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冷たい機械の身体は今際の際何を思うか

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冷たい機械の身体は今際の際何を思うか

1 - 冷たい機械の身体は今際の際何を思うか

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2025年10月17日

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何重にも重なる意味で重い体を支え窮屈な電車を降り家へ帰る。玄関の扉を開けるとレイが出迎える。しかし言葉も顔も無機質だった。

レイ「おかえりなさいませマスター。」

あの日の元気な彼女は見る影も無かった。私は恐らく今冷たい顔で彼女を見ているのだろう。

レイ「マスター?」

思わず声を荒らげてしまう。

「いい加減にしてくれ!!何度同じことを言わす!!」

レイ「…」

レイ「今日はどんなことがありましたか?」

怒りに身を任せ怒鳴ろうと彼女の表情な動きはない。

「..もういい。頼むからわかってくれ…」

強く扉を閉めて自室へ戻る。ベッドに腰掛け重苦しくこう漏らす。

「何やってるんだ私は..」




「ふぅ〜…終わった..」

レイを購入したのは今から10年前。まだ私が仕事に慣れ始めた頃だったが、独り身として仕事終わりに一人寂しい家へ帰るのが何となく嫌だと思い、彼女を購入した。あの日は家へ帰ると毎日明るく、人懐っこい大型犬のように家へ帰る私を出迎えてくれていた。今でもあの時を鮮明に思い出せる。

「その日」が来たのはあまりにも突然だった。

レイ「マスターマスター!」

朝起きれば毎度のように私の布団に飛び乗り起こしてくる。

「こらこら、危ないだろう?」

レイを優しく布団から下ろしやや興奮気味のレイと楽しく話す。

レイ「だってマスター、約束したじゃないですかー!今日は一緒に..」

ピーー…

「..レイ?」

レイ「不明なエラーが発生しました。お問い合わせの際はサポートセンターにご連絡下さい。」

私の膝に顔を埋めたまま動きが止まったレイ。無機質なメッセージがレイの声で流れる。それからの毎日はまるで世界から色が失われたようで。無機質で毎日似た事しか話さないレイに冷たく接していた。ずっともがいていた。ずっと苦しかった。私が早く楽になるために。

レイが壊れ直後すぐサポートセンターに連絡した。足立レイ。自律行動型アンドロイド。人間に限りなく近い豊かな発想力に、機械と思えない行動をあなたに。それが当時私が彼女を購入した時の謳い文句のようなもの。縋る思いで相談窓口に電話をした。..が希望はすぐ消えた。

窓口担当「うーん…お客様の機種、タイプの足立レイですと…修理は不可能ですね。そもそも現在生産は終了しておりますし、パーツ自体も既に現存はしてないかと..」

「な、」

「な…んとかならないんです..か….?」

窓口担当「お客様でしたら…新型の足立レイにデータを移行するのはいかがでしょうか?」

(移行、か…)



レイ「あ、おはようございます、マスター。今日の予定は..」

私に話し始めるレイの言葉を遮る。

「あのな、レイ。この前はすまなかった。1つ、提案があるんだ。」

「新しいレイにメモリーを移そうと思う。来週には届く予定だ。」

その時レイの挙動がおかしくなる。

ガタッ

「ッ!?」

ピシッミシッ

「おいやめ」

ガガガガガ

「レイッ」

「やめろレイ!!」

私の声にレイの動きが止まる。

レイ「エラー..行動を完了出来ませんでした。」

レイ「再起動を開始します。」

「…悪かった。だがすまない。..一人にしてくれ。」

レイの一時的な暴走により割れたガラスを回収し自室へ戻る。気付けば私は会社の後輩に電話をかけていた。垂れ流すままに事情を話す。

後輩「いや先輩マジすか!?流石にそれはレイちゃん可哀想っスよ..今のレイちゃん自動対話モードなんですよね?」

「うん。」

後輩「んでそのレイちゃん今怒鳴りつけたんですよね?」

「…うん。」

後輩「いやマジでありえねぇ…」

後輩「もう俺んとこ来た方が幸せなまでありますよ。」

後輩「最低。」

…少々、いや大分物言いはキツイが頼れる部下だ。

後輩「…んで?例のサポセンには直接言ったんすか?」

「え..まだ。」

後輩「えっ」

後輩「いやまずそこ行ってこいよ…」

そうか…その手があるのを忘れていた。その後後輩に礼を言い電話を切る。すぐ支度をしてサポートセンターに足取り早く向かった。

「…行くしか、ないな。」

ウイーン

村瀬「こんにちは。VOICEROIDカスタムサポートセンター窓口担当の村瀬と申します。」

「よろしくお願いします..」

村瀬「お名前をお伺いしても?」

「はい。」

そのまま指示された部屋に向かう。部屋は談義室のような雰囲気だった。ソファに座るとすぐに係の者であろうロボットが現れる。

ウタ「cx担当の唄音ウタです。本日はどう致しましたか?」

「足立レイの挙動についてのご相談を..」

ウタ「承りました。」

そのまま書類を何枚か取りに行き戻る。

ウタ「ペラッ…うーん..お客様の足立レイの症状は現在時点でお客様だけの報告ですね..他になにか変化は?」


「変化、ですか。…」

日々変わってしまったレイへの態度を思い出して自分に嫌気と後悔が走る。

「は、は…今日だけじゃない、ずっとだ。ずっと私の都合で物を言っていた。今まで愛していたはずのレイの事も考えず私は..私のせいで、レイは…」

ウタ「反省途中に失礼ですが、あなたの言う自分のせい、とは?あなたの言う通りだとしてもそれは何ら今回の件とは関係がないのでは?…そうですね、こう言いましょう。大事なのは過去よりも今。あなたが今すべきことは後悔でも自責の念に縛られる事でもありません。」

ウタ「前を見て、現実に向き合う事です。」

ウタ「…それと、あくまでこれは単なる憶測に過ぎないのですが..あなたの説明した通り、記憶を新しい機体に移行するとレイに説明した時、安全装置を無視した動きをしたんですよね?それに自動対話モード、だというのにマスター様のご指示一つで動作が停止する。恐らく、この状況からお客様様の足立レイは..」

ウタ「お客様のすぐ傍で最期を迎えたいのでは無いでしょうか?」



唄音ウタ。足立レイなどのVOICEROIDと同じく自律行動型アンドロイド。



説明されてから深く礼を言い帰路へつく。玄関のドアノブを掴み心で決心する。

「よし…」

キィ…

「ただいま。」

部屋は酷く暗かった。レイの顔がよく見えない。

レイ「おかえりなさいませ、マスター。」

心臓がドクドクと脈を打つ。

レイ「今日は何処に行きましたか?随分遅かったので、心配し..」

カチッ

レイ「操作を受け付けました。一時自律行動モードに移行します。」

キュリリ

古い映画のムービーソフトのようにクルクルとディスクの回る音がする。レイの目に、以前の光が見えてきた。が時間は長くない。早くしなければ。


「レイ。今まで本当にすまなかった。」

レイ「マス、ター..?」

「今まで避けられない自分の運命から目を背けてばかりいた。私の勝手で。本当に申し訳ない。」

「私はもう..大丈夫だ。レイが、決めてくれ。」

ピキッ

レイの足から力が抜けた様に後ろに倒れ込む。それを私はしっかりと抱え受け止める。

「おわっ..」

レイ「…イは..レイは..分かっています、マスター。もうすぐ故障、するんですよね?」

レイ「これまでの記憶が、走馬灯のように、流れてくるんです。…ぜんぶ」

「な…」

レイ「しっかり覚えています、あの日の事。」

レイ「お花見、行けなくてごめんなさい。」

不明なエラー

レイ「そろそろ…活動停止が近いみたいですね..」

レイ「マスター」

シャットダウン

レイ「見えていますか、聞こえていますか?レイは今、立っていますか?」

「レ..イ…!」


大好きです、マスター。







あれから3ヶ月。結局のところ、私は新しいレイにデータを移行しなかった。

けれど、何処か前のレイに似ている気がしてしまうのだ、

「コラコラ…後ろからタオルで視界を塞ぐんじゃない、危ないだろう?」

レイ「えへへ〜ごめんなさい!」

..とはいえ、前よりも更に元気すぎるのは困るのだが..


「それじゃあ、行ってくるよ。」

レイ「はーい、行ってらっしゃい!」


レイ「…ん?あ、足立レイだ。」

以前のレイの部屋に、置いていた。

レイ「…そう言えばマスター、私が来た時に君には姉が居るって…」


メモリーデータが残っています、共有しますか?


レイ「うわぁっ!?…え、共有..?うーん..マスターは良いって言うかなぁ。..うーんまぁ良いか!それじゃ、ちょっと失礼…」

共有中…


レイ「..おぉ..」

..完了


レイ「..はは、姉さん…愛されてたんですね…」



おわり

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