「 いやぁ、ホントに助かりました!道案内ありがとうございます 」
にこにこと無邪気な笑顔を顔に浮かべる爽やか男子は、どうやら涼というらしかった。
「 急になんなの、私何もやってないんだけど 」
「 あれ?目配せしてくれましたよね? 」
「 あんたが勝手に付いてきただけでしょ 」
うーん、と顔を曇らせる涼をあしらって教室に向かった。
少しだけ、胸がきゅっと縮こまった様になったのは、気のせい。
そう自分に言い聞かせて階段を一段、また一段と登って行く。
醜い私がヒーローになるなんてきっとあってはならないことだと思う。
ヒーローは、涼の様なその場にいるだけで雰囲気を明るくできる太陽みたいな存在がなるものなんだから。
ふと、一つの童話が頭に浮かんだ。
醜いアヒルの子。
自分だけ周りと違う。
家出をしても、どこに行っても居場所なんてない雛。
私とちょっとだけ似てるのかもしれない。
私に春は訪れるのか。
階段の踊り場で、ほんのちょっと憂慮した。
目の前にずっと続く階段が、終わりの見えない冬みたいで怖かった。
「 えー … 皆気づいてるだろうが、転校生が来てます 」
朝のホームルームで、担任が私達にそう告げた。
やっぱりそうなのか。
あいつは、いや、涼は。
私のクラスメイトになるのか。
頭を抱えた。
呑気な彼はきっと私が彼を道案内し助けたことを皆に言ってしまう。
口止めをしておけば良かった。
学校での立場が、強い紬が、消えてしまう。
どく、どく、と鼓動が早くなる。
涼が、教壇に上がった。
教室を見渡す。
やめて、お願い。
涼と、目が合う。
彼は、にこ、と笑いかけた。
安心しなよ、とでも言うかのように話し始める。
「 立花 涼です。カリカリになってるポテトが好きです。嫌いなものはあんまないです。 」
「 仲良くしてね。 」
涼はそう言って少し不敵に、でも純粋な笑顔で締め切った。
next … 薇天
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