【竜蘭】
○前回投稿したものと内容は変わりません。
センシティブ設定によって見られない方のために解説部分を抜き取って再投稿したものになります。
(約9000文字)
・病み
・リスカ
・自殺未遂
・キャラ崩壊
・誤字脱字
・自己満
・意味不
*誰の地雷にも配慮しておりません。
*セリフのみの割合高め。後半セリフ過多。
○イザナと蘭の関わり多め
その他何でも大丈夫な方のみご覧下さい🙇♂️
「りんどぉ〜」
「なに?兄ちゃん。」
「呼んだだけ〜」
「なにそれ笑」
兄ちゃんが俺の元に来てから数ヶ月。
特に問題なく時は過ぎていった。
兄ちゃんにも変わった様子は無い。
ただ1つ言えるのは、以前の俺では見えていなかったことが見えるようになったということ。
これは特殊能力的な意味ではなくて、兄ちゃんの言動から読み取れることが増えたということ。
例えば。
「竜胆、今日予定ある?」
「ん?今日は一応クラブ行く予定あるけど。」
「ふ〜ん、そっかぁ。」
「…どっか行きたいとこあった?」
「別に〜。」
「…そう。」
こんな時、兄ちゃんは特別俺とどこかに行きたいんじゃなくて、家で2人でのんびりしたいんだってこと。
素直じゃないから口には出さないので分からなかったけど、やっと分かるようになった。
こんなちょっとしたことで、何かが変わったらいいなと思う。
兄ちゃんの中にある不安とか、悩みとか、少しずつでもいいから俺が取り除いてあげたい。
「…やっぱクラブ行くのやーめた。」
「は?なんで。」
「家で兄ちゃんとのんびりしたい気分〜。」
「ンだよそれ…勝手にすれば。」
「はぁーい。」
喜んでる。
兄ちゃんってこんなに分かりやすかったっけ。
意外と見えてなかったんだな。
「…好き。」
「は…」
「ふはっ、かーわい。」
「うるせぇ。」
照れてる。可愛い。
このまま兄ちゃんの気持ちをもっと理解できるようになれるといいな。
そしたらきっと救えるよね。
ある日の夜。
「兄ちゃん、ご飯できたよ」
「ん…」
「眠い?」
「んー」
「ほら、食べたらまた寝ていいから。」
「ん…先行ってて」
「なんで?」
「いーから。」
「…ちゃんと来てね?」
「ん…」
この時から少し、兄ちゃんの様子がおかしくなっていた。
部屋に呼びに行くと「先に行ってて」がお決まり。
眠いのかと問えば必ず頷くけど、以前よりずっと長い時間眠っている。
それなのに、兄ちゃんの顔にはうっすらと隈ができていることがある。
時々話を聞いていないし、ぼーっとしている。何か隠していることは確実だと思った。
だから直接聞きたいけど、聞いたところで素直に教えてくれるような人じゃない。
「りんど」
「ん?どーしたの?」
「出かけてくる」
「え」
「え?」
「あ、いや…何時に帰ってくる?」
「帰ってくる頃には竜胆寝てるかも」
「…どこ行くの」
「どこでもいいでしょ。」
「まって、行かないで。」
「…なんで?俺竜胆に用事ない。」
「俺はある」
「…」
「話聞いて」
「…」
「急ぎじゃないんでしょ?」
「…急いでるって言ったら行かせてくれんの」
「まぁ、うん」
「嘘じゃん。」
「すぐ終わるから」
「…はぁ。早くしてよ。」
「うん」
「で、なに?」
「最近さぁ、なんか冷たくなったよね」
「なにが」
「兄ちゃんが、俺に。」
「ンなことないでしょ。」
「…俺だってガキじゃねぇんだからそんくらい分かるよ。」
「そもそもガキじゃねぇならンなこと気にしねぇよ。」
「…それはまぁいいとして、俺に何か隠してるでしょ。」
「話逸らしたし。」
「俺に何か隠してるよね?」
「別に何も隠してねぇよ。」
「嘘つかないで。分かるからね、そういうの。」「俺がお前に隠し事すると思ってんの?」
「隠し事してたから前も…」
「…前も?」
「…とにかく、隠さないでちゃんと俺に教えて。」
「…いつまで過去のこと引きずってんだよ。」
「…は?」
「ダセェつってんの。いつまでもネチネチ過去のこと気にしてんの。もう忘れろよ。目の前に俺がいんのにさぁ。」
「…」
「聞いてる?」
「…」
「そっちが呼び止めたんじゃん。なんなの。用無いなら俺行くからね。」
「…」
「おい、竜胆」
「…本気でダセェとか思ってんの?」
「あ?本気も何もねぇだろ。誰だって同じこと言うぜ?」
「…兄ちゃんには俺の気持ちなんて分かんないからそう言うんでしょ。」
「知るわけねぇじゃん。知ってても知らなくても過去のことばっか気にしてる時点で俺からしたらダサいけど?」
「うるせぇよ。」
「は?」
「もういい。行きたきゃ勝手に行けば。俺は寝るから。」
「…あっそ。」
「…」
「…それでいいんだよ、竜胆。」
「…何やってんだ、俺…」
せっかく話を聞いてくれていたのに。
でも…
「過去のこと引きずってるとか、当たり前じゃん。」
忘れられるはずもない。
俺の見えないところで傷付いて、我慢して、結果的に自ら死を選んだ兄ちゃんのことなんて。
本当は思い出したくもない。
だけど、決して忘れてはいけない。
今兄ちゃんが一緒にいるのは奇跡以上の、有り得ない出来事だから。
二度と傷付けないように。
二度と失わないように。
ちゃんと話を聞いて、力になってあげたい。
兄ちゃんが帰ってきたら謝らなきゃ。
また明日、起きてから話をしよう。
大丈夫。
できる。
「…大丈夫…」
午前2時半頃。
何故か目が覚めてしまって水を飲もうとリビングへ向かった。
兄ちゃんはもう帰ってきただろうと思ってたけど、帰ってきた気配は一切なかった。
部屋を覗いて見ても兄ちゃんはいなくて、靴を確認したらまだ帰ってきていないようだった。
「こんな時間までどこ行ってんだよ…」
流石に遅すぎる。
いつもならもっと早く帰ってくるのに。
なんだか嫌な予感がして、急いで兄ちゃんに連絡した。
メールしても既読がつかなくて、電話をしても出てくれなかった。
何度も電話をかけて、出なくて。
探しに行こうと思ったけど1人で探すには時間がかかるだろうと思い、天竺メンバーに連絡をした。
1番早く連絡が着いたのはイザナで、事情を説
明すると先に探しに出てくれた。
俺は他の人に連絡を入れながら兄ちゃんの部屋を確認することにした。
確認したかったのは兄ちゃんの所有物。
以前の兄ちゃんは、後から知ったことだけど自傷行為をしていたらしかった。
今の兄ちゃんはしてないだろうけど、こういう時しか確認できないから。
俺たちの家にカッターなんて最初から置いてない。
だから、カッターとかカミソリとか、そういう刃物があったら大分怪しいのだ。
兄ちゃんの部屋はずっと遺品整理とか出来てなかったから置いてあるものは変わらないけど。
何処か手近な場所に置いてあるものでは無いはずだから、実際は置いてある場所が知りたい。
ベッドが少し荒れていて、布団がぐちゃぐちゃになっていた。
そんなに寝相悪いわけじゃないのに。
ついでと思って布団を直していると、何かが落ちた音がした。
落ちたものを拾い上げると、それは今から自分が探そうとしていたものだった。
探そうとしていたソレには、兄ちゃんの物だと思える血が付いていて。
真っ先に用途が頭に浮かんだ。
驚きが隠せずしばらくその場に留まって、誰かからの連絡にハッとしてすぐにカッターを机の上に移動させた。
連絡をくれたのはモッチーだった。
こんなことしている場合じゃない。
今は兄ちゃんを急いで見つけて安否確認だけでもしたい。
そう思って家を飛び出した。
またあの時みたいになったらどうしよう。
いなくなってしまったら…
そんな考えが頭から消えてくれない。
焦燥感と不安に駆られながらもイザナ達の元へ急いだ。
イザナ達と合流して少ししてから、鶴蝶と獅音から連絡が入って合流した。
ココはひたすら情報を集めているらしい。
三途からも焦った様子で電話が来た。
皆考えてる事は同じらしく、特にイザナと三途
とモッチーが焦っているように思った。
皆こんなに兄ちゃんの事心配して大事に思ってるのになんであんなことしたの。
早く見つけなきゃ。
そんな思いでいっぱいだった。
「竜胆!」
「あ、三途…!」
「蘭は!?」
「まだ見つかってない…」
「手掛かりとかねぇのかよ?!」
「まだ…」
「嘘だろ…最後に会ったのいつ?」
「確か…17時頃だったかな…」
「10時間も経ってんじゃねぇか…!!」
「竜胆が寝てる頃に帰るかもって言ってたけど、連絡無しでこんなに遅いこと無かった…」
「クソ…どこ行ったのかとかもわかんねぇ?」
「教えてくれなかった」
「…連絡してみる…」
「俺もメールいれる…」
「ダメだ出ねぇ…」
「だよね…あ、イザナから連絡…」
『竜胆、蘭が出かけてから今までで蘭に会ったやついたっぽい。』
「マジ?!誰、何処のどいつ?目的は?」
『落ち着け。特に何かした訳ではねぇらしい。クラブに蘭が顔出しに行って、そん時蘭に話しかけられて少し話をした程度。』
「話の内容とか分かんない?」
『軽く世間話して、近況報告。ただ、ちょっと気になる事を口にして行ったって。』
「なんて?」
『大事なヤツが自殺したらどう思う?って聞いてきたんだって。そう聞いてきた理由聞いたらなんとなくって答えたらしい。』
「…」
『竜胆?』
「おい竜胆、しっかりしろ!まだ確定したわけじゃねぇだろ…イザナ、俺が代わる。」
『…その後、人生って辛いよねーなんて笑いながら言ってきたと。』
「…それはいつ頃?」
『19時頃だったって。その後は何事も無かったかのように店を後にしたって。今ある情報はこれだけ。また何か分かったら連絡する。』
「わかった…その店どこ?」
『◯◯』
「ありがと。竜胆、行くぞ…」
『…竜胆、今は落ち込む時じゃねぇ。蘭見つけたら1発殴ってやれ。』
「…うん。ありがと。」
『おう。じゃ、また後でな。』
「ここか」
「…俺がいつも行くとこなんだよなぁ…兄ちゃん普段行かねぇのに…」
「…誰か知り合いいる?」
「この時間だといると思うよ。探してみる。」
「おいモブ!ちょうどいいとこにいた…」
「竜胆さん!?どうしたんスかこんな時間に」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、今日兄ちゃんに会った?」
「蘭さん?…あ、そうだ…気になることあって…」
「なに?なんでもいいから教えて。」
「19時半頃に蘭さんがウチに来て、俺って竜胆に嫌われてるよねって言ってきたんスよ…普段絶対そんなこと言わねぇのに…」
「…他に知ってることない?」
「あ、俺もちょっとだけ気になったことありました!」
「なに?」
「ここで話してる時チラッと見えたんスけど、腕にリスカみてぇな傷あって…違うと思うけど一応…」
「…ありがと、ね…」
「なんかあったんスか?」
「いや、大丈夫…また来るね。」
「は、はい…気を付けて!」
「うん。三途行こ」
「おう…」
「リスカ…確か前もアイツ…」
「…さっき家でもそれっぽいのあったから確実かも…」
「マジかよ…?」
「うん。布団の中から血付いたカッター出てきた。」
「…」
「最近ずっとベッドから出てこなくてさ、もしかしたらって考えたらもう汗止まんなくて。」
「寝てるだけとかは…?」
「隈ある。」
「…でも集会の時無かったよな…」
「1回だけだよ。見たの。兄ちゃんの部屋にコンシーラーあったから隠してる可能性高い。」
「マジかよ…」
「あ、モッチーからだ。」
『竜胆!早く来い!蘭っぽいヤツいた!』
「マジで?!どこ!?」
『◯◯付近だ!』
「わかった!モッチー達どこ?」
『走って探してる!すぐどっか行っちまったから…』
「みんなバラけてる?」
『あぁ。囲んじまった方が早ぇからな。アイツ足速ぇし。』
「そーだね。すぐ行く!」
『おう!』
「三途行こ!」
「やべぇ、完全に見失った…」
「イザナは?」
「わかんねぇ…まだ走ってっかも」
「竜胆達おせぇ…何処行ってたんだよ…」
「確か◯◯のクラブから情報探してたって聞いたぜ?」
「は?クソ遠いじゃねぇか。」
「俺達で何とか探さねぇと…」
「…みーつけた。」
「…イザナ…?!なん、で…」
「蘭。お前何してたの。竜胆めっちゃ焦ってたよ。」
「…」
「とりあえず竜胆達に連絡して…」
「やめて!」
「…なんで?」
「やめて…お願い…」
「…そうしないとアイツらこれからもバカみたく走り回ることになるんだけど。」
「…俺のこと、見つかんないから諦めろって言うならいいよ…」
「言うわけねぇし信じるわけねぇじゃん。なんでそんなに嫌なの?」
「…」
「蘭。連絡するから。」
「やめ、やだ!やめて!お願いだから…」
「…何か隠してんでしょ。俺にだけでいいから教えて。竜胆に言わないから。」
「嘘、でしょ…絶対言う、俺わかるから」
「…なんで竜胆に隠すの。あいつが1番お前のこと心配して気にかけてんのに。」
「…それが嫌なの、心配とかかけたくない…」
「…ほっといて欲しいってこと?」
「…うん」
「つまり何か心配されるような事隠してるんだ。」
「ちが…っ」
「焦ってんだろ。いつもは嘘上手いのに。」
「…」
「ね、教えて。」
「…やだ」
「じゃあ竜胆に話して。」
「…むり。」
「…なんで俺達から逃げてたの?」
「…離れたかった」
「なんで?」
「…迷惑、かけたくないから」
「迷惑かけてないじゃん。やっぱ何かあったんでしょ。誰かに何か言われた?」
「…言われてない、けど」
「けど?」
「…」
「…あ、竜胆から電話」
『イザナ、兄ちゃんいた…?』
「…」
「…っ、!」
「…まだ。もうちょい探してみるよ。」
『そっか…マジでどこ行ったんだろ…』
「…心配すんな。」
『でも…!』
「分かってるって。必ず見つけて家帰らせっから。」
『うん…俺も頑張って探す。』
「おう。また後でな。」
「…な?心配してただろ?」
「…」
「このままだと竜胆走りっぱなしになるぜ?」「…」
「…お前はどうしたいの。帰るのが嫌なの?それとも竜胆に会うのが嫌なの?」
「…」
「…1回家帰ってみよ。そしたら竜胆と話して、また普段通りの生活に戻れるから。」
「…会いたく、無い…」
「なんで?」
「…俺のせいで竜胆に嫌な思いさせてる…」
「なんでそう思うの?」
「…記憶が…」
「記憶?」
「…」
「…しんだの、おぼえてる」
「…は?」
「…」
「…いつから」
「…電話鳴ってるよ」
「…もしもし、竜胆?」
『兄ちゃんどうなった?こっち見つかりそうにない』
「…今から言うとこ来い。」
『え、見つかったの…?!』
「いいから早く」
『う、うん…!』
夢を見た。
酷く懐かしいような気がした。
鼓動が早い心音と、普段より体温の高い体。
暫くそんな状態の体で、所謂風邪を引いていた。
熱は一向に下がることがなく、毎日体が怠かった。
基本的にベッドから出ることも少なくなって、物事を考えることが多くなった。
大半は竜胆のことと、「幸せ」のこと。
毎日看病してくれている竜胆だけど、本当は遊びに行きたいんだろうなとか、面倒臭いだろうなとか。
そんなことを考えては寂しくなる。
それでも口には出さない。
そんなこと口にしたらよくできた弟は上手くお世辞を言ってあしらうに決まっているから。
「幸せ」について考えたことは、もう数え切れないほどになっていた。
自分にとっての幸せなんて1つしかなくて、ただ竜胆の隣にいられたらそれだけで良かった。
でも竜胆にとっての幸せだったら話は違った。
そもそも他人の幸せなんて他人の自分が分かるはずもないけれど、それでも知りたかった。
少なくとも自分と竜胆は「他人」では無かったから。
兄弟という関係は、血が繋がっているだけで重いものでは無いと思っている。
兄弟と言えど、縁を切る奴らもいるし、何十年も会わなくなる奴もいる。
兄弟だからと言っていつまでも一緒にいられるなんて、ましてや一緒にいることがお互いの幸せだなんて中々無い話なのだろう。
竜胆は自分と違って色んな人と仲良くできるし、趣味も多くて人当たりもいいから好かれやすい。
兄弟なのに全然似てなくて、本当にただ血が繋がっているだけ。
まぁ、そんな竜胆が好きなんだけど。
そんな竜胆だから、怖いんだ。
いつか絶対離れていってしまうことは明瞭で、
少なくとも竜胆にとっての幸せが自分と同じで
ないことは確実で。
竜胆が自分の存在を必要としてくれているかな
んて確認のしようがないし、確認なんてせずと
も答えは分かりきっているけれど。
今はこうやって、熱が出たからと予定を断って
傍に居てくれているけど、これから先もこうし
てくれるなんて有り得ないのだろう。
兄のくせに弟にこんな重い感情を持ってしまっ
て、依存してしまって、本当に情けない。
自分がもっとちゃんとしなければいけないのに。
竜胆がいなくなった未来なんて考えたくもない。
いずれは離れていくと分かっているのに、分か
っているから、シュミレーションでもして対応
できるようにしておきたいのに。
竜胆がいなくなったら、自分はどうやって生きていくのだろう。
竜胆がいなくなったら、どうやって笑うのだろう。
竜胆がいなくなったら…
ああ、まただ。
こうして未来のことを考えれば毎回涙が溢れてしまう。
竜胆が来る前に止めなければ。
「兄ちゃん、タオル交換しちゃお。」
来てくれた。
触れられた手が冷たくて気持ちいい。
そっと手を伸ばして自分の頬に手を当てた。
竜胆は笑って「気持ちいの?」なんて返してくれる。
ずっと、このままがいい。
そんな我儘は心の内に隠して。
「りんどー」
「なに?兄ちゃん。」
「…ふは、なんでもない」
「もー。言いたいことなんなら言えよ〜」
「なんでもないって。」
「あーそー。あ、そうだ。今度駅前のカフェ行こーよ。新しくできたんだって。」
「そー。友達と行けばー?」
「なんで!兄ちゃんに行こーって言ってんじゃん!」
「あは、かわいーねぇ。」
「絶対兄ちゃんと一緒に行くから!」
「…ん、楽しみにしてるね。」
「約束だからね。」
「…うん」
また、守れそうにない約束を交わしてしまった。
心の中で後悔して、竜胆に謝る。
どうしようもない兄貴でごめんね。
きっと、カフェに行こうとする頃に竜胆の隣にいるのは俺じゃない違う誰かだから。
その頃に俺はもう、いないから。
「ねぇ、竜胆」
「なぁに?」
「竜胆にとって幸せってなに…?」
「え〜…好きなモン食って、好きなとこ住んで、好きな人と一緒にいれたら幸せ…かな?」
「…そっか、」
「どしたの急に」
「なんでもないよ」
良かったなんてカッコつけたけど、本当は後悔している。
聞かなければよかった。
しかし、良かったと思ったのも本当だった。
これで迷いなく逝けるから。
竜胆には、悪いことしちゃったかな。
でも、そんなのいつものことでしょ?
だから笑って許してね。
熱が下がってから数日経って、竜胆はそそくさとどこかへ行った。
やっぱり、自分が元気になってしまえばそんなものだ。
竜胆を縛り付けたいわけではないからそれで良いはずなのに、寂しくて少し嫌になる。
でも、この時しかないなと思った。
竜胆がいない間に消えてしまおうと。
なんで死んだのかなんて、竜胆は分からなくていいから。
というより、分からないで欲しいから。
だから、遺書にも書いてあげない。
最期まで我儘でごめんね。
大好きだったよ、竜胆。
どうやって死んだとか、何で死んだかとか、竜胆はきっと知らない。
ただ、自殺したんだとしか知らないだろう。
でも、竜胆は大して興味無いだろうって思ってた。
死んだって発覚した時は驚いて困惑して少しくらい悲しんで…って、感情が動くだろうとは思っていたけど、数週間も経てばどうでも良くなるだろうなって思ってた。
だって、竜胆にとって1番大切なのは自分じゃないことくらい分かってたから。
いくら兄弟でも、色んな人と関わっていたらその存在は特別では無くなるものだろうし。
俺はずっと竜胆だけが1番大切で特別だったけどね。
死んでも死にきれないなぁ。
竜胆の姿は見えなくても考えちゃうから。
これじゃ死んでも生きてる時と変わんないじゃん。
「バカだなぁ。」
長い長い夢から目を覚ました時、何故か自分は懐かしいベッドの上にいて、隣には誰よりも愛おしい弟がいた。
状況を一瞬で理解して、そんなこと有り得るのかと考えた。
考えた、けど、目の前で起こっていることなのだから現実なのだろうと思うしかなかった。
竜胆が起きたらどう思うのだろう。
きっと、迷惑に思うのだろう。
せっかく1人になれたのにと。
また邪魔者が隣に現れてしまったことを悲しむのだろう。
どうするべきなのだろうか。
生き返った、という表現が正しいのかも分からない。
ひとまず普段通りの灰谷蘭を演じて、自分が死んだことは知らない風を装うことにした。
その方が竜胆も対応しやすそうだったから。
嘘だ。
本当は、生き返ったと伝えた場合、竜胆に突き放されそうで怖かったから。
1度死んだ身なら今までのように優しく接する必要も、関係を保つために偽る必要も無いと竜胆が判断したら、きっと冷たくあしらわれて捨てられるのがオチだろうから。
つい昨日まで一緒にいたという設定にでもすれば、竜胆は生前のように優しく嘘をついてくれるだろうと思った。
せっかくまた会えたから、もう少しだけ竜胆の優しさに溺れていたい。
それだけ。
何故生き返ったのかも分からないまま、生前と
同じように竜胆の隣で過ごしていた。
しかし、時が経つにつれて、生前竜胆に言われ
た言葉が頭を埋めるようになっていく。
竜胆に優しくされれば喧嘩中に言われた「めんど
くせぇな。」という言葉が頭をよぎったり、竜胆
が少し不機嫌そうな顔をすれば「お前のせいだ」
という言葉で頭の中が支配される。
頭を支配するような言葉は、大抵喧嘩中やちょっとした反抗期に言われた言葉で、普段からそんなことを言われているわけでは無いのに理不尽だなと思う。
それでも当然、弱い自分がそんなことに耐えられるわけもなくて逃げ出した。
もう1回、消えたら次はどうするの?
ねぇ、竜胆。
改行作業だけで400文字分ありました…
頑張った…
コメント
2件
贅沢な目覚め✨