テラーノベル
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とりあえず念入りに髭を剃って元貴を夕方迎えに行く
今日の目的地は夜の繁華街で
ほぼ足を踏み入れた事のない世界
バイト先から近く2、3筋違うだけなのにこの通りの雰囲気は全く異なった
客の見送りなのか出迎えなのか爪が長く割と若い女性が2人店の前に立って喋っている、黒服の男性が道行く大人の男性に声を掛けて呼び止めるが誰も止まらない
そんな日常から離れた景色を横目に僕たち2人は名刺を持ち少し通りを歩きながら書かれた住所の場所を探した
「この辺りなはずだよ」
さっきの道からまた途中で入り組んだ小さい通りに入り元貴の言葉に当たりを見渡す、大分とディープな場所に入ったとわかる
中に人がいるのかわからない様な小さな暖簾のアダルトなお店が向かいにあり逆側にソープランドとしか描かれていない看板に無機質な薄ぼんやりと明かりが灯っている、茶色の建物にアイビーがそこら中から纏わりついて少し怖い、いつからあるんだろう..そう思わせるお店が僕達の足を止めた
元貴が電柱の住所と名刺を交互に眺める
私服で歩く僕と元貴はこの通りに不釣り合いで既に不安になって来ていた、肩が当たりそうになるくらい身を寄せて余計不審だったろうと思う
こ、ここじゃないよね..
独り心の中で呟く
「んーここだ!よかった、こっちかと思っちゃった」
先に見つけた元貴が安堵した表情で僕に向いて教えてくれた
2軒ほど隣だった
名刺のビルはこの通りでは新しい建物みたいで螺旋階段の上とお店の入り口のある奥にお店の看板が光り輝いていて、5階建てのお店の名前がそれぞれ並んでいた
でもこちらはネオンがしっかり光っていて安堵感を覚えた
「ここ、か、..よかった」
「うん、いこう..」
「..うまくやれるかな、元貴巻き込んでごめん..」
「今さら謝るなよ..いくよ」
そう言って腹を括ったように元貴が笑ってくれた
「..うん」
お店について言われた様にスタッフ用玄関から入る、すぐに先輩と黒服のボーイが出てきてくれて源氏名と衣装を決めようとバタバタ慌ただしくなる
当初の予定が変わってお店にはもうお客さんも入っていてあまり構えなくてごめんねと言われた
お互いメイクもしてもらい変化した顔さえよく見る暇なく次は接客のレクチャーを受ける
水割りを作りおしぼりやハンカチでグラスを吹く
ラベルはお客様に向ける
マドラーのかき混ぜ方にさえルールがあるんだねーへぇーと少しだけ心の余裕のできた僕は両隣をさりげなく見た
2人の姿に驚いた..え、ほんとにさっきまで男の姿だった..!?可愛いすぎる
僕ら2人以外も1人可愛い男の娘が一緒に受けている、急に辞めた欠員を先輩は他にも見つけられたんだなとぼんやり思った
辞めやすくなってかえってよかったかもしれない
それより2人の出来と比べてしまい少しショックを覚えながらレクチャーを終えた
じゃーこの後で各々お店の先輩たちに着いて2人1組で接客してもらうねと告げられた
「それまで、ここで少し待っててね」
人がいなくなって話し掛ける
「元貴すっごい可愛いじゃん」
「すずちゃん、名前..モトコだからね」
「あっ、ごめん!まだ慣れなくて..
私はすず、モトコちゃんね
でもすっごい可愛い、ワンピースも似合ってる
身体に合ってるね」
「すずちゃんも..似合ってるよ
可愛いじゃん..やっぱちょっと背デカいわね
O脚も良くないわよ
りょ..コホン、すずはセットアップなんだ
ウエスト細くて羨ましい」
「いや..2人が可愛すぎて僕ショックだった..あ、私ショックだった」
話し方も気をつけなくてはいけなくて一言話しては訂正してととても上手くいきそうにはなかった
その時一緒にレクチャーを受けていた子が話し掛けてきた
声も可愛くて見た目も女の子に見える
顔も小さくすぐに人気出るだろうなと思った
「お友達と入店っていいですね
まだ誰にもカミングアウトしてないから..
今日は緊張して上手くいくかな」
首を振って答えた
「君こそ可愛いから大丈夫だと思います
僕たちもすごく緊張してるから..」
カミングアウトと聞いて色んな事情の子がいることに気づいた
普通の仕事出来ないかもな..
そして彼から呼ばれて、次に元貴
最後に自分の番を待つ
先輩が僕の元に来てくれて
「すず..やっぱり可愛いじゃん」
「緊張してる?話聞いてもらいにくる人も多いからそれってリアルじゃなかなかしてもらえない人多いんだよね
話し持たない時やってみて、あっ変な客はすぐ教えて」
先輩のことばは不思議と僕をリラックスさせてくれて少し緊張がほぐれた
そして僕は呼ばれて席に移動した
僕達はさっきのレクチャーを見様見真似でこなしてなんとか最初は愛想笑いの様な物と客の話を聞いてやり遂げた
2組目の客から元貴が覚醒したかの様にお客様に気に入られ少し想像していた通り元貴が今夜の花だった
先輩もこの世界初めて?と驚くほどお客様との会話も人気も独り占めし今夜は元貴のためにあるお店の様だった
シャンパンを入れてもらい上機嫌なモトコを横目に指名がない場合30分ごとにお客様のお席を変わり歩いて終わる頃には僕はへとへとになりながら今日一日を終えようとしていた
モトコは手管が備わっているとボーイにも言われてた
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