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サトウ
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ねこねこにゃんこ
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2年A組では腕相撲が流行っている。
いや、流行っている、というか無理矢理付き合わされているというか。言い出しっぺの奏斗に最初はアキラが付き合ってあげて、次に雲雀が楽しそうに参加して。そしてセラフが様々なものを賭けたり人質にしたりしてほぼ強制的にクラスの全員が参加する羽目になった。
題して腕相撲大会。女子である私は腕力も男子には劣るしそんなバカみたいなこと付き合ってられない、と突っ撥ねていたのだけれど、並外れた腕力を持つクラスの男子が出場停止になったのとほぼ同時に、人数の都合で私も参加する羽目になった。勝負事で負けるのはプライドが許さないしかといって男子に勝てる訳なんてないし絶対嫌なんだけど!と断っていたら、あろうことか奏斗はお金を人質にとってきた。
「カナ、お前腕相撲大会強制参加ね、お前しか男子と互角で張り合える女いねぇし」
「は?絶対に嫌なんだけど」
「…これを見ても同じ事が言えるかナ…?」
「っ、?!なにその札束!!」
「きっちり50。」
この会話が奏斗との朝の出来事。
こんなこと言われたら拒めるはずもなく、嫌々ながら私も腕相撲大会に参加することになった。
他のクラスメイトも大切な物や誰かを人質に取られたみたいで、今日は各休み時間毎に腕相撲のトーナメント戦が行われることになった。準備の良い事に、奏斗が既にトーナメント表を作って来ていた。私が断る事など微塵も考えていなかったのだろう。地味に腹立つ。
女である私は腕力は男子に劣る、と言ったが半分嘘だ。大切な大切なお金を人質に取られたからには絶対に負けられない。火事場の馬鹿力というやつだ。普段だったらクラスの誰とやったって勝てないだろうけど、金の為なら勝てる。というか気合いで勝つ。体型維持の為に食事管理もさる事ながら、筋トレだって怠っていない。引き締まった二の腕のために結構腕も鍛えている。
一時限目終了後と二時限目終了後の休み時間の腕相撲は無事勝ち星を挙げた。
が、腕相撲には何の問題もないけど、別の問題がある。
美容の為に私はかなり水分を摂っている、のであまり言いたくはないのだがトイレも結構近い。普段二時限目が終わったらトイレに行くのだけれど、今日は腕相撲で席を外せなかった。おまけに最近なんとなくむくみが気になって朝食にデトックス効果のあるお茶を飲んでしまった。三限目の授業が半分程しか頭に入っていないくらいにはトイレに行きたい。
「かーなちゃんっ」
「…ひば」
バレないようにそっと席を外そうかと思ったけど窓際の席じゃそうはうまくはいかなかった。
「次、俺とだよ。腕相撲大会とはいえさ、…」
「わかった、勝負はするからその前に…!」
「何?何か用事でもあった?女の子にこんなこと言うのは悪いんだけど俺急いでるんよね、奏斗にスマホを人質に取られててさぁ、放課後までに一刻も早く勝負を終わらせたいとこで。腕相撲なんてちゃっちゃとやって負けてくれればそれでいいからさ、お願い…!!」
「は?負けるならひばが負けてよ。何でカナが負ける前提なの!!」
「俺の場合一勝負事にスマホが掛かってるんよね、そうでもしないと雲雀はわざと負けるだろうって。だから絶対負けられないわけ。かなちゃんは話を聞く限りだと参加さえすればお金を貰えるじゃんね?これ以上面倒な勝負にも参加しなくて済むし一石二鳥じゃね?お互い上手くやろ!!」
にこやかにひばが言う。
確かに私はひばと違って負けて失うものは何もない。でも勝負事で負けるなんて絶対嫌。ましてやお金を人質に取られた勝負で負けをつくるなんて私が私を許せない。
「そんな条件のむわけないじゃん!絶対カナが勝つんだから!」
「んー…カナちゃん相手に酷いことはしたくないんだけどな…」
「はあ!?まだ負け決まったわけじゃないし! 」
「はいそこまで〜」
ひばとの言い合いに緩い声で静止がかかる。
先生だ。あ、次保健体育だっけ……
「お前ら授業開始のチャイムとっくに鳴ってるぞ、いつまでやってんだ」
「だってひばが……!っていうか休み時間短くない?」
「さっきの化学の授業延長したやん、だからさっさと終わらせたかったんだけど」
ひばが首をすくめながら言う。
そっか、前の授業延長してたのか。それに気付かないくらいには余裕がない。
「何だお前ら、授業始まって騒いでたわりには反省の色がないな……」
いやだって先生が先生だし、授業は保健体育だし、受けても受けなくても別にいいし。
「おうおう、風楽。随分言うじゃないか」
心の声のつもりが口に出ていたらしい。
「ん〜、俺としてはまぁそれもそうだなって気がしないでもないけど、一応けじめはつけておくか。風楽、渡会、バケツ持って廊下に立ってろ」
「え〜、俺も?」
「お前ら二人で言い合いしてたんだからな、連帯責任だよ。ほら、いったいった」
「まぁ堂々とサボれるならいっか。カナちゃん、抜け出す?」
「おいおい、聞こえてるぞ〜。お前も良い度胸だな渡会。もしサボったりしたら放課後居残りで反省文書いてもらうからな」
「うげっ、それは困る……。大人しく廊下に立ってますよ、それでいいんでしょ」
「ああ、じゃあ授業を始めるぞ〜」
あれよあれよという間に廊下に立たされることになってしまった。
でもこれならちょこっと抜け出してトイレに行けるかも……?
「あれ、かなちゃんどこ行くの?水道こっちだよ。バケツもそこにあるはずだし」
ひばに呼び止められてしまった。
トイレに行きたいから先やってて、とは恥ずかしくてとても言えず大人しくひばについて水道まで行く。
というか今時バケツ持って廊下に立たされるとか……。時代錯誤も甚だしいし体罰になるんじゃないの?
考えているうちに水道につく。端に重ねてあるバケツを2個ずつ取り、水を入れる為に蛇口を捻る。瞬間、じゃばぁっと勢いよく蛇口から水が出る。いいなぁ、今だけ蛇口になりたい。
どぼどぼと勢いよく出る水音を聞いてると、尿意が増す気がする。まだ授業始まったばかりだけど、早くトイレに行きたい。尿意を堪える為に水道の縁に股間を押し付ける。自慰行為に少し似たそれをクラスメイトの、しかも男子、兄の親友の隣でやるのは恥ずかしいけれど、こうでもしないとちょっと出ちゃいそう。今までそんな事になった事はないけれど今回はちょっとやばいかもしれない。でもなんか、これちょっと気持ちいいかも……?
「かなちゃん、水。溢れてるよ」
「へぇあっ!?えっ、あっ!」
慌てて蛇口を閉める。
(今の見られてないよね、気付かれてないよね……?)
ちらりと横目でひばを見ると、特に何ともなさそうだ。良かった、気付かれてない。
ほっ、と息を吐き、バケツの中の余分な水を捨てる。勢いよくやると跳ねそうなので、少しずつ水を流す。ちょろちょろと流れる水音は、排尿の音にも似ていて一瞬尿道が緩んだ。
やばい、と思った時には既に遅く、下着がじんわり濡れた感覚。え、待って、確かにトイレに行きたいけどそんなやばいの?
サァッ、と顔が青ざめる。うそうそうそ、やだやだ、こんなの絶対認めたくない。でも下着の中は暖かく湿っていて、段々冷えてきて。身体の為に普段そんなにトイレを我慢することもないから自分が今どれ程ピンチの状況に置かれているかなんて全然わかんない。
(やだ、どうしよう……。これは一刻も早くトイレに……)
「かなちゃん、終わった?じゃあ一緒に戻ろっか」
ひばが機嫌良さげに話しかけてきた。
普通に親友の妹といっしょにいるの気まずくないのかなぁ、私はひばの顔中々好きだからいつもだったら喜んでるだろうけど。
でも今はそれどころじゃない、どうしよう、行くなら今が最後のチャンスかもしれない。これを逃したら授業が終わるまで我慢しなきゃいけない。言わなきゃ、言わなきゃ────
「ねぇひば、バケツ重い、持ってー!」
言えなかった。
ひばについて教室の方へ戻る。ちゃぷちゃぷと歩く度にバケツの水が音を立て、尿意をさらに加速させる。
自分のプライドの高さが恨めしい。素直にちょっとトイレ、と言っておけば事は済んだのに。でも駄目だ。そんな恥ずかしい事とても言えない。休み時間ならまだしも今は授業中。そんな中で抜け出したら一時間我慢できないくらいトイレ行きたいんだって思われてしまう。
思考がぐるぐるしているうちに教室の前についた。大人しくバケツを持って廊下に立っているしかない。大丈夫、たった一時間。きっと我慢できる。
ひばが話しかけてくるかと思っていたけれど、廊下を歩いている時から無言だった。多分私と話していたら放課後反省文を書かされるかもしれないから黙っているのだろう。正直私も会話している余裕なんてないから有り難かった。気は紛れるかもしれないが、正直トイレの事で頭がいっぱいで考える余裕なんてない。
(それにしても……)
廊下は冷える。
初夏とはいえ、廊下は教室の北側で日差しは入ってこないし、校舎の造りのせいかひんやり冷たい。夏でも過ごしやすいからいいと思っていたけれど、今ばかりはあまり身体を冷やしたくない。
耐えきれなくて、思わず膝を擦り寄せる。きゅうっ、と足に力を入れれば尿意もいくらか紛れるような気がした。
大丈夫、まだ大丈夫。まだ大丈夫なんだから授業が終わるまできっと大丈夫
「……………………っ、…………」
大丈夫ではなかった。体感ではあるがあれから数十分後、先程までは大丈夫、と自分に言い聞かせられる余裕はあったが、今はそんなもの微塵もない。
いよいよもってやばいかもしれない。
ただ何食わぬ顔でバケツを置いてトイレまで行くだけでいい。それだけの事がどうしてもできない。
時間が経てば経つほど、残り少しが我慢できなかったんだ、と思われる。わざわざ授業中にトイレに行かなければならない程、休み時間になるまで我慢できない程トイレに行きたかったんだ、と。
そんなのやっぱりプライドが許せない。耐える為に膝を擦り合わせ、脚を寄せる。きゅうきゅうと尿道を閉めればまだ我慢できる気がしないでもない。
ちらりと横を見る。隣でこんな事をしているが、ひばは御構い無しに欠伸をしている。多少の距離もあるしバレてはいないようだ。ならもう少し、もう少し────
ちゃぷん。
「ひゃっ!?」
「…?なん、どうかした?」
「な、何でもない……」
「大丈夫?腕疲れた?」
「だから何でもないってば!」
脚を揺すりすぎてバケツの水がはねる。
ひばは心配してくれたけど、余裕がなくてつい言葉が強くなってしまう。
ちゃぷん、ちゃぷん。
水音が頭で勝手に反芻される。
ちゃぷん、ちゃぷん。
音が聞こえる度におしっこが出そうになる。
だめ、だめ、まだ出ちゃだめ。だってここは廊下で。隣にはクラスメイトの男子がいて。トイレじゃないの。ここは違うの。おしっこする場所じゃないの。だからお願いだから出ないで。
ちゃぷん、ちゃぷん。
トイレに行きたい。おしっこしたい。いっぱいいっぱい我慢して、お腹の中がいっぱいいっぱいだから。我慢をやめてこれ全部出したらきっとすごく気持ちがいい。
ちゃぷん、ちゃぷん。
力を入れているけれど、少しずつ下着の中が温かくなっていく。じわ、じわ、と。下着が触れている場所が水分でぴたりと肌に張り付いて。その面積が少しずつ広がって。耐えきれなくなった布から太腿に少しずつ水が伝っていって。少しずつ、少しずつ終わりに向かっていっている。
ちゃぷん、ちゃぷん。
漏れちゃう、漏れちゃう、このままじゃおしっこ漏れちゃう。
これはもう、プライドがどうとか言っている場合じゃない。このままじゃもっとプライドがズタボロになる結末が待っているだけ。
ガシャンッ
限界を感じた身体が勝手にバケツを置く。とにかくトイレに走ろうと一歩踏み出す、が、後ろに振った左腕を掴まれる。
「え、かなちゃんどうした?」
やめて、なんで、なんで引き止めるの。
だめなのに。私今すぐトイレに行かないとだめなのに。やだ、やだ。だって私、もうこれ以上我慢できないって思ったんだもん。だからトイレに行こうとしたんだもん。それだけだもん。なんで、どうして。
「あっ、やだ、やだ、なんで、やだ、とめないで、やだぁ、っあ……!」
ここはトイレじゃないのに、勝手におしっこが脚を伝う。太腿を触られているかのように伝う雫にぞくぞくとした快感が襲ってくる。気持ちよくて、力が抜ける。さらに太腿を伝う雫が増える。どうしよう、どうしよう、気持ちいい。
気持ちよくて、やめられなくて。もっとおしっこを出してしまう。どうしよう、人生でこんな気持ちよかったことなんて今までで初めて。どうしよう、おしっこすっごく気持ちいい。
ずっと耐えていたせいか、勢いのないおしっこは脚を伝って音もなく床に広がる。じわじわと広がり続ける水溜りをぼうっと見ながら、私は初めての快感に身を委ねていた。
キーンコーンカーンコーン
鳴り響くチャイムの音にハッとする。
目の前のひばがすごく驚いた顔をしている。
そこで自分のしでかした事の重大さに気付く。
羞恥心を感じるより先にこの世の終わりのような絶望に襲われる。
血の気が引き、頭が真っ白になり何も考えられない。一瞬で指先まで冷えきり、ぴくりとも動かせない。唇が震え、声を出すことすら叶わない。
瞬間、バシャアッと水音がした。勢いに一歩後ずさる。私のお腹から下はびしょ濡れで、目の前には空になったバケツを構えたひばがいた。
「ッえ、なにしてんの」
授業を終えた奏斗が教室から出てくる。廊下の私達を見て、珍しく慌てている。
「あ、いや、なんか、喋ってたら喧嘩になっちゃってつい……」
「つい、ってお前……やっていい事と悪い事が… カナ、ジャージ貸す、で雲雀、お前は…先生ー、雲雀が僕の妹に水かけたんすけどー」
奏斗が自分の上着を脱いで私の肩にそっとかけてくれた。臭いが気になるけど、温かくて安心して。奏斗とひばの優しさに思わず涙が溢れた。
それをひばに酷いことされたからだと受け取ったらしく、放課後先生に呼び出されたひばはこっぴどく怒られた上に罰まで与えられたのに私のことは一言も話さなかったらしい。
どうして、どうしてそんなに優しいの。私がただ一言言えなかったからこんなことになったのに。自業自得なのに。どうして私を庇ってくれるの。
あまりの優しさに家に帰ってからも涙が出た。それから胸のあたりがきゅっ、て締め付けられる感覚。
でも、あんな姿を見せてしまって伝えられる想いなんてない。今まで通り話すことすら難しいのに、ましてやそこからさらに先、だなんて。
切なくて、苦しくて、また違う涙が出てきた
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