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お福が指先を震わせて言う
「・・・どうしましょう・・・どうしてここに・・・、あたくしがいるのもバレたのでしょう・・・誰にも言わずに来たのに・・・」
アリスは反射的にお福の傍に駆け寄った、お福は血の気の失せた顔をしている、唇は小さく震えて、それがお福の陥ったことを示している
アリスの心がこんなに乱れたのは
ここに来て初めてだった
見た目は明もいるので平静を保っていたが、心の中はぐちゃぐちゃだった、母がくれば間違いなくこの平穏を壊される
「・・・アリスのお母さんが?ここへ来るって? 」
温かみのある北斗の声が堪らなかった
「ええ・・・それも・・・・鬼龍院様もお連れするとのことで・・・」
鬼龍院の名前を聞いただけで、アリスの脈拍が急上昇して全身が緊張した
「信じられない!いったいお母様は何を考えているの!」
アリスがそう怒鳴ると明がびっくりして目を大きく見張った
「鬼龍院って?」
「アキ・・・上へ行ってSwitchやろうぜ」
直哉が明を抱っこして二階に連れて行った、明が直哉にくすぐられキャハハハと笑う声がパタンッとドアを閉める音でかき消えた
すぐにアリスが口を開く
「いやよ!鬼龍院様となんか絶対会わないわ!彼とはもう婚約を破棄してるのよ!今更何をしに来るって言うのよ!」
「アリスお嬢様・・・落ち着いて・・・」
「お福さんだって!私の言うことを聞いてくれなかったじゃない!」
「・・・私も・・・あの時はお嬢様が鬼龍院様と、ご結婚なさるのが一番だと思っていました・・・ですが・・・今はもちろん違います」
「婚約破棄する時、あれほどお母様とやりあったのよ!それで私は家にいられなくなってパリに、たった一人で・・・・何もかも・・・部屋探しも・・・食べ物を買うのも全部一人で、話し相手もいなくて・・・どれほど孤独で・・・・北斗さんが来てくれて・・・あの時・・どれほど私が嬉しかったか・・・・」
思い出すとじわりと瞳に涙が込み上げる
逃げるようにパリに住処を構えようとしたアリスを、たった一人追いかけてきてくれた・・・
あの時の北斗の温かい手を思い出した
俺と一緒に行こう
..:。:.::.*゜:.
ぐっと涙を堪えて北斗の胴に抱き着く
「ねぇ!北斗さん!もし来ても追い返してくれるわよね!!私お母様も鬼龍院様にも会いたくない!」
こうなることは予想していた、お母様がやってきてアリスが幸せだと思っていることを、ことごとく壊してしまうのだ、そしてまた重い伊藤家の義務を背負うことになる
アリスはもう上流階級の行儀作法も、人と会って作り笑いを何時間も顔に張り付けるのも、何を聞かれても小春日和のように穏やかにゆっくり話す方法も忘れてしまっていた
ここならジーンズを履いて、思いっきり馬にまたがれるし、ホイッスルのような甲高い金切り声を上げて、はしゃいでも誰も怒らない
そしてそう自然に振舞うことが、何よりも人間らしい活力に溢れることだと・・・ここに来て悦びも悲しみもすべて彼が教えてくれた
「いや・・・アリス・・・いつまでも逃げていても、何も解決しないよ・・・・一番最初にお福さんに会った時・・・俺は君を誘拐した極悪人に間違われていた」
しかし北斗はアリスとは別の考えをしてるようだった、アリスはガク然となった
「本来ならもっと早くこうするべきだったんだ、鬼龍院の事も俺がちゃんと決着を、付けなければ行けないことだ・・・君は関係ない 」
「北斗さん!!」
「お福さん彼女のお母さんに連絡してください」
「嫌よ!絶対嫌!」
アリスの動揺に満ちた泣き声をただ黙って、北斗は落ち着いて受け止めた
そしてしばらくして北斗はお福に言った
「成宮北斗は逃げも隠れもしない、二人が来るのを待っていると」
..:。:.::.*゜:.
明を寝かせ直哉が下の階に降りて行くと、北斗とアリスは自分達の家に帰った様子だった
お福はずっと考え事をしながらも、いつも通りキッチンで何か作業をしていた
心ここにあらずで手だけを動かし、大きなお皿を食器棚から取り出している
アリスもだけどこのお福もアリスの、母親に会うのをどこか恐れている
何か都合の悪い事でもあるのだろうか・・・直哉はずっとそう思っていた
「・・・手伝うよ・・・・ 」
ぼんやりしているお福の横に立って直哉が言った
「何を作るつもりなんだ?」
「さぁ」
お福がぼんやり答えた
「忘れちゃいましたわ・・・」