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狂愛、情愛
「ただいま」
ガチャ、と音がしてターボーが帰宅する。座っていたちょんまげは、声を聞いて立ち上がった。
「おかえり、ターボー」
じゃらり、と音を立ててちょんまげはターボーの側に行く。ターボーはそれを見て、優しく抱きしめた。
「今日もいい子にしてた?」
「うん」
抱き上げてソファにちょんまげを座らせ、そっと足首の枷を外す。自由になったそこには赤い痕が付いていて、ターボーはちゅ、と口付けた。
「ごめん、痛かった?」
「大丈夫」
鎖には十分な長さがあるし、この部屋を歩く分には問題はない。トイレにも行ける。ただ、外に続く扉には届かない。
「じゃ、メシにしようか。何がいい?」
「えっと、スパゲッティ」
不自由な生活を強いている代わりに、ちょんまげのリクエストは可能な限り受け入れる。ターボーはフライパンを出してざっと材料を確認する。
「ナポリタンでいいか?」
「うん」
嬉しそうにテーブルに座るちょんまげを見ながら、ターボーは鍋の水を沸かし始める。
もうこんな生活も、一ヶ月程になるだろうか。
ちょんまげは、最初は何を言われたのか分からなかった。
「今日からさ、一緒に暮らそうか」
ターボーの提案は突然で、会社の食堂でご飯を食べていたちょんまげは目を瞬かせる。
「きょ、今日?」
「ん」
ターボーはさも当然のような顔をして、コーヒーを飲んでいる。
「でも、着替えとか荷物とか」
ちょんまげとしては、あのアパートを引き払うつもりはない。ターボーの申し入れは嬉しさは感じるが、急な事でどうしたものかと考える。
「ああ、大丈夫。うちにあるの使えばいいし、いる物は言ってくれれば用意するし」
ターボーはそう言うと、スマホを見始める。仕事でいつもの動作ではあるが、ちょんまげはふと不安になった。
「いや、急すぎでしょ。今日はうちに帰って、とりあえず考えてみるから」
何か隠してる気がする。そう思って食べ終わったお盆を持つ。立ち上がったちょんまげの手を、ターボーはギュッと掴んだ。
ガランッ
食器が落ち、周囲の目が向く。慌てるちょんまげの手首を掴んだまま、ターボーはニヤリと笑った。
「ダメ。もう決めたから」
目の奥は笑っていない。会社では強引な手段も使うし、情が薄いと言われているターボーだが、今までちょんまげにその顔を見せた事はなかったのに。
「……僕、仕事に戻る」
手を振り払い、食器を集めて食堂を出る。
いつまでも、ターボーの視線を背中に感じるような気がした。
定時ですぐに帰ろうとしたちょんまげだったが、やはりターボーが一枚上手だった。
「どうぞ、羽立さん」
秘書の竜崎が、車のドアを開けて待っている。有無を言わさぬその雰囲気に、ちょんまげは一歩引いた。
「あ、あの。僕はうちに帰るんで」
「送ります。どうぞ」
「いや、大丈夫ですから」
乗ったらそのままターボーのマンションだ。そう思ったちょんまげはとにかく断ろうとするが、
「社長からの伝言です。『大人しく車に乗って、いい子にしてろよ』だそうですが」
なんて事を秘書に言わすのか。
ちょんまげは思わず頭を抱え、そして彼女を見る。
(竜崎さんも仕事だろうし、僕が逃げたら困るんだろうな……)
仕方ない。ちょんまげは車に乗り込む。隣に竜崎が座り、静かに車は走り出した。
「……」
「……」
沈黙が車内を支配し、車はやはりターボーのマンションに停まる。車を降りたちょんまげは、竜崎に見張られながら最上階に行く。
「では、社長が戻るまで寛いでいて下さいね。私はここで失礼致しますので」
一礼し、竜崎はハイヒールを鳴らして去っていく。
さて、どうしたものか。
一瞬このまま帰る事を考えたちょんまげだが、カバンからカードキーを出した。
(ターボーが帰ってきたら、ゆっくり話し合えばいいか)
綺麗に片付けられた部屋は何度か来たことはあり、迷うことなくリビングに着く。ソファに座ってテレビを見ながら二時間程で、玄関が開く音がした。
「ちょんまげ、いる?」
「いるよ。っていうか、ターボーが連れてきたんでしょ」
ひょこりとターボーが顔を出す。満足げな笑いを浮かべたその顔を見て、ちょんまげはどう話をつけようかと考える。
「ターボー、僕さ」
「ちょんまげ、明日から休暇取ってくれ」
さえぎられて言われた言葉に、ちょんまげは口をぱくぱくを動かせる。
突然の同棲宣言に、次は休暇の強制ときた。
ターボーが何を考えているのか、ちょんまげにはさっぱり分からない。
「え、どうして? いつまで?」
「んー、とりあえず一週間」
ジャケットを脱ぎながらターボーはそう言う。そして、ちょんまげの隣に座った。
「でさ、その間はここにいて欲しいんだ」
一週間。ずっと同棲するわけではないらしい。
そう理解したちょんまげは、何故かを訊こうとして止めた。
ターボーの眼が、あまりにも真剣だったから。
「……分かった」
「ん、いい子」
「子どもじゃないよ、同い年でしょ」
ターボーは笑いながらちょんまげの額にキスをする。そのまま熱い夜にもつれ込んで迎えた朝には、ターボーはさっさと着替えを終えていた。
「……もう朝?」
「おう、ゆっくりしとけよ。朝メシはテーブルにあるから」
昨夜の激しさを微塵も見せず、ターボーは爽やかな笑みを浮かべる。絶倫とはこのことか、とちょんまげは痛む腰をさすりながらベッドから起き上がる。休みで良かった。これでは仕事にならない。
「いってらっしゃい」
とりあえずそう言うと、ターボーは「行ってきます」とドアに手を掛ける。そして、振り返った。
「ちょんまげ、絶対家から出るなよ」
「え?」
「約束、な」
バタン。ドアが閉まる。
「……えー」
一方的な約束に、ちょんまげは低く唸る事しか出来なかった。
それから一週間、ちょんまげはターボーの部屋から出る事なく過ごした。特に用事もなかった事もあり困りはしなかったが、ただ多少のストレスは溜まっていく。引き篭もっていた頃だって、こんなに外に出ない事はなかった。時々は買い物などで外出する事もあったというのに。
「でも、今日で終わりかあ」
昼はただのんびり過ごし、夜はターボーと愛し合って。このまま堕落した生活に慣れきってしまうのも怖い。
「あ、明日は頼んでたやつ届くなあ」
スマホに来た連絡を見て、ちょんまげは呟く。一週間使った物は、また泊まりに来る時に使えばいい。身一つで帰ればいいからと、ターボーの帰宅を待つ。
しかし、帰宅したターボーは、あっさりと前言を撤回した。
「あー、あと一週間追加で」
「はあ?」
「ごめん、もうちょっと我慢してくれ」
ターボーはそう言って撫でてごまかそうとするが、ちょんまげはそうはいかない。
「どうして? 家からも出るなとか、理由も聞かずに聞けるわけないじゃんか」
そう反論するが、ターボーは困ったように眉を下げた。
「ごめん、言えない」
言えない、の一言で納得はできないちょんまげだが、こうなったらターボーはなかなか口を割らないだろう。
じっと二人で見つめ合う。白旗を上げたのは、やはりちょんまげだった。
「……もう、頑固だよねターボーは」
「ほんとごめん」
仲直りのキスをしながら、ちょんまげはまだ事態を軽く考えていたのだった。
次の日、ターボーを見送って少ししてから、ちょんまげはこっそり家に帰る事にした。目的は宅配便で、もうずっと楽しみにしていた物でもある。受け取ってすぐにターボーのマンションに持ち帰ろうかとも考えたが、見つかると外に出た事がバレてしまう。後の楽しみにしてアパートに置いて行き、昼前にはマンションに戻った。
ただ、それだけだったはずなのに。
「……ちょんまげ」
外出から二日後、ちょんまげはターボーの前に座らされていた。
「な、何?」
威圧感が凄い。圧倒されるこれは……怒りだ。
「勝手に出歩いちゃダメだって、言ったよな?」
どうしてバレたんだ。そう思いながら、ちょんまげは怒りをおさめる案を考える。
「い、行ってないよ。勘違いじゃない?」
これが、最悪の答えだった。
「へえ、ちょんまげは俺に嘘をつくんだな?」
ターボーはそう言うと、薄寒い笑顔を向ける。
「う、嘘じゃ、ない」
「動揺してる。嘘が下手だよな、ちょんまげは」
ガサガサと音を立て、ターボーは袋から何かを取り出す。鈍く光るそれは……
「な、何、それ」
見た目は手錠のように見えたが、よく見ると違う。
「ちょんまげをここに繋ぐ方法」
ターボーはそう言って、輪を手すりに取り付けた。じゃらりと重い音が鳴る。そして、もう片方の輪を持ってちょんまげに近づく。
「何、やだ、ごめんなさい!」
「だーめ。嘘つきの悪い子は、ちゃんとお仕置きしなきゃ、な」
逃げようとしたちょんまげの足を掴み、そっと撫でる。座り込んだちょんまげの前に跪き、その輪を足首に取り付けた。がちゃん、と音がする。
「痛くない?」
「……うん」
冷たさは感じるが、キツさや痛みはない。おもちゃではない証のように、しっかりとした鉄の輪は重かった。
「ちょんまげ、絶対逃さねえから」
それは深い愛なのか、酷い執着なのか。
「……逃げないよ」
ちょんまげの言葉に、ターボーは足先を恭しく取ってキスをする。その感触は全身に広がり、ちょんまげを甘く縛っていく。
「似合うな」
「こういうのに、似合うとかってあるの?」
手に鎖を巻きつけて、ちょんまげはターボーに見せる。それを見たターボーは、ちょんまげの服を胸までたくし上げてペロリと舐めた。ヘソを舐められたちょんまげは、くすぐったさに身をよじる。
「これがあると、下は脱げないね」
「まあ、引っ掛ければいいだろ」
乳首を指でこね、ターボーは笑う。そのまま膝まで下着ごと下ろせば、ちょんまげの下半身が無防備になる。
「えー、これじゃ足が開けないけど」
「抱っこしてやるから、後ろからな」
「やだ、こっちは脱がせてよ」
ちょんまげの要望に、ターボーは言われた通り右足からズボンとパンツを脱がせる。左は枷で脱がせられないから、そのまま足首に引っ掛けておく。
「ごめんな、不自由な思いさせて」
ちゅ、ちゅと胸に唇を落としながらターボーが呟く。
「……ターボーの事、信じてる」
ちょんまげもまた、ターボーからの愛撫に身を委ねる。やがて唇は相手の唇に重なり、淫らな水音が漏れる。歯列をなぞり、舌を弄り、絡め合う。閉じたちょんまげの目蓋を至近距離で見つめながら、ターボーはキスを深めていく。
「んうっ」
潤滑油を絡めたターボーの指が、ちょんまげの尻を割る。その奥の窄まりを撫で、ゆっくり慣らしていく。やがてその指が三本に増えた頃、唇がようやく離れた。
「はあっ、はあ……」
口の端からよだれを流したまま、ちょんまげがぼんやりと視線を空に向ける。触れてもいない彼の芯は、すっかり主張している。
「キス好きだよな、ちょんまげ」
溢れそうになっていた先端の蜜を指で取り、ターボーは「可愛い」と呟く。そして、服を脱ぎ捨てた。
「ちょんまげ、ちょっと我慢な」
手探りで棚からゴムを出し、パッケージを咥えて破る。その合間にも、片手ではちょんまげの蕾をほぐしていく。
「あ、もっと、奥……っ」
「ん、すぐ行くから」
自身にゴムを付け、ちょんまげを押し倒す。左足の枷は鎖ごと持ち上げ、負担がかからないように腕に巻きつける。そうしてちょんまげの両足を持ち上げると、ヒクヒクと待ちわびている綻びかけた蕾に押し入った。
「ふわっ、ああっ」
ちょんまげが高い声を出す。情事の時にしか聞けないその声をもっと奏でたくて、ターボーは浅い場所でゆっくりと抽送を繰り返す。ぬぽ、ぬぽと静かな部屋で音が響く。
「た、ターボーっ、早くぅ!」
焦れたちょんまげが腰を動かす。足が動いた事で右腕の鎖が締め付けたが、些細な痛みよりも快感が強い。
「欲しい?」
「欲しいっ、ターボーのおっきいの、奥にちょうだいっ」
余裕のないちょんまげの言葉に、ターボーも徐々に余裕を失っていく。濡れた内壁を擦り上げれば、ちょんまげは身体を震わせた。奥をノックすると、びゅる、と先端から白濁が噴き出し、ちょんまげの腹を汚す。
「先にイっちゃった?」
「はあ、はあ、ごめ」
「可愛いなあ、ちょんまげは」
薄い腹に塗りたくれば、ちょんまげが荒い息の中で眉を寄せる。奥を何度も突き、ターボーはちょんまげの手を取った。
「ほら、ここ」
うっすらとターボーの形を手のひらで感じる。ちょんまげは「バカ」と呟きながらもうっとりと目を細める。
「痛かったら言えよ」
ターボーはそう言って、ちょんまげの足を持ち直す。そのまま激しく腰を動かせば、ちょんまげの身体が弓形に反る。繋がった場所からはズブズブと音が漏れ、喘ぎ声と合わさって部屋を満たしていく。腕と足の間を揺れる鎖が当たって、時々じゃら、と不協和音を奏でても、もう二人には聞こえていない。
「ちょんまげ、はあっ、太輔っ」
「隆弘、好き、すきっ」
一番奥を突けば、二人は同時に快感を解放する。勢い良く放たれたちょんまげの精液がターボーの胸まで飛び、ぎゅうと締め付けられたターボーはその収縮を余韻まで愉しむ。萎えた自身を引き抜けば、ゴムははち切れんばかりになっていた。
「……太輔、大丈夫?」
ゴムを捨てて、腕から鎖を外す。少しばかり痕が残ったが、シャツやジャケットで隠せるだろう。ちょんまげの足を取って枷周りを確認すれば、やはり擦れて赤くなっていた。
「痛い?」
「大丈夫だよ」
ちょんまげは起き上がり、確認しているターボーの指に触れる。
「隆弘に貰った物は、僕を傷つけたりしないから」
軽いキスを交わし、ちょんまげはターボーの胸に頭を預ける。そのまま目を閉じれば、大きな手にそっと抱き締められた。
結局その一週間はさらに延長され、ちょんまげはマンションから一歩も出られない日々を過ごした。一日中着けられていた足枷は、ある日からターボーがいる時には外されるようになった。足首への負担と、セックスに邪魔だったからかもしれない。
そんな中、ターボーは行きつけのバーに足を運んだ。そこにはカンタローがいて、ターボーに気付いて手を上げる。
「よ、カンタロー」
「相変わらず、忙しそうだな」
グラスを合わせ、一息つく。
「で、ちょんまげはまだマンションに?」
カンタローの言葉に、ターボーは頷いた。
「なるべく家にいるようにはしてるんだけどさ、最近動きが無くて」
「ふーん、どうしたもんかねえ」
二人で話していると、隣で飲んでいた貧ちゃんが首を傾げる。
「ん? 何の話?」
二人は顔を見合わせ、「何でもない」と声を揃える。
「なんだよそれ。怪しいなー」
「何でもないって。ほら、もう一杯」
カンタローにグラスを渡され、貧ちゃんは一気に呷る。そして不満げな顔を向けてくる。
「二人だけで盛り上がって、なんかズルいぞ」
「まあまあ、今日は送っていくから」
カンタローが言うが、す拗ねた貧ちゃんは「先帰るー」とさっさと出ていく。
「いいのか? 一人で帰して」
「そんなに飲んでないし、大丈夫だろ。それよりこれからどうするか、相談乗るぜ」
カンタローの言葉にターボーは頷く。今日は少し遅くなりそうだ、とメッセージを送りながら。
ぴんぽーん
スマホを見て少し落ち込んでいたちょんまげは、突然の来客に驚いた。
「あれ、貧ちゃん」
『開けてくれー』
外出は禁止されているが、来客を入れる事は禁止されていない。ちょんまげはインターホンからロックを外す。
「どうぞー」
ガチャリと貧ちゃんが入ってくる。手にはビニール袋を持っていて、ちょんまげを見て笑顔を引き攣らせた。
「えっと……なんかのプレイ中?」
「え? あ、これ」
ちょんまげの足を拘束している足枷。モデルルームのような部屋にはあまりにも異質で、貧ちゃんはじっと見つめたままビニール袋をテーブルに置いた。
「ターボーが帰ってきたら、外してくれるんだ」
「そうなんだ」
ビニール袋から出てきたのは缶チューハイで、久しぶりのアルコールにちょんまげもいそいそと棚からナッツを取り出す。
「イカとかねえの?」
「僕は、カンタローの焼き鳥、食べたいなあ」
「ん、今度持ってくるわ」
二人で乾杯し、たわいもない話をする。
「てか、いつの間にこんな趣味?」
ちょんまげの前髪を留めるヘアゴムには、赤く丸い飾りが二つ。まるで小学生女子のようだが。
「あー、ターボーが毎朝選んで付けてくれるんだ。他にも星とかふわふわとか……」
「なんだ、ターボーの趣味か」
「それより、カンタローは元気?」
「ああ、それがさ……」
お互いのパートナーの話になると、愚痴もおもん惚気も出てきて盛り上がる。ちょんまげが笑うたびに揺れた鎖がチリチリと鳴り、貧ちゃんはそれを手に取った。
「……ターボーは僕を大事にしてくれてる。でも、外出だけは許してくれないんだ。嘘ついた僕が悪いんだけど」
足枷を着けられるまでの話をしながら、ちょんまげはふう、と息を吐く。
「ん、ちょっと見せろ」
貧ちゃんはちょんまげの足を引っ張り、枷をまじまじと見つめた。そして、カバンからヘアピンを取り出す。
「え、何?」
「これ、外せるかも」
ガチャガチャと伸ばしたヘアピンで鍵の辺りを探る。やがて枷はあっけなく外れてしまった。
「え、貧ちゃん?」
「ターボーが何考えてるかは分かんないけど、こうやってちょんまげを縛りつけるなんてダメだろ! よし、飲みに行こうぜ!」
「で、でも……絶対外に出るなって……」
貧ちゃんは、尻込みするちょんまげの手を強引に掴む。
「いいよ、怒られたら俺がやったって言ってやるから。あいつらだって二人で飲んでんだから、俺達が飲みに行ったって文句ねえだろ」
そう言われると、確かにそうかもと思えてくる。今日は遅くなると連絡があったばかりだ、夜になる前に戻ればいい。
「うん、行こうか」
「よっしゃちょんまげ、そうこなくっちゃ!」
手早く着替えて、二人で外に出る。
「うわ、意外と寒い……」
「ずっと暖房が効いた部屋にいたもんなあ」
久しぶりの外出に、ちょんまげの足取りも軽くなる。貧ちゃんもそれに合わせ、この時間から開いている店を探している時に。
「あ、羽立さん」
不意に後ろから声を掛けられた。
「え?」
振り返ると、スーツ姿の男が立っている。不審げに見る貧ちゃんだが、ちょんまげはぺこりと頭を下げた。
「知ってる人?」
「うん、会社の人。別の部署の人なんだけど、よく会う事があってさ」
その男は、ちょんまげの前にやってくる。
「最近会社にいませんでしたよね? 休暇ですか?」
「あ、ちょっと」
なんか胡散臭い奴だな、と貧ちゃんはジロジロと男を見る。ちょんまげは同じ会社の同僚だからか、そこまでの警戒はないようだが。
「あ、社長の極秘ミッションとか? なんかカッコいいですねー」
「あは、ははは」
事情を言えないちょんまげは、どうしたものかと考える。そろそろ助けてやるかと貧ちゃんが口を挟もうとした時。
「ねえ、羽立さん。社長があなたに何か隠してるの、知ってますか?」
ぴくり。ちょんまげが揺れた。
「……」
「オレ、知ってるんですよ……言わなきゃって思ったんですけど、羽立さん会社休んじゃったし」
嫌な言い方だな、と貧ちゃんはちょんまげの腕を引っ張る。
「それなら俺が一緒にターボーに訊いてやるよ。ちょんまげ、行こうぜ」
「うん。それじゃ」
ちょんまげもそう言って離れようとする。しかし、男はちょんまげの手をしっかり掴んだ。
「いやいや、また社長に隠されちゃ困るんで」
「はあ?」
振り解こうとするちょんまげを、近付いてきた車に強引に押し込む。
「ちょんまげに何すんだよ!?」
飛び掛かる貧ちゃんを、男は流して後ろ手に捕える。
「どうすんだよ、そいつ」
「騒がれても面倒だな、こいつも連れてくか」
そのまま、男は貧ちゃんごと車に乗り込む。車は静かに発進し、街中に消えていった。
ちょんまげが目が覚めた時、そこは薄暗い部屋の中だった。
(あれ……?)
混乱している。一瞬マンションにいるのかと思ったが、匂いが違う。目が慣れてくると、狭い部屋の中にいる事が分かってきた。
「あ、貧ちゃん……」
そうだ、車の中に押し込められた。その後、同僚が貧ちゃんと一緒に乗ってきたのは覚えている。
「あ、目は覚めましたか?」
ドアが開き、同僚の男が顔を出してきた。向こうの部屋は明るいようで、光が差し込んでくる。
「ここ、どこ……貧ちゃんは……?」
頭が痛い。ついでに首も。そう思って手を伸ばしたちょんまげは、首に妙な感触を覚えた。ちゃら、と音が鳴る。
「似合ってるよ、羽立さん」
これは首輪だ。ターボーに着けられた足枷程ではない、軽い鎖がついている。
「お連れさんは別の部屋にいるよ。いい子にしてたら、会わせてやるから」
人の良さげな笑顔が、砕けてきた口調が、空恐ろしく感じてくる。
「ひ、貧ちゃんが無事なとこ、見せてよ」
とにかくそれを確認したい。ちょんまげの主張は、あっさりと却下された。
「心配しなくても、乱暴な事はしてないよ」
人を監禁するような人間を、信用できるものか。そう思ったちょんまげだが、支配的な人間にはどうするべきかを知っている。
「……分かった」
とにかく、従順にする事だ。耳を澄ませても、大きな音はしない。きっと貧ちゃんは大丈夫だ、そう信じ込む。
「うんうん、素直が一番だよ」
男はそう言って、ちょんまげの頭を撫でる。そして、立ち上がって壁のスイッチを押した。
「んっ」
照明がつき、部屋をあらわにする。目に飛び込んできたのは、壁に貼られた無数の写真だった。
「な、何、これ……」
ベランダで、団地内で、公園で、会社内までも。全てがちょんまげの写真で、どれも目線は合っていない。隠し撮りだとすぐに分かる物だ。
「ふふ、ここまで増やすのは苦労したよ」
男は誇らしげに言い、ちょんまげの側にしゃがみ込む。
「キミにも送ってあげたでしょ? 郵便受け、ちゃんとチェックしてる?」
そう言われ、ちょんまげは否定も肯定もせずに黙り込む。正直言えば、郵便受けなどDMしか入らないのでほとんど開けていなかった。たまに来たターボーが、「時々はチェックしろよー」と言いながら整理していたが。
「ずっとキミを見ていたんだよ……」
近づけられた指がそのまま頬に、顎に、首筋を伝って胸元をくすぐる。
「ねえ、社長には可愛がられてるの?」
「そ、んな事、ない」
別に会社に二人の関係を秘密にしているわけではない。ただ、面倒事にならないよう、言っていないだけだ。
「嘘でしょ。感度良さそうだもん」
乳首を乱暴に弄られる。思いとは裏腹に少し硬くなる蕾を楽しげに弄りながら、男は含んだ笑いを浮かべた。そのまま脇腹を撫でられ、ズボン越しに腰を、腿を、足先まで。その指先が裾に引っ掛かった時、男は笑顔を引っ込めた。
「これ、どうしたの?」
ズボンの足元をたくし上げられる。そこには、足枷で出来た赤い痕がある。
「社長にやられたの? こんな傷を……」
自分の身を守るには、従順を装う事。しかし、ちょんまげはそっとその痕に触れた。
「これは、愛の証、だから」
愛おしく撫でる。これはターボーの愛の証。
「愛? それなら、オレがもっとあげる。痛いのじゃなくて、気持ちいいのを」
男の言葉に、ちょんまげは静かに首を振る。
「僕は、これ以外にいらない」
その拒絶の言葉に、男の表情が凍りつく。
「……へえ、そうなんだ。そっか、それなら……」
ぐいっと鎖を引っ張り、ちょんまげを引き倒す。うつ伏せに倒れたその上に馬乗りになり、そのまま鎖を手繰り寄せる。
「う、うぐぅ……っ」
「痛いのが好きなんだろ? しっかりと刻み付けてやるから……オレの、愛をさあ!」
首輪が喉を圧迫し、ちょんまげは両手で首を掻きむしる。苦しい、苦しい。逃れたくても男は体重で抵抗を抑え込み、ちょんまげはただ両足をばたつかせる。
(ターボー、助けて……!)
「どう? 社長よりイイだろ?」
鎖が緩み、ようやく空気が入る。髪のちょんまげを掴まれ、涙とよだれでぐちゃぐちゃの顔を晒される。
「いい子にしてたら、痛い事しないからさあ」
殺される。身近に感じた死の気配に、ちょんまげはそれでも譲れなかった。
「……いや、だ」
痛いほどちょんまげを引っ張られ、髪留めを外される。赤い飾りがついたヘアゴムを、男は乱暴に放り投げた。からんっと小さな音が鳴る。
「じゃ、身体に教えてあげる……飼い主は、誰なのかをさ」
男の指が伸びてくる。黙って言いなりになるものか、そうちょんまげが思った時、大きな音がした。
バタンッ!!
「ちょんまげ!!」
それは一番聞きたかった声で、ちょんまげは必死に頭を上げる。
「ター、ボー……っ」
状況を見たターボーは、怒りの眼で男を睨み付ける。
「テメェ……覚悟は出来てるんだろうなあ……」
「くそっ」
男は鎖を締め上げ、ちょんまげが苦しさにうめく。
「どらああああっ!!」
ターボーの拳が男の顔面を捉え、そのまま吹っ飛ばす。鎖が絡まりちょんまげも引きずられたが、ターボーは容赦せず男の鎖を持った腕を掴んで捻りあげる。
「へし折ってやろうか……ああ?」
「ひ、ひぃ……っ」
ぐぐ、と腕が軋む。男の顔が、次第に青くなる。
「しゃ、社長……痛い……っ」
「ああそうだろうなあ……ちょんまげはもっと痛かったはずだがなあ!!」
鎖を落とした男の腕を捻り上げたまま、ターボーは倒れたちょんまげの側に近付く。
「ちょんまげ、大丈夫か?」
「……ターボー、乱暴すぎ」
ゆっくりと身体を起こしたちょんまげの頬は少し腫れていて、首には擦過痕が痛々しく付いている。掴んだ腕を折ってやろうかと思ったターボーだったが、部屋にカンタローと貧ちゃんが駆け込んできた。
「ちょんまげ、無事か!?」
「ターボーストップ! やり過ぎになるぞ!」
慌ててカンタローが男をターボーから引き剥がす。
「カンタロー、そいつ逃すなよ」
ターボーはそう言って、ちょんまげを抱き起こした。首輪は革の粗雑な作りで、すぐに外せる。自由の身になったちょんまげは、そのままターボーの腕の中で目を閉じた。
「カンタロー、あっちの男は?」
「ぶちのめして転がしてる。しばらく起きないと思うけど」
どっちがやり過ぎなんだか、とターボーは口の端を緩める。そして、取り押さえられた男の前に行った。
「ようやく尻尾を掴んだぜ。よくもちょんまげをいたぶってくれたな」
「な、なんでここが……」
その質問の答えは簡単だ。ちょんまげのヘアゴムに付けていた紛失防止タグ、それを追って来たのだから。答えるつもりはないが。
「うちの会社のヤツだとは、あの隠し撮り写真で見当ついたが、なかなか一人に絞れなくてなあ……。まさか、貧ちゃんがちょんまげを連れ出すとは思わなかったけど」
「う、ごめんっ」
貧ちゃんは謝るが、これがなければまだ解決までには時間が掛かっていただろう。
事の発端は、ちょんまげの放置していた郵便受けの中にあった封筒だった。宛名も差出人もないそれを不審に思ったターボーは、ちょんまげに言わずにそれをマンションに持ち帰り、ストーカーの存在に気付いた。すぐにちょんまげをマンションに隔離し、仕事も休ませて犯人を探したが、ちょんまげの姿が見えなくなると犯人の動きも見えなくなり捜査は難航、そして今に至る。
「一回だけちょんまげがアパートに戻った時、アパートに入るちょんまげの写真を撮って俺のマンションにわざわざ届けたよな? それで、営業かなんかの外回りのヤツだろうなとは思ったんだよ」
「……オレの方が、羽立さんを愛してる」
カンタローに捉えられたまま、男はうめくようにそう言った。だが、それはもはや負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
「ちょんまげ、起きてるか?」
ターボーが腕の中を覗くと、ちょんまげが閉じていた目を開く。そして、首に手を回して唇を合わせた。
「うわ、大胆」
貧ちゃんの言葉通り、キスは徐々に深くなっていく。ようやく離れた時には唇からの唾液が二人を繋いだまま、ちょんまげはうっとりとした表情でターボーを見つめていた。
「バカ、人前でやり過ぎ」
「ターボー……早く帰りたい」
よしよしと頭を撫で、ターボーは男を見る。その眼は先程までの愛おしさを乗せたものではない、冷徹な眼差しで。
「お前の処分は、追って知らせる。別室のヤツも、会社で見た顔だからな、すぐに素性を調べて然るべき処置をする。それまではここで大人しくしとくんだな」
ちょんまげを抱き上げたまま、ターボーは部屋から出ていく。それを見送ったカンタローは、男を解放して貧ちゃんの肩を抱く。
「いやあ、怒らせちゃまずい奴を怒らせたな」
「ターボー、完全にキレてたもんな。ま、カンタローもだけど」
「……貧ちゃん、家でゆーっくり話そうか」
腕を押さえてうずくまる男など居なかったように、二人もマンションを後にした。
マンションに戻る頃には夕暮れ時になっていた。ターボーはまずシャワールームに向かい、 ゆっくりちょんまげの服を脱がせる。
「どこか、痛くないか?」
「首とほっぺたが、ちょっと痛い」
まずは頬にキス、そして首にも。痛々しい痕はしばらくは消えないだろう。
「ごめんな、遅くなって」
ターボーの謝罪に、ちょんまげは首を振る。
「来てくれた、でしょ」
ターボーも服を脱ぎ、二人でシャワーを浴びる。泡タイプのボディソープをたっぷりと手に取ったターボーは、ちょんまげの身体を手で洗っていく。
「ターボー、触り方がいやらしい」
「ま、そりゃそうだろ」
肩を、腕を、背中を、胸を。胸の突起を掠めると、ちょんまげの身体が少しだけ強張る。
「ちゃんと俺を見て」
言われ、ちょんまげは伏せていた目を上げる。
「お前に触ってるのが誰か、ちゃんと見てろよ」
普段は恥ずかしさが先に来てなかなかターボーを見ないちょんまげだが、この声に頷く。太い指が小さな突起を優しく摘み、先端をこねる。いつもと同じように、ちょんまげが快感を得られるように丁寧に。
「あっ……」
気持ち良さげにちょんまげが声を漏らす。腫れた頬もそうでない方も、赤くなってきている。それでもいつもは閉じられた目はターボーを見つめていて、それが妙な背徳感を醸し出す。
「可愛い」
「ううっ」
目を閉じようとするちょんまげの耳をかじり、「俺を見て」と囁く。ちょんまげは観念して目を開け、耳から離れたターボーと視線を合わせた。
「うん、隆弘を見てる」
その声はターボーの心にストンと落ち、愛おしさにその痩身を掻き抱く。シャワーのお湯を出して泡を落とせば、ちょんまげのまっすぐな視線がターボーを射抜いた。
「隆弘しか、見えない」
ちょんまげはその胸にちゅ、とキスをする。厚い胸板に一度、二度。
「くすぐってえ」
「ふふ」
お返しにと脇から身体のラインをなぞる。くすぐったさと焦れるような快感で、ちょんまげは目元を潤ませてターボーを見つめた。
「気持ちいい?」
「うん」
素直なちょんまげの言葉に満足し、ターボーは腰を撫でる。そのまま緩く勃ち上がった中心には触れず、鼠蹊部にさわさわと触れた。
「ふあっ」
じわじわと高まっていく快感に、ちょんまげの腰が揺れる。反応を確認しながら、ターボーは腿から脚へと指を滑らせていく。
「ここも、痛む?」
足首の擦過痕は、ターボーが付けたものだ。こんな事しなくてもよかったんじゃないか、ターボーはそう思ったが、ちょんまげは首を振った。
「これは痛くないよ」
それは本心からの言葉だと、ターボーにも伝わってくる。足首を優しく撫で、潤滑油を手に取ろうとした時に。
「ね、隆弘」
ちょんまげが上目遣いでおねだりする。
「舐めても、いい?」
「え……マジで?」
今までちょんまげはセックスでは受け身だった。こんな事を言い出すとは思っていなかったターボーは、パチクリと目を瞬かせる。そして、ニッと目を細めた。
「いいぜ」
壁に背をついて立つターボーの男根はそそり勃っている。ちょんまげはその前にしゃがみ込み、先端をちろちろと舐めた。その熱さと刺激に、ターボーも胸が高まっていく。
「隆弘、気持ちい?」
竿にも舌を走らせて、ちょんまげが訊く。その表情に、刺激に、全てに愛情を感じる。
「太輔……反則。可愛すぎ」
頭を撫でると、何故かちょんまげは不服げに睨んでくる。そして、男根を口に含んだ。
「んっ……」
ターボーの吐息に、ちょんまげは少しだけ眉を緩める。そのまま奥まで飲み込もうとするかのように含んでいくが、なかなかうまくいかない。
「んんっ、うぐぅ……」
ちょんまげの舌が絡まり、刺激を与える。口の端からはよだれが滴り、目にはうっすらと涙の膜が張る。そうしていても自身ももう堪えられず、おねだりするように尻が揺れていた。
「やば……エロ」
「んんうっ!?」
ちょんまげが慌てて口から男根を抜く。ぬらぬらと濡れたソレは、すっかり勃ち上がって主張していた。
「な、なんで、またおっきくなるの……」
「太輔が誘うから」
ターボーはそう言って、ちょんまげの尻をほぐしていく。甘い声を漏らしてしがみつくちょんまげは、その全てをターボーに委ねる。
「そろそろいいか?」
「んっ、んっ……」
ターボーはちょんまげの両脚を抱え、トロトロになった蕾にゆっくり挿入する。浅いトコロを擦られ、ちょんまげの声が甘く溶ける。
「ああっ、隆弘っ」
手を握れば、互いの鼓動まで感じる。そのまま奥まで行けば、ちょんまげが震えた。
「んっ、深い……」
ぐぐ、と抱き上げられたちょんまげの重みで、さらに奥まで貫く。その感覚にちょんまげの芯が震え、解放を訴る。
「太輔、もちっと我慢な」
二人の腹の狭間で震える芯の根元を掴む。
「やっ! やだっ!」
解放を阻止され、ちょんまげが首を振る。宥めるようにキスをしながら、ターボーはちょんまげの奥を何度も突く。しっかりとした体幹は、ちょんまげを抱えたまま突き上げてもよろけはしない。ちょんまげの長い前髪を掻き上げて、ターボーはしっかりと視線を合わせた。
「太輔、ちゃんと俺を見てろよ」
「ふあっ、隆弘ぉ、早く……っ」
ズブッ、ズブッと音が大きく響く。下から突き上げていたターボーがナカで一気に弾け、同時に根元を離されたちょんまげも勢いよく吐精した。
「はあっ、はあっ……」
ずる、とちょんまげの身体が崩れ落ちる。抱き上げたまま、ターボーはもう一度シャワーの湯を出す。
「太輔……ちょっと動くぞ」
ズルリ、と自身を引き抜くと、ちょんまげが僅かに身じろぐ。
(……ゴムする余裕、なかったな……)
快感の余韻の中、ターボーは内心反省しつつちょんまげを抱き締めてシャワーを当てる。少し休もうとは思ったが、ここはシャワールームだ、柔らかい布団があるわけでもない。軽く全身を洗ったが、ちょんまげはまだ強い快感の波の中でぼんやりとしていて、いつもは恥ずかしいからと抵抗するのにそれもなかった。
(……ごめん)
それをいい事に、ターボーは緩くなった蕾を指で押し開く。長い指でナカを擦ると、奥から先程放った精がトロリと漏れ出してくる。
「んっ……たぁぼぉ?」
舌足らずな声がターボーを呼ぶ。ある程度綺麗にすると、ターボーはちょんまげを脱衣室のマットに寝かせようとして、ふと兆しを見せる彼の中心に気付いた。
「……まだ元気そうだな」
「んん?」
また唇が合わさる。まだまだ夜は長そうだ。
目が覚めた頃にはもう昼近くで、ちょんまげの隣には寝こけたターボーがいた。
「……おはよ、ターボー」
「ん……朝?」
ターボーも目を開け、ちょんまげを抱き寄せる。そしてむくりと起き上がった。
「あ、やべ」
手探りで取ったスマホには、無数の着信履歴とメッセージ。確認する前にまたスマホは震えるが、ターボーはあっさりと電源を落とした。
「あー、サボりだ」
「いいんだよ、仕事よりお前だから」
伸びをして、ターボーはベッドから出る。ちょんまげも痛む腰を屈めてついていくと、振り返ったターボーに笑われた。
「なんだ、そのカッコ」
「うう、ターボーのせいだ」
「ちょんまげが煽るからだろ」
リビングに行き、ターボーが朝食の準備をする。「無理するな」とは言われたが、ちょんまげもコーヒーを淹れる。トーストとサラダ、そしてコーヒーの朝食。
「でもさ、どうしてターボーは何も教えてくれなかったの?」
知っていればそれなりに対策できたじゃん、とブツブツ言うちょんまげだが、ターボーは「だって」とコーヒーを飲んだ。
「お前を守りたかったから。怖い思いをさせたくなかったんだよ」
郵便受けからやけに分厚い封筒を見つけた時、全身が冷えつくような感覚に襲われた。差出人がちょんまげに持っているのが害意であれ好意であれ、いつかその危険な牙が確実に向けられる。そんな事、絶対に許せない。
「そうなんだ」
ちょんまげはそう言って、トーストに齧り付く。
「でも、僕はターボーと一緒に戦いたかったな」
ぽつりとつぶやかれたその言葉に、ターボーは目元を緩ませる。
「じゃ、俺がピンチになった時には、お前が守ってくれよ」
「! おう!」
途端にニコニコするちょんまげを眺めながら、ターボーは安堵する。
この笑顔を守りきれて良かった。心からそう思う。
(さて、アイツらの出向先はどうするかね……)
海外のいくつかを候補に挙げながら、ターボーは食器を片付ける。ちょんまげも隣にやってきて、一緒に洗う。
「今日はどうするの?」
「二人で有給にする。大変だったんだし、ゴロゴロしようぜ」
ソファに行くと、手すりから伸びた足枷。それを持ったちょんまげは、いたずらな笑顔を浮かべる。
「もう、いらない?」
「だなー」
ターボーが手すりから外し、片付けようと引っ張る。持ったままのちょんまげは引っ張られ、ターボーの胸の中へ。
「ん? また着けて欲しいのか?」
なかなか離さないちょんまげに言えば、彼は名残惜しげに足枷を見て。
「時々なら、捕まってもいいよ。ターボーになら」
可愛いことを言う、とターボーは胸の中のちょんまげを抱き締める。
これから捕まえる時には鉄の輪は必要ない。この両腕があるのだから。