると、元貴の表情はやわらかい微笑のまま――けれど、その瞳の奥が、何かを知っているように見えた。
「……えっ、なにこれ……」
「――ボクね、本当は、人間じゃないんだ。」
ゆっくりと立ち上がった元貴が、自分の指先で、若井の胸元に触れる。
「サキュバスって、言うの、知ってる?」
耳の奥で、何かが弾けたような音がした。
拒絶しなければいけないのに、身体は逆に熱を帯びていく。
「……じゃあ、ずっと……?」
「うん。ずっと、ふたりを狙ってた。」
赤く濡れた唇が、にやりと笑う。
「でも安心して。今日は、ちゃんと“本当のやり方”で堕としてあげるね。」
元貴が、二人の前でゆっくりとシャツのボタンを外しはじめる。
いつもと変わらないようで、どこか異様に艶っぽい。
鎖骨の下を指でなぞる仕草一つにも、目が離せなくなる。
それは本能を直接くすぐるような、見てはいけない、けど見ずにはいられない色気だった。
「……やば、なんか……」
りょうちゃんが小さく呻く。喉が詰まったような声だった。
隣で見ていた若井も、拳を握って耐えている。
「……元貴、冗談、だよね?」
「冗談だったらよかった?」
少し潤んだ目で、元貴が首をかしげる。
その瞬間、なぜだろう、胸の奥にちくりとした痛みが走った。
――違う。これは、恐怖じゃない。
背徳感、羞恥、そして……それ以上に、欲。
「やだな。今さらやめろなんて言わないでね?」
言いながら、元貴がゆっくりと若井の膝の上に乗る。
軽いはずの身体なのに、妙に重たい熱がのしかかってくる。
手のひらを肩に置かれただけで、全身がびくっと跳ねた。
「……力、抜いて……もっと、気持ちよくなれるから」
そう言って、耳元に舌を這わせる。
若井の目が大きく見開かれた。
「っ……、ちょっ……」
「ふふ……我慢してるの、バレバレ」
元貴が、指先でシャツのすそから中に手を入れる。
りょうちゃんも視線を離せずに見つめていた。
「ねえ、りょうちゃんも来て。ボク、一人だけじゃ、つまんないよ」
名指しされて、りょうちゃんが一瞬だけためらった。
だが、その視線の奥には……抗えない何かが浮かんでいる。
元貴が、若井の身体を撫でながら、りょうちゃんにも手を伸ばす。
まるで誘うように、細い指先が彼の首元に触れた瞬間、りょうちゃんの口から小さく吐息が漏れる。
「っ……なに……これ、ヤバ……」
「うん。サキュバスの力、ってやつ」
にやっと笑う元貴の顔は、どこか妖しく、それでいて寂しげだった。
「だって……ふたりが、こんなに欲しがってくれるなんて、思ってなかった」
その言葉と同時に、りょうちゃんの唇に軽くキスを落とす。
短く、でもとろけるような一瞬。
触れられた涼ちゃんの方が、完全に息を呑んで動けなくなる。
そのすきに、元貴は若井のシャツをするりと脱がせ、胸元に舌を這わせる。
「ん……っ、まって……ぁっ」
悪戯っぽく笑って、また一舐め。
そこからは、もう抵抗なんて意味を成さない。
甘い吐息と、くすぐったい快感にじわじわと溺れていく。
元貴は二人の首筋や鎖骨、腹部を交互に撫でたり舐めたりしながら、ゆっくり、じっくりと身体を熱くしていった。
誰よりもゆっくり、じっくりと、確実に二人の理性を奪っていく。
「まだ挿れないよ。もっと気持ちよくしてから……ボクのこと、夢中になってもらうから」
囁きながら、元貴は二人をベッドへと誘導した。
ベッドの上、左右に座らされた若井とりょうちゃん。
その間に元貴がゆっくりと膝をついて、どちらの身体にも手を伸ばす。
「ふたりとも……こんなに熱くなってるのに、まだ我慢してるの?」
柔らかな声。
それだけで、首の奥に電気が走ったように背筋がざわめく。
まるで皮膚の内側をなぞられているみたいだった。
「なぁ、元貴……お前、マジで……なんなんだよ……っ」
若井の声はかすれていた。
視線が泳ぎ、息が浅い。
「……ボク、言ったよね。サキュバスだって」
ふわり、と息をかけられただけでゾクリと震える。
その直後、元貴が若井の首筋に舌を這わせる。
「……っ、く……ぁ」
舌の感触が、何倍にも誇張されて身体に染み込んでくる。
それは、快楽というよりも思考の隙間を奪っていく侵食だった。
「こっちも、ガマンしてるの、バレバレ」
りょうちゃんの股間にそっと手を置かれる。
ぴくんと跳ねて、顔を赤くするりょうちゃん。
「うそ……、触れてないのに……なんか、もう、やば……っ」
「触れてないのに気持ちいい? ふふ……ボクの力、ちょっとだけ使ってるから」
耳元でそう囁かれると、頭がぐらぐらする。
その言葉が脳に響くだけで、股間に熱が集中していく。
身体が勝手に疼いて、呼吸が浅くなる。
「……っ、ああ、くそ……、やめろよ……、こんなのおかしいって……!」
抵抗の声を上げたのは若井。
だが、その手はもう、元貴の腰に添えられていて、震えながらも引き剝がすことができない。
「おかしいのは、気持ちよくなってるくせに、それを認めないそっちじゃない?」
にやりと微笑みながら、元貴は自らの服を脱ぎ始める。
白い肌が月光に照らされ、細く浮き上がる鎖骨と、なめらかな腹筋。
男のそれとは違う、けれど異性とも言い切れない妖しい美しさ。
「ボクの身体……こんなに欲しがってくれるの、若井とりょうちゃんだけなんだよ」
その言葉に、喉が鳴る音すら淫靡に感じられた。
次の瞬間――
元貴の指が、りょうちゃんの太腿の付け根を優しくなぞる。
「ひ……ッ、や、ダメ、それ……!」
ぴくりと腰を浮かせて、りょうちゃんが必死に足を閉じる。
けれど、元貴の指先はその隙間を割って、じわじわと入り込んでいく。
「ダメ? でも、ほら……」
指先がわずかに湿り気を帯びたところに触れる。
「ここ、もう……濡れてるよ?」
りょうちゃんの顔が、羞恥と快感で真っ赤に染まる。
元貴がりょうちゃんのモノをパンツから取り出し口に咥えた。
「んっっ……っ」
先っぽを舌でクリクリと押し、裏筋を舐め、吸い上げる。
「ちょっ……元貴、なんでこんな上手いの……」
「りょうちゃんきもちい〜?」
なんて蕩けた目で聞いてくる。
「やばっ……出るっ、元貴離して……」
それを聞いた元貴は最後の仕上げとも言うように喉奥に自ら突っ込み締めつけた。
「あ“っっ……」
ジュルジュルと音を立てて一滴残らず吸い上げる。
「やばっ……美味しい♡」
その様子を見た若井が、カッと目を見開いて――次の瞬間、自らの欲に突き動かされるように、元貴の腰を抱き寄せた。
「……ッ、もう、限界……元貴が……誘ってきたんだからね……」
その声は、もう抗いではなかった。
「ふふ、ようやく素直になったね……」
元貴は微笑んだまま、若井の足の間に顔を埋めた。
「ほら、早く出して」
若井は我慢ならないというようにイキリたったモノを元貴の眼前に差し出す。
それを見た元貴は光悦の目で若井のモノを見つめ口に含んだ。
「んっっ……わかいのもおいひーよ……」
必死にフェラをする姿に思わず元貴の頭を押さえつける。
「あ“ー出そう……元貴全部飲んでね……」
そう言って濃い液体を吐き出した。
少し口の端につたったがそれも舐め取り全て元貴の体内へと取り込む。
「2人とも美味しかったよ……」
そう言って再び勃ちあがっている2人のモノを交互に見る。
「大丈夫。ボクの中……ふたりとも、ちゃんと入れてあげるから――」
意識が朦朧とするほどの快感に包まれながら、
3人は深い夜に溶けていった――。
________
窓から差し込む朝の光が、しっとりとした空気を照らす。
重なったまま眠っていた三人の肌が、白く柔らかく浮かび上がっていた。
「……朝、か」
ぼそりと呟いたのは若井。
シーツの皺を指先でなぞりながら、隣で眠る元貴の髪をそっとかき上げた。
昨夜、深く結ばれたときに見せた、あまりに“美しすぎる”元貴の表情――
恍惚と、快楽と、甘さと。
どれも人間離れしていた。
でも。
「それでも……好きだと思っちゃったんだよ、俺は」
りょうちゃんの声に、若井も静かに頷く。
魔物かどうかなんて、どうでもよかった。
どんな姿であれ、自分たちの前であんなに脆く、甘えた姿。
そんな元貴を、見捨てられるわけがなかった。
「……おはよう」
掠れた声がシーツの向こうから聞こえる。
元貴がゆっくりと目を開けて、ふたりを見つめた。
その瞳は、昨夜と同じ深い色を宿していたけれど、どこか怯えたようでもあった。
「ボク……昨日、変だったよね……?」
「変じゃないよ」
若井が先に口を開いた。
続けて、りょうちゃんが笑う。
「むしろ……すっごく綺麗だった。壊れそうで、必死で、……なのに、全部俺らに委ねてくれて」
元貴は、目を伏せる。
シーツを胸元まで引き寄せて、小さく唇を噛んだ。
「ボク……サキュバスなんだ。
ずっと抑えてたけど……気づいてたんだ、ふたりを見てると……すぐに疼いてきて……。
でも、こんな風にしてしまったら……もう、普通には戻れないよ?」
そう囁く声は、悲しみと誘惑が同時に混ざったようだった。
けれど、若井もりょうちゃんも、躊躇わなかった。
「いいよ、戻らなくて。
俺たちは……元貴に喰われるつもりで、ここにいるんだから」
「……うん。むしろ、そのほうがいい」
そう言って、りょうちゃんが元貴を引き寄せた。
また熱を分け合うように、唇が触れ合う。
すでに理性は溶けかけていた。
元貴の頬に再び朱が射し、その瞳が潤んだ。
「じゃあ……またいっぱい吸わせてね?」
妖艶に笑うその顔は、もう完全に“サキュバス”のそれだった。
でも、ふたりはもうそれすらも愛おしく感じていた。
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