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Episode 47「黒剣の英雄」
通信機器は未だ復旧していなかった。
アデル達にも見てもらったが、この村の技術ではどうにもならないらしい。
「王都の方なら、何とか出来る人がいるかもしれません」
とは言われているが、ここから王都まではかなり距離があるようだった。
その間、黒瀬達は村にある来客用の家を借りて生活していた。
砂漠の村では珍しく、木造部分の多い家だった。
近くの森から切り出した木材らしい。
朝。
静かな足音が近付いてくる。
次の瞬間、勢いよく扉が開いた。
「奈央姉おはよーー!!」
「結姉起きてーー!!」
元気な声が部屋に響く。
リサだった。
そのまま部屋へ駆け込んでくる。
「三上も黒瀬もおはよう!」
三上が半分眠そうな顔で手を上げた。
「……朝から元気だな」
黒瀬も小さく頷く。
「おはようございます」
布団の中から水瀬がもぞもぞ顔を出した。
「リサちゃん朝早いです〜……」
「遊ぼー!」
リサが即答する。
その後ろから、ゆっくりアデルが入ってきた。
「リサ」
穏やかな声だった。
「そんなに走ると転びますよ」
「あと、皆さんもやる事があるかもしれないので」
「朝から困らせちゃ駄目です」
リサが少し不満そうに頬を膨らませる。
「えー」
その瞬間。
奈央が小さく笑った。
「別に大丈夫ですよ」
水瀬も起き上がりながら頷く。
「ですね〜」
「遊びましょー」
「やった!」
リサが嬉しそうに笑う。
アデルは少し困ったように笑っていた。
しばらくして。
黒瀬達は村の外へ出ていた。
砂漠の村。
だが、森の近くという事もあり、村の周囲には小さな草地もある。
子供達がそこで走り回っていた。
「リサー!」
「こっち!」
「今日は何するー?」
リサが手を振る。
「遊ぶー!」
子供達が黒瀬達を見る。
「あ」
「旅人だ」
「アデル兄ちゃんの客だ!」
三上が苦笑した。
「完全に顔覚えられてんな」
「ですね」
奈央も少し笑う。
その時だった。
一人の少年が木の枝を振り回しながら叫ぶ。
「黒剣の英雄ごっこしよーぜ!」
「あ、それやる!」
「俺黒剣の英雄やる!」
子供達が一気に盛り上がる。
水瀬が目を瞬かせた。
「黒剣の英雄?」
その言葉に、アデルが少し反応した。
「ああ……」
少しだけ、懐かしそうな顔になる。
「この辺だと、有名なおとぎ話なんです」
子供達は既に枝を剣代わりに振り回していた。
「黒剣斬りーー!!」
「うわーーやられたーー!!」
三上が苦笑する。
「めちゃくちゃ人気あるんだな」
「はい」
アデルは静かに頷いた。
「子供なら、多分みんな知ってます」
リサも元気よく頷く。
「私も黒剣の英雄大好き!」
「今でも時々、おにいが読んでくれるんだよ!」
アデルが少し困ったように笑った。
「……リサが好きなので」
「だって面白いもん!」
リサは嬉しそうに言う。
その時。
「リサー!」
子供達が向こうから手を振る。
「早くやろー!」
「行くーー!」
リサは嬉しそうに走っていった。
子供達の輪へ飛び込んでいく。
アデルは、その様子を静かに見ていた。
しばらくして。
黒瀬が隣へ立つ。
「見守るんですね」
アデルは苦笑した。
「リサ、昔から放っておくと無茶するので」
「あなたが言います?」
黒瀬が静かに言う。
アデルが少しだけ笑った。
「……否定は出来ません」
子供達の笑い声が遠くで響く。
アデルはその光景を静かに見つめていた。
「黒剣の英雄って」
アデルがぽつりと呟く。
「童話の中だと、勇気に満ち溢れてて」
「一人で何でも出来る、最強の英雄として語られてるんです」
風が静かに吹き抜ける。
「でも」
アデルは小さく笑った。
「本当の黒剣の英雄は、違うんですよ」
黒瀬達が静かにアデルを見る。
「怖がりで」
「失敗ばっかりで」
「仲間に助けられてばかりだった」
「一人じゃ何も出来なかったんです」
風が静かに吹き抜ける。
「それでも」
「困ってる人を放っておけなかった」
「底抜けのお人好しだった」
アデルは少しだけ笑う。
「僕は、童話で語られてる“最強の黒剣の英雄”より」
「そっちの黒剣の英雄の方が、ずっと好きなんです」
少しだけ沈黙が落ちる。
やがてアデルは、遠くで遊ぶリサを見る。
「リサは、僕の唯一の家族なんです」
穏やかな声だった。
「両親は昔、村の人達を守って亡くなりました」
奈央達も静かにアデルを見る。
アデルは小さく笑う。
「皆、立派だったって言います」
「僕も……誇らしいです」
少しだけ間が空く。
「でも」
その声は、少しだけ弱かった。
「村の人達を救って死ぬくらいなら」
「見捨ててでも、生きていて欲しかったって思ってる自分もいるんです」
風が静かに吹き抜ける。
アデルは森の方を見る。
「だから」
「僕は、リサを置いて絶対に死にません」
「同じ思いは、させたくないので」
森の葉が静かに揺れていた。
コメント
1件
寺島あおいです🌷 「黒剣の英雄」、素敵なエピソードでした。子供たちが枝を剣にしておとぎ話ごっこに夢中になる朝の空気感が、とても柔らかくて。でもその一方で、アデルさんがあの「本当の英雄」を静かに語る場面に胸がぎゅっとなりました。「怖がりで、失敗ばかりで、仲間に助けられてばかりだった」——その言葉が、彼の人柄をそのまま映しているようで。リサを置いて絶対に死なないという決意にも、彼の優しさと強さが詰まっていて、じんわりと心に沁みました。
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