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西暦2005年2月19日産声と共に元気な女の子が生まれた。その女の子は由美と名付けられ、大層に可愛がられ甘やかされ女の子らしく育っていった。
由美の母親はとても心配性で何事にも過保護になってしまった。もう由美は小学生になったいうのに、相変わらず靴は母親が履かせている。着替えもお風呂も歯磨きも。
保育園や幼稚園には行っていなかった。母親が専業主婦というのもあり、周りが行かせようといっても、母親は自分で面倒を見ると言って聞かなかったからだ。
由美はこれが普通だと思っていた。なんでもしてくれる母親、可愛がってくれる父親。少し過保護すぎるがなんともない幸せで円満な家庭だ。
だが、小学校で問題が起きた。靴を脱ぐとき、どう脱げばいいのか分からない。給食を食べる時、箸の持ち方が分からない。由美はどうして私がしなきゃいけないの?なんて顔を浮かべて、周りのクラスメイトや先生を見つめた。いつもある女の先生が寄ってきて、箸の持ち方も靴の履き方も教えた。その先生の名は齋藤。齋藤先生は由美にいつも優しくしてくれた。
そしてとても心配していた。普通の小学生ならできることなのにできない由美を。齋藤先生は由美を見る度に、困り眉で微笑んでくれた。由美は不思議だった。どうして泣きそうな顔なのに笑っているのだろうと、幼いながらに大人の顔色を伺うのは得意だった。
母親が少しヒステリックなところがあったからだろう
「先生、靴履けない」と由美がいつものように言った。齋藤先生が駆け寄ってきて「靴はね、こうやって履くの。自分で出来るようになろっか 」とビリビリとマジックテープの靴を締めてあげた。「なんで?先生がやってくれるからいい」と生意気なことを言う由美。「周りの子はみんな一人で出来てるよ?大人になったらこんなことしてくれる人は居なくなるからね。できるようになろうね」と先生が由美の頭を撫でながら優しく言う。由美は少し不貞腐れながら頷いた。
由美は世界の何もかもが不思議で仕方なかった。なぜなら、ずっと家で過ごしていたからだった。外に出るのも大抵同世代の子たちは幼稚園等に行ってる。公園は好きだ。どこか解放されたような気持ちになったから、でももちろん遊具は禁止だった。公園に来たとしても、常に母親が手を繋いでおり、少し散歩をする程度で家に帰った。
世界中の女の人はみな母親のような人だと思っていたんだ。男の人は父親で。
けど齋藤先生は母親とは全く違った。ちゃんと靴の履き方を教えてくれた。箸の持ち方も教えてくれた。そして何より、ヒステリックに怒ったりしてこない。不機嫌そうな顔をみせない。いつだって、優しく微笑んでいる。
由美はそんな先生に特別な感情を抱いていたのかもしれない。
小学三年生。徐々に周りに慣れていき由美も普通というものを分かっていった。でも、相変わらず送り迎えは母親がいる。放課後に誰かと遊んだこともない。クラスメイトも徐々に発達して自分と他人を比べたり客観視できる年。なぜ由美はいつも母親がいるのだろう、放課後公園に行ったり、寄り道をしたりしないのだろう。と疑問に思った。ある男が由美に聞いた。「なんでお前いつもお母さんが送り迎えしてんの?」そう聞いた男の子は少し羨ましそうに、嫉妬や妬みがあるような、苛つきをチラつかせていた。由美はボソッと答えた「分かんない」クラスに元々馴染めていなかった由美だ。コミュ力がある訳でもない。なんて答えればいいのか分からなかった。男の子は少し顔を強ばらせて、去っていった。
次の日からなぜか由美はクラスメイトから避けられているような気がした。隣の席の子の机が離れていたような気がした。元々人の機嫌には敏感な由美。怖かった。クラスメイトとは関わっていなかったが、嫌われるのは嫌だった。すると昨日の男の子が寄ってきた。周りからその子は琉佳と呼ばれていた。琉佳は由美に「お前きめえんだよ、親と一緒に来てガキかよきもちわりー」と理不尽な暴言を後ろに何人か連れて、堂々と言った。由美は真っ白になった。こんな目の前で堂々と言われたのは初めてだったからだ。怖くなり、固まることしか出来なかった。何も言い返さない由美に琉佳たちは、更に鬱陶しがり、由美の机を軽く蹴って去って行った。
帰りの時間になり、相変わらず母親が校門の前に立っていた。琉佳たちも近くにいて、じっと由美を睨みつけている。由美はこわくなり、少し早歩きをしながら母親と一緒に帰った。
家に帰り、夜ご飯の支度をしている母親。相談するべきかしないべきか由美は悩んでいた。「ねえ、お母さん」と由美が少し声を震わせながら言った。母親は「ん?なにー?」と料理をしながら言う。由美は喉が詰まった。声が出なかった。「なんでもない」と無理やり声を出した。母親は不思議そうにしたが、こういう時に限って詮索してこない。父親が帰ってきた。ご飯が食卓に並べられた。だが、由美は食べる気にはなれず、ハンバーグとご飯を少しだけ食べて、手を止めた。母親が「え?美味しくない?」と少し強めの口調で言った。由美は母親の顔を見て、焦り不意に嘘をついた。「ううん!給食食べすぎちゃったからお腹すいてなくて」と笑いながら言い訳を言って、水を一気に飲んだ。「そう、ならもう片付けるわね」と言って、不機嫌そうに、食器を持っていく母親。由美は怖かった。「うん、ご馳走様」と言って、逃げるように部屋に戻った。
由美はベッドに飛び込み、はあっと大きな溜息をついた。今日は一段と疲れてしまった。琉佳くんの言ったことがずっとフラッシュバックしている。「きもちわるいかー」ずっとずっとあの時の言葉を思い出して落ち込む。私は普通じゃないのだろうか、確かに1人では何も出来ないな、私は。と自己嫌悪に陥る。涙よりも溜息が零れる。とてもしんどく辛いはずなのに涙は出せなかった。涙の出し方が分からなかったんだ。そんな時ふと齋藤先生を思い出した。小一の頃お世話になったなと、まだ他の学校へ行ったわけではなかった。今は5年生の担任をしていて、会うことは殆どなかったんだ。久々に会いたいなと思った。
色々と考えているうちに、朝日が登ってきた。午前4時、小鳥の囀りが聞こえてくる。もう朝か、なんてクマのできた目を擦った。身体が起き上がらなかった、学校に行きたくなかった。手が震えた、学校へ行く恐怖があった。齋藤先生がいたら、齋藤先生に会えるのなら行っても、と思えたが今日はどうしても行く気になれない。お腹が痛いとでも言えば母親は休ませてくれるだろう。
7時、母親が階段を上る音が聞こえる。「由美、朝だよ起きなさい」と母親が由美の身体を揺する。「今日お腹痛い」と小声で呟く。母親は心配そうに、「大丈夫?熱は?」と聞いた。「熱はないと思う、でもちょっと具合悪い」と由美が言った。「そっか、なら一応休んだ方がいいわね」と優しく母親が受け入れてくれた。ほっとした由美は静かに頷いた。母親が部屋から出ていったあと、由美は、はあっと深い溜息をついた。母親に嘘をついたのは初めてだった。だから、母親も簡単に由美を信じたのだろう。由美は少し手が震えている、母親に反抗してしまった気分になったからだ。由美は夜通し考え込んでいたので一睡もしていなかった、気がついたら由美は寝落ちていた。
目が覚めると夕方で、夕日が綺麗だった。由美には朝日より何倍も夕日の方が美しいと思えた。夕日を見ることはそうそう無い。放課後はすぐに帰るし、帰ってもずっと家にいるから。たまに窓からみるくらいだ。今日は久々に窓を開けてみた。ふわっと外の匂いや空気が入ってきて、とても気分が良かった。また、齋藤先生の顔が浮かんだ。困ったように微笑む齋藤先生の顔。あの時と同じような匂いがして、懐かしい気持ちになった。
今後沢山書いていくつもりです、第1章後半では、先生と由美の物語を。
2章ではある女が登場し、その子の物語を。
3章目もございますお楽しみに。
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