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きっと、僕のこの恋話は誰もわかってくれない……

だって、僕が恋をしたのは僕たちにとってただの食料なのだから。


僕たちの種族は植物を食べる。そう、植物は食料だ。

だけど、僕は植物に恋をしてしまった。

そのコの名前はハナ。可愛らしい容姿と美しい声のコだった。


-恋に落ちたのは、透き通る青空が輝く日

僕の憂鬱な気分とは反対に空は憎いくらいに輝いていた。

「いいなあ、空は。学校に行かなくても、みんなに喜ばれて」

僕は、学校に行けていない。

だから 、親は「学校に行け」とうるさく、ごくたまに学校に行ったときだけ喜ぶ。

先生は「みんな、待ってるよ」と家に来る度に僕に言う。その度にそんなわけないという醜い気持ちに襲われる。

そんなに学校に行くのが良いことなのか。僕にとって学校は苦しいだけの場所なのに。

苦しい場所に行って、辛い思いをすることが親や先生が言っている『僕のため』なのだろうか。

わかってる、親が自分のことを想って学校に行けと言ってることくらい。

でも、本当に想ってくれてるなら、学校に行かなくてもいいと言ってくれてもいいじゃないかと思ってしまう。


「はあ、本当に僕は醜いなあ」

「そうかしら、貴方の容姿はとても整っているけれど」

花のように美しい声が聞こえた。誰もいないと思っていた僕は慌てて振り返った。

しかし、どこにも誰もいなかった。

「下よ、下」

耳を澄まして声が聞こえる場所を探す。-ここだ!

そこには、可愛らしい植物がいた。


「ねえ、君が話しかけてくれたの?」

「そうよ、貴方が容姿で悩んでるようだったから」

どうやら植物が話しかけてくれたようだった。だけど、勘違いしていた。

「いや、さっきは容姿じゃなくて心の醜さに悩んでたんだけど」

「へっ、そうなの。ごめんなさい」

いや、君が謝る必要はないのに。僕は申し訳なくうつむく。

その様子を見た植物は不思議そうに体を揺らす。

「でも、心も醜くはみえないけれど」

「それは、君が僕のことを知らないからだよ……」

「ふーん、じゃあ、教えてよ」


僕は彼女に僕が学校に行けていないこと、そして、親や先生の好意を皮肉に思ってしまうことを伝えた。

だけど、彼女はそれでも僕の心が醜いとは思わなかったらしい。

「だって、貴方は親や先生の好意に誠実に受けとりたいって悩んでるんでしょ。誰かの好意を誠実に受け取ろうと頑張ってる貴方の心が醜いわけがないわ」

「でも、学校に行けずに迷惑かけてるし……」

「そうかしら、誰にでも不得意なものがあるわ。貴方はそれがたまたま学校に行くことだっただけじゃない」

「でも……」

「じゃあ、親も先生も貴方に迷惑かけてるじゃない。だって、貴方は親や先生の言ったことで悩んでるわ」

「君は優しいんだね。ありがとう」

「ほら、誰かに感謝出来る貴方の心は醜くないわ」

彼女のそんな言葉に僕は心が軽くなった。


「名前なんて言うの?」

「ハナよ」

僕はハナがなぜこんなにも優しく接してくれるのか疑問に思った。

ハナにとって僕は、天敵の種族のはずなのに……

「君は僕に食べられるかもしれないのに、どうしてそんなにやさしくしてくれるの?」

「目の前で悩んでる子がいたら、それが天敵であろうと関係なく助けるものでしょ」

なんて美しいコなんだろう。僕は彼女から目を離せなくなった。

胸の鼓動が速い。体の体温が上がっていくのを感じた。

その瞬間わかった。


-ああ、僕は彼女に恋をしたんだ

決して叶うことのない恋をしてしまったんだ


それから僕は毎日、ハナのいる台所に行った。そして、ハナが死なないように水をやった。

ハナは行く度に僕に話しかけてくれた。雑談したり、僕の悩みも否定せずに全て聴いてくれた。

僕にとってハナは唯一の居場所になっていた。

この恋が叶わなくともよかった。

君と一緒にいられるなら

-でも、この世界はそんなにやさしくなかった-


「今日のご飯はハナっていう植物よ」

母が言った。

急いで、台所へ向かう。

「お母さん、これ、僕が食べてもいい?」

僕が進んで食べたいというのが珍しかったのか、嬉しそうに母は頷いた。


「ハナ、僕がこっそり外に出るから逃げて」

「いいえ、逃げないわ」

ハナはきっぱりと言った。

「どうして!?」

「私は、もうすぐ枯れるわ。食べられなくても死ぬの」

「そんな……」

どうすればハナがいきられるんだ?

もう一度土にかえす……?

ハナは僕が考えていたことを察したようだった。

「ありがとう、私のためにいろいろ考えてくれて。でも、もういいの」

「えっ。で、でも、君が助かる方法はあるはずだよ!」

「ええ、探せばきっとあるわ」

「なら……」

ハナはどこか寂しそうで、嬉しそうな声で言った。


「貴方が私を食べて」


ハナを食べるなんて僕には出来ない、そう言いそうになった。

でも、それがハナのネガイなのなら、僕は……僕は……!

「君を、ハナをいただかせて下さい」

「はい。いただいて下さい」

ハナを持っていた手をやさしく広げた。そして、口をハナの体に近づけた。

「僕ね、ハナのことが好きだよ」

「私も貴方のことが好きよ」

僕たちは照れくさそうに笑いあった。 そして、ハナにそっと口づけをする。

ハナは嬉しそうに体を揺らした。


「ねえ、ハナ最後に言いたいことがあるんだ」

「私も」

「ハナ」

「あなた」


『ありがとう』



ハナはもう二度と可愛らしい容姿と美しい声を僕にみせることはなかった

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