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「“ごめん”…じゃない!死ぬことはつらいんだよ?ルビーにはあまり理解できないはず…。」
「そ、そうだよね…わかってる…ごめん…バブルの気持ち考えなくてごめん…。」
私はルビーの声が聞こえなかった。貴方のことを許せなかったから、何も聞こえない。聞きたくない。私は何も言葉を発することはできなかった。
「じゃあ私…部屋に戻るね。バブル、また明日。」
彼女は私に背中を向けて彼女の部屋の方へ歩いていってしまった。
私は彼女の背中を見つめていることしかできなかった。
あーあ、またひとりぼっちだ。
なぜルビーがあんなことを聞いてきたのかわからない。もしかしたら彼女は病んでいたのかもしれない。あんなに体に傷がついて…何かあの2人にされていたのだろう。
でも、私の方が酷い仕打ちをされているに決まってる。ルビーにわかりっこない、それを感じて生きてきたのだから。
大きなため息をつく。私もそろそろ部屋に戻ろう…戻らないと…。
他の人たちはまだロビーに残っていたが早く寝た方がいいと思い階段を慎重に上がっていった。
部屋が並べられている廊下は寒く感じた。廊下が部屋に戻れと焦らせているようだ。私は異常な寒さに冷や汗を出す。私の部屋は奥の方なので部屋に着くまでがとても長い。
ようやく私の部屋の前に着いた。私の手がドアノブを求める。私はドアノブを引いた。
…引いた途端、大声で私の名前を呼ばれた。うるさいほどに声が響いた。それはピンの声だった。
「バブル!ゲームするんだけどリーフィーが寝ちゃってさ…。4人用のゲームだから参加してほしいんだけど…。」
私は急な誘いに戸惑いを隠せなかった。
「え、えっと私今から寝なきゃ…」
「はい強制参加ね!ファイアリー!コイニー!バブル誘ったから早くやろう!」
強く掴まれた右手が彼女の方へ引っ張られる。ギチっという腕の皮と彼女の手の皮が擦り合う音がした。私は言われるがままに彼女に着いてゆくしかなかった。
いつものように朝が来た。いつもの部屋ではなくピンの部屋で朝を迎えた。
ゆっくりと起き上がると仲良しな4人組が仲良く寝ていた。私はそれを見ていると悲しくて自分が惨めという気持ちが心臓にのし掛かった。どうせ最初から私を誘うつもりはなかったのだろう。何度も見て見ぬ振りをしてきたのに?何を言っているのだろう彼女は。
私は4人の体を足でまたいで部屋を出た。
ドアを閉めるとロビーから声がした。アイスキューブとブックと…ファニーの声だった。
ゆっくりと慎重に階段を降りてゆくと何やら真剣な顔で3人は話していた。
ファニーと目が合い、彼女は私に笑顔を向けた。
「バブル!おはよう!どこで寝てたんだ?」
「ピンとゲームやってたんだ…!心配かけてごめんね…。」
「いいんだよ大丈夫!どこか行っちゃったのかと思ってた…。」
アイスキューブとブックはファニーの声でバブルがいることにやっと気づいたようだ。
「あ、バブル…おはよ…。」
「ブ、ブック…お、おはよう……ど、どうしたの…?な、なんか元気ないね…?」
バブルは人と話すのが怖くて、ぎこちない話し方になってしまったことにすぐ気づき、恥ずかしくなり少しブックから目をそらした。
「そ、それがね……」
「キャアアアアアアアアアアアアアア!!!」
突然上の階から断末魔のような悲鳴が響き渡った。下にいる人たちはその悲鳴を聞き、何か恐ろしいことが起こったのではないのだろうかと不安になる。ロビーが悪い空気に包まれる。話していた4人はその悲鳴はなんなのか確かめに行くことにした。
二階の廊下で座っていたのはフラワーだった。叫んだのもフラワーだろう。彼女は恐怖で身動きが取れず、小刻みに震えていた。
フラワーが座っていたところは“ルビー”の部屋の前だった。彼女の部屋のドアが開いていた。
3人はフラワーを気にかけていたが私はルビーの部屋を覗くことにした。嫌なことが起こっているのだろうと思っていた。
彼女の部屋は薄暗かった。電気が付いておらずカーテンも閉められていて足元ぐらいしか見えなかった。だが彼女は宝石だ。薄暗くても部屋に入ってきた光を体で反射していたので彼女の身に何が起こったのかハッキリとわかった。
彼女は縄で自ら首を吊って死んでいた。
「う…そ…。」
バブルは突然目に入ったグロテスクな現実に驚きを隠せず、ふらふらと横たわって部屋の壁にもたれついた。彼女の目には光がなかった。口元にヨダレのようなものがつたっていた。縄がルビーの体で引っ張られてギチギチと音がなっている。彼女は遅いテンポのメトロノームのようにゆらゆらと揺れていた。なぜ彼女は死んだ?なぜ自殺した?私は自殺のことで頭がいっぱいになり目の前が真っ暗になりかけていた。
実際、本当に悲しんでいるのはフラワーだった。
彼女は急に立ち上がりルビーの元へ駆けつけた。傷だらけの恋人の体を抱きしめた。
「ねえ!なんで!?どうして!?私に何も言わずに死んでしまうの!?なんで相談してくれなかったの!?辛かったら辛いって言ってよ!!どうして…どうして!!!!」
彼女は膝から崩れ落ち、泣き崩れた。彼女の泣き声はルビーの部屋を充満させ、廊下にも響き渡るほどの苦痛の声だった。
ルビーの部屋の前で3人は立ち尽くしていた。何も言葉を発していなかった。彼女の体を見ると昨日より傷が明らかに増えていた。
私はどうすることもできなかった。何も感じなかった。ただ私たちは、天使のように宙に浮いた女の子をただ見ていることしかできなかった。
彼女はホテルの外にある庭のようなところに埋められた。振り返れば後ろにホテルに泊まっている全員が駆けつけていた。
フラワーは部屋にこもったままだ。彼女を守れなかった罪として体が重くなっているのだろう。
ルビーを埋めた大きめのスコップが雑に地面に置かれていた。錆びていて汚かったが、バブルはそれを見つめていた。すると突然目に激痛が走った。バブルはすぐさま目を両手で覆い隠した。火に炙られているような痛さだった。涙がたくさん出てきた。
「バブル…?大丈夫か?」
隣にはファニーがいた。私を心配してくれていた。ああ、私を心配してくれているなんて、幸せな人を持ったな。
「だ、大丈夫だよ…急に痛くなっただけ。」
それでもバブルは目を覆わずにはいられなかった。
「私、洗面所行ってくるから、ファニーは待っててね!」
と、言葉を放ち、ファニーのもとを離れた。
バブルは察していた。多分私はおかしくなっちゃったんだろう、と。







