第10話(最終話):続く居場所
座談会配信はクライマックスを迎え、チャット欄には感動と共感のコメントが溢れていた。「ニート部に入りたい」「自分もここにいていいんだと思えた」――それは、メンバーたちが彼らの「困り事」をさらけ出し、「すてきな個性」に変えた証だった。
最後に、KUNがマイクの音量を上げた。
「さて、今日の結論だ。ニート部は、お前たちの欠点を晒す場所だ。欠点とは、伸びしろだ。そして、その伸びしろを笑い飛ばし、次に繋げるのが、お前たち自身と、このコミュニティのルールだ」
KUNは、まるで世界の創造主のように、静かに微笑んだ。
「お前たちがこの場所で得た最大の成果は、『自分らしさ』を隠さなくていいという安心感だ。その安心感こそが、永遠に続くお前たちの『みかた』だ」
配信は終了した。ボイスチャットには、安堵のため息と、清々しい笑い声が満ちた。
陰キャ転生は、マウスを握りしめた。彼はもう、「完璧なヒーロー」の鎧を必要としていなかった。彼の「自分らしさ」は、ミスをして情けなくても、誰かにいじられても、それを笑いに変えられる強靭な精神力に変わっていた。
「よっしゃ!次はもっと情けないミスをして、最強の笑いを取ってやるぜ!」
彼の声には、以前のような焦りはなかった。
ひまじんは、プリンを一口食べた。彼の虚言癖は消えないだろう。だが、彼は知っている。その嘘は、誰かを傷つける毒ではなく、誰かを楽しませる物語という『見方』に変わったことを。彼は、新しい物語の構想を頭の中で練り始めた。
うみにゃは、部屋の窓を少しだけ開けた。外の空気が、少しだけ怖くなくなった。なっしーの明るさが、彼のトラウマという暗闇を、少しだけ照らしてくれたからだ。彼は、自分のペースで、コーラを飲みながら、次の一歩を踏み出すことを決めた。
そして、どるぴんは、チャット欄に全員へメッセージを送った。
『お前たちの「自分らしさ」を、これからも全力で肯定する。このニート部という居場所は、俺が守る。俺は、お前たちの「王」であり、お前たち全員の「味方」だ』
彼の肩の重荷は、完全に消えていなかったが、孤独ではなくなっていた。できおこの真面目さ、とーますの優しさ、DDの過激さ。全ての個性が、王の責任という「困り事」を支える「味方」になっている。
ニート部という場所は、彼らが現実世界での敗北や挫折によって見失った「自分らしさ」を拾い集め、「すてきな個性」という名の武器に鍛え直すための、最強の工房だった。
彼らは、ニート部の活動を通じて、「自分を愛すること」という、人生で最も大切な『みかた』を全員で見つけた。そして、その活動は、これからも永遠に続いていく。なぜなら、彼らはもう、孤独なニートではない。
彼らは、互いに支え合う、最高の「みかた」たちなのだから。
(完)