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とある日。
バババババッ!!
ズキュゥゥン!!
休日で賑わう立川駅前の大型ゲームセンター。
薄暗いフロアの奥にある大型ガンシューティングゲームから、派手な電子音とゾンビの断末魔が響き渡っていた。
『STAGE CLEAR!』
『PLAYER 1:S.HOSHINA - S RANK』
『PLAYER 2:G.NARUMI - A RANK』
画面にデカデカと表示された画面を見て、第1部隊隊長・鳴海弦は、持っていたコントローラーを叩きつけるように置いた。
「……ッ、納得いかねぇ!!」
「いやー、鳴海隊長。また僕の勝ちですわ」
隣でガンコンをくるくると指で回しながら、保科宗四郎はニマーッと意地悪な糸目スマイルを浮かべた。
非番の今日。たまたまタピオカを買いに来た保科は、偶然ゲーセンに入っていく鳴海を見かけ、暇つぶし半分で声をかけたのだ。
結果、なぜか二人でガンシューティングのスコア対決をすることになったのだが――結果は保科の圧勝だった。
「テメェ、おかっぱ! お前なんで怪獣倒す時、銃使わねぇくせにそんなスコア取れんだよ!! ボクの獲物(ゾンビ)まで横取りしやがって!!」
「人聞きの悪いこと言わんといてください。僕は単純に、防衛隊スーツの『銃器に対する解放戦力』が低いだけです〜。射撃の腕自体は、昔からちゃんとあるんですよ」
そう。保科宗四郎は、決して銃が下手なわけではない。
むしろ、動体視力もエイム力も常人離れしている。ただ単に「スーツとの相性」の問題で、刀という時代遅れの武器を持たざるを得なかっただけだ。
だからこそ、純粋な「プレイヤーの腕」だけが反映されるアーケードゲームにおいては、そのポテンシャルがいかんなく発揮されてしまう。
「あーあ、日本最強の鳴海隊長も、ゲームの中やとただの一般人以下なんですねぇ。こりゃ明日の訓練で、第3の新人どもに言いふらさな」
「テッメェ……! 調子乗るなよ刀バカ! だったら次はクレーンゲームだ!! ボクの真の実力を見せてやる!!」
分かりやすく挑発に乗った鳴海は、ズカズカと足音を立てて別のコーナーへと歩き出した。
保科は「はいはい」と適当に相槌を打ちながら、飲みかけのタピオカミルクティーを片手にその後を追った。
――30分後。
「クソッ……アームの力が弱すぎるだろ! 詐欺だ! 討伐してやるこんな機械!!」
クレーンゲーム機の前。
ガラスに両手をついて、この世の終わりのような絶望顔をしている鳴海がいた。
機内には、今話題の限定フィギュア。残り1個。
そして鳴海の足元には、両替機と往復したことを示す、大量の空の小銭入れのプラスチックカップが散乱していた。
「……何してんの、鳴海隊長。防衛隊のトップがゲーセンで暴れんといてくださいよ」
「うるせぇ! 自分の手で勝ち取ることに意味があるんだよ!! ゲーマーのプライドだ!!」
ズズッ、とタピオカを啜りながら、保科は呆れたように半目になった。
「プライドで3万溶かす男に日本の防衛任せとると思うと、ほんま頭痛くなってきますわ。普通にネットで買った方が安かったんちゃいます?」
図星だったようだ。
「うるさいうるさいっ! あともう少しなんだよ! あともう少しで……ッ、あああっ、小銭がねぇ!!」
財布を逆さにしても、出てくるのはレシートの切れ端だけ。
完全に資金が尽きた鳴海が、フィギュアを目前に崩れ落ちそうになったその時だった。
「あれ? 副隊長?」
呑気な声が響いた。
保科が振り返ると、ネギや大根が飛び出したスーパーの袋を下げた、日比野カフカが立っていた。
保科「お、カフカやん。買い出しの帰りか?」
カフカ「ええ、まぁ。……って、え!? 第1部隊の鳴海隊長!? なんでこんなとこに……って、なんか死にそうな顔してますけど」
カフカの存在に気づいた鳴海は、血走った目でガバッと顔を上げた。
鳴海「……おい。そこのおっさん」
カフカ「おっさん!? いや、俺一応防衛隊員で……」
鳴海「ボクに100円貸せ!! 利子はつけて返すから!! 今すぐ!!」
有無を言わせぬ凄まじい気迫。
カフカは「ひっ」と短い悲鳴を上げながら、慌ててポケットから100円玉を取り出した。
カフカ「か、貸しますけど……隊長、何やってるんすか?」
カフカは、鳴海が血眼になって狙っているクレーンゲーム機の中をじっと覗き込んだ。
獲物は、大きな箱に入ったフィギュア。
その箱の配置とアームの形を見た瞬間、カフカの目が、怪獣を分析する時の鋭い目つきに変わった。
カフカ「……隊長。このフィギュア、重心が完全に『頭』にありますね」
鳴海「はぁ?」
保科「……カフカ、お前何言うとんの」
カフカはスーパーの袋を床に置き、真剣な顔で筐体のガラスを指差した。
カフカ「いや、解体作業員の時の経験なんですけどね。こういう頭でっかちな余獣の死骸をクレーンで吊る時、真ん中の胴体を真っ直ぐ掴もうとすると、絶対バランス崩して落ちるんすよ」
鳴海「余獣の……死骸?」
保科「ゲーセンのフィギュア捕まえてなんて例えしてんねん」
カフカ「だから、アームで普通に持ち上げようとするんじゃなくて……箱の角をアームの爪で『押し込む』んです。テコの原理でひっくり返すように……こう!!」
カフカは奪い取るように100円玉を投入すると、迷いのない手つきでレバーを操作した。
ウィィィン……という電子音と共にアームが移動する。
カフカがボタンから手を離した瞬間。
ガッ!!
アームの片爪が、箱の絶妙な隙間に突き刺さった。
そのままテコの原理が働き、重い頭側を支点にして、箱がクルンッ!と美しい弧を描いて宙返りする。
ゴトンッ!!!
落下口に、フィギュアの箱が完璧な音を立てて落ちた。
「「…………」」
ゲームセンターの喧騒の中、鳴海と保科の周りだけが、水を打ったように静まり返った。
カフカ「へへっ、昔、市川たちとよくゲーセン行ってたんで、こういうの得意なんすよ! はいこれ、鳴海隊長!」
取れたての限定フィギュアを、カフカは満面の笑みで差し出した。その後ろには、まるで後光が差しているようにすら見える。
フィギュアを受け取った鳴海は、ワナワナと震えていた。
自分の3万円とゲーマーのプライド。
それを、部下の(しかもおっさんの)たった100円と「解体業の知識」であっさり粉砕された屈辱。そして、喉から手が出るほど欲しかったフィギュアが手に入った歓喜。
様々な感情が混ざり合い、鳴海の顔面は完全にバグを起こしていた。
鳴海「ぁ……あ……ボクの……3万……」
プルプル震えた後、鳴海はガシッ!とカフカの肩を両手で掴んだ。
鳴海「……おっさん!! テメェ明日から第1部隊に来い!! ボクの専属クレーンゲーム係に任命してやる!!」
カフカ「ええええええええ!? 嫌っすよ!! 俺は第3部隊で、亜白隊長の隣に行くって決めてるんで!! 副隊長、助けてくださいよ!!」
鳴海に首根っこを掴まれてブンブン振り回されるカフカ。
その横で、保科はスマホのカメラを起動していた。
カシャッ、カシャッ、カシャッ!
保科「……うちのアホを引き抜かんでもらえます? まぁ、鳴海隊長のこの情けない顔、防衛隊の裏掲示板にでも流したろかな〜」
鳴海「テメェふざけんな!! おかっぱ消せ!!」
カフカ「俺のネギが折れるぅぅぅ!!」
休日のゲームセンター。
日本の防衛を担うトップたちの威厳は、今日も見事に(クレーンゲーム機の中で)崩れ去っていた。
(おわり)
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