テラーノベル
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2026/04/01
sm視点
桃色の花弁、丘の上の桜の大木。
濃紺の星空、銀朱の月。
横を見るとAki–と-ヤノが居て、俺の腰に手を添える”君”がいる。
“君”は笑って俺の名を呼ぶ。
??「___スマイル。」
暖かくて、優しい声。
“君”の手を取って、俺は”君”の名を呼んだ___。
「っ…………!!」
はっきりした輪郭と、見慣れた天井。
伸ばされた手を呆然と見つめる。
「はっ……はぁ……?」
息が上がっていて、気持ち悪く感じるほど汗で濡れた肌の感触をありありと感じる。
悪い夢でも見たのだろうか。しかし、どんな夢を見ていたのか、まったく思い出せなかった。
「はぁ……」
重く息を吐く。最近同じことばかりが頻繁に起こるようになった。
朝起きて、汗塗れになった服を洗濯籠に放り込み、濡らしたタオルで汗まみれの体を拭く……
朝からやらねばならないことが山積みになることが憂鬱だった。
額から流れる汗をパジャマの袖で乱暴に拭い、時計に目をやると、時刻は9時半にさしかかろうとしていた。
随分と眠りすぎたと呑気に考えベッドから身体を起こす。
「…あ、時間…」
開店は10時だったはずだ。寝すぎたのもそうだが、開店が遅れてしまう。早く店を開けないと。
裸足のまま廊下を歩き、水浴び場のレバーを引くと、天井の装置が声を上げて水が流れ出る。
冷たい水が、悪い夢を見た後の背中にへばりつく重い気分を洗い流す。
タオルで体と髪をさっと拭き、服に袖を通して裏口から外に出ると、数匹のオオカミがのそのそと近づいてくる。
この子達の昨夜の狩りの成果を分厚く切り、地面にそっと置くと、しっぽを大きく振ってそれにかぶりつく。
「じゃあ今日はお前が店番、お前たちが狩りに行こう」
指を指しつつ指示すると、元気よくワン!と一気に吠えた。
中に戻って手を洗い、パンを食べながら醸造の素材を棚から引っ張り出す。
店を開ける準備を済ませて出入口の看板を「OPEN」にしてやれば、数人がぞろぞろと店に入ってきた。
屈強そうな男、貴族みたいな服を着た男、いろんな服を着た者たちがカウンターに木の札をカラカラと置く。
「……」
振られた番号と名前を確認し、棚からポーションを引っ張り出してカウンターに乗せると、ポーションを手に取りぞろぞろと店から出ていった。
全員こうして事前に予約してくれたらいいのに。と心の中で悪態をつく。
俺が経営している店は、街のはずれにあるポーションの店だ。
冒険者や貴族、いろいろな身分での需要がかなり高いものの製造できる人口がかなり少ないとされるポーションを作る俺の店は、有難いことに繁盛している。
……植物観察の副産物でポーションを作っているものだから、醸造と植物学者としての道具、そして日々の食費などで事足りるのだが。
なかなかどうして、ポーションは貴重らしい。
少し効果を弱めたポーションをたくさん売るだけで、数日で日々の暮らしで消費されるエメラルドの倍以上を稼いでしまう。
金を得て、平凡な日を暮らしている。
大半の人間が思い浮かべる、理想的な生活。
それでも、俺は満たされなかった。
孤独は随分と昔に慣れた。
それに俺には数匹のオオカミがいる。
金もあるし、植物研究も存分にできる。
……なのに。
どうして俺は、満たされないのだろうか。
カランカラン……
「いらっしゃい……ま、せ…?」
??「わあ、綺麗なお店ですね」
??「パパここでポーション買ってるんだ?」
10代前半くらいの2人の男の子。
そして……
30代前半くらいの、ギザ歯の男。
??「そう。ここのポーション効き目が良くてさ」
探検服を着た褐色肌の少年
元気な雷型のアホ毛をぴょんぴょんと揺らす少年
……濃い緑のマントを纏った、翡翠の瞳の男。
??「…?俺の顔になんかついてます?」
きょとんとする男から目を逸らしたくて手元を見ると、ひっくり返された麻袋の中からエメラルドが数個顔を覗かせている。
「あ……ぁ、何が欲しい?」
??「回復ポーション3つ。足りるか?」
「……」
コロコロと指で転がす。
確かに、ちょうど足りる。
「ちょうど、足りる。待ってくれ今持ってくるから」
カウンターから立ち上がり、身を隠すようにさっと裏に逃げる。
……初めて見た3人なのに。
人の顔なんて、まじまじと見つめるようなことした事ないのに。
どうして。
……どうしてこんなに、悲しいのだろうか。
「……お待たせしました」
桃色の液体が入ったポーション3つをカウンターに置く。少年は目を輝かせている。
??「よし。帰るか。」
??「はい!」
??「今日はパパが料理当番だよね?」
??「おう。”Akira”と”ピヤノ”は他の家事頼んだ」
??&??「はーい!」
平和そうな家族。
俺は、底なしの渇望を覚えた。
ドアが閉まる。彼らが行ってしまう。
俺はカウンターから出て、彼らを追った。
「っ…待って……!」
俺はドアを勢いよく開けた。
外から強い風が吹き込んだ。
思わず手で顔を遮る。
ふわりと甘い香りがした。
恐る恐る、目を開ける。
桃色の花弁、丘の上の桜の大木。
濃紺の星空、銀朱の月。
間違いない。繰り返し夢で見た、あの景色。
明晰夢か?周りを見渡すと、そこには”彼ら”がいた。
俺の手を握る、褐色の少年。
俺の服の裾を掴む、雷型のアホ毛の少年。
___俺の目を見る、”君”。
桜月の下、君は笑った。
俺は初めて、夢ならば覚めないで欲しいと思った。
ずっと見ていた記憶のない悪夢は、この甘くて暖かい夢だったのか。
2人の子供と、1人の男が俺の方に手を差し伸べる。
俺は……手を伸ばす。
そして、彼らの名を呼んだ。
「______。」
??「…さん、お母さん」
「……ん、」
py「おはようございます。ご飯もうできてますよ。珍しいですね、お母さんが当番を忘れて寝坊だなんて……って、えっ?お母さん!?」
「……ぁ、」
py「おっ、お母さん!なんで泣いてるんですか…!?痛いところあるんですか?!待っててください今お父さんを…!」
ぱたぱたと部屋の外へ走っていくピヤノの背を見つめる。
頬に伝う涙の理由を、この気持ちの名前を。
……俺は、知らない。
py「今お父さん呼びましたからね!お母さ…うわっ、どうしたんですか…?」
「……っ、あぁ」
py「……僕はここにいますよ、お母さん」
「__!」
強く、その小さな背を抱きしめる。
ああ、全て思い出した____。
彼らを忘れた夢を見た。
彼らがいない世界の夢を見た。
それは、停滞を受け入れていたあの時の俺の未来だった。
エイプリルフールの、もしもの世界の物語。
コメント
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初めてコメント失礼致します🙇🏻♀️´-胡桃沢 蓮さんのお話全部とってもとっても大好きなんですけど、今回のお話が特に好みすぎて気づいたらコメント欄に手が伸びてました…!!どれも表現がお綺麗ですし、最後まで読んでくにつれ、そういう?!あ、今日エイプリルフールだ…!!ってなって心臓バックバクでした!! これからも楽しみにしてます!!