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とある日の朝。
いつもと変わらない学校の日の筈なのに、俺達男はそわそわと動いていた。
いつもよりちょっとだけ早く来て、いつもより優しく女子に接するその姿ははたから見たら鶏のようで滑稽だ。
何故俺達がそんなことをするって…?
それは、今日がバレンタインだからだ!!
俺の名前は木葉 秋紀。高校3年だ。
今年で最後のバレンタイン。もう2月なので卒業も迫っている。
今更足掻いても仕方ないとは思うが 一度もチョコレートというものを貰えなかった俺にとって最後のチャンスでもあるのだ。
時刻は7:50。
まだ、今日は始まったばかりだ。
8:00—
女子達が教室に入り始めた。
クラスの雰囲気は早くも戦闘体制になっていた。
だが、そんなことも気にせず、女子達は友達同士でチョコレートを交換し始めた。
交換するくらいなら俺にもくれよ。
8:15—
女子達の交換が終わって、早くも男子に渡し始める女子がちらほら出始めた。
本命そうなのはその内数名程。その他は義理のようだ。
と思っていたら、本命そうなチョコレートを持った女の子がこちらへ来た。めちゃくちゃ顔が可愛い。照れながら、歩く姿はさながら天使のようだ。
ああ、ついに俺にもチョコレートを貰う機会が来たのか。少し姿勢を伸ばして、待っていた。コツコツと彼女の足音が大きくなっていく。さあ、いつでも来い!
すると、俺の横を通り過ぎたではないか。
と、思っていると俺の後ろの席のヤツの名前が呼ばれた。
「あの…。○○君。私、…○○君のことがす、好きで…。だから、その、私と付き合ってくれませんかッ!」
俺じゃなかったのかよッッッ!!!声に出そうになったが、堪えた。
「え…。俺に……?い、良いの…?」
「も、勿論ッ!○○君と付き合いたくて頑張って作ったの…!」
「…ありがとう。俺も△ちゃんのこと、好きだったんだ…!だから、よろしくお願いします。」
「…!やった!これから、彼女としてよろしくね!」
「!彼女…!」
クソッ。いちゃつきやがって。羨ましい。
あーあ。毎年こんなんだわ。最悪だー。
昼休み—
一旦、敵城を視察しにいこうと思う。
もしかしたら?もしかしたら?別のクラスに俺のことがす、す好きで?緊張して行けない子とか?いるかも知れないし?一応、一応だから。
木兎のいるクラスはここか…。アイツ、意外と結構貰ってるんだよなぁ。アレなのに。
なんで木兎が貰えて俺が貰えないんだよ!クソォ!!
「あ、木兎ー!」
軽めに名前を呼んだ。
すると、あのワックスで固めたデカい頭がぐるんと回転して俺の方を見た。
と、同時にアイツが貰ったチョコレートの数が分かってしまった。
「木葉!」
机の上に山となったチョコレートの数々。
中にはネタとは思えない程に丁寧に梱包されているものもある。なんだこれ。去年の5倍…いや、それ以上はあるんじゃないか?
「見てー!いっぱい貰ったんだ!」
“貰ったんだ!”じゃねーよ!クソッ!その内何個かこっちにくれちゃダメなのかよ!
「こんな要らないし、木葉も何個かいる?」
合ってるけど、そういうことじゃねーよ!
と、心でツッコミを入れながら
「いや、俺はいいや。女子に直接貰うからな。」
と答えた。すると、木兎が
「ふーん。そっか。てゆーかさ、俺、まだ欲しい人からチョコレート貰ってないんだよね……。」
と何故か少し照れたように贅沢なセリフを吐いた。
チョコレート、一個も貰えてない俺に言うセリフか?自慢か?自慢なのか?
ん?と、言うか…。木兎に好きな人…?
自慢のせいでスルーしていたがなかなか凄いことを言っている。
バレー以外何も見えていなかった木兎が…?
「木兎、お前…。好きな人いたのか…!?」
「ちょ、ちょい!声大きいって!!」
「ああ、ごめん。で?好きな人ってどういうことだ?」
「好きな人とは…言ってない…けど…好きかも……知れないって言うか……。」
木兎はモゴモゴと滑舌の悪い声でいつもの元気はどこへやらと思う程下を向いて話していた。
「で、その子、可愛い?」
「…そりゃ!可愛いに決まってる!!!」
「ふーん。ていうか、お前、結構付き合って別れてを繰り返してるじゃん?どうせまた飽きるんじゃないん?」
「今回は…本気。俺も…赤あ…じゃない!…あの子のことはバレーとおんなじくらい好き。」
もうそれほぼ名前言ってるだろ。
赤葦か…。いつも一緒にいたもんな…。まあ、そういう気持ちが芽生えても仕方ないところはある。
「そうか。…まあ、お前ならできるよ。 」
適当なことを言って話を切ろうとした。そしたら…
「ほんと!?俺、今まで沢山アピールして来たし、出来るかな!?」
なんてキラキラした目で言うもんだから心が痛んだ。
「あ、あー。出来ると思うぜ!じゃあな!」
投げやりなこと言って返す間もなく逃げた。
いや、俺の発言でアイツらの告白とか決まったら嫌だし…ほぼ大丈夫だろうけど、失敗して俺のせいになるのも嫌だし…。
とか言ってると教室についた。
……。チョコレート貰いたかっただけなのになあ…。
あー。面倒くせー。
まあ、まだ、時間はある。
今日が終わるまでが勝負だ。
部室に行く道—
……貰えてない!!まだか?まだなのか?恥ずかしがってないで、出てこいよ!いつでも貰うから!なぁ!神よ!俺にもチョコレートくれよ…!!!
とか思ってたら部室についてしまった。
ガチャリ。ドアのぶに手をかけて部活のドアを開く。そこには、まだ赤葦と木兎しかいなかった。
木兎「あ、あの…。赤葦……さ。…」
木兎がなにか重大なことを言おうとしていた。……。扉開けなければ良かった…。
この状況は相当気まずいんだが、…。ホントは今すぐにでも逃げたい。まぁ、それは一旦置いといて。一つ物申したいことがある。
赤葦のチョコレートの量のことだ。……なんだこの量は!?木兎ですら、机パンパンの量だったけど、その倍あるよな?どうした?どうしてそうなった。しかも、木兎よりも本命率が高すぎる。どういうことだ。何故だ。どうしてだ。俺が一個も貰えていないことがおかしいみたいじゃないか。……はあ。泣きそう。
「あ、木葉さん。こんちゃーす。」
「あ、うん。」
えーと。とりあえず、ドア閉めて戻っても良いか?気まずすぎる。木兎なんかもう泣きそうになってるし。
「で?木兎さん、どうしました?」
おい待て赤葦。そこで木兎に振るのは拷問だ。無自覚なのは良いとしても木兎のライフは0だぞ。あー。ヤバい。木兎が本当に涙目だ、。
「赤葦クン。ちょっとこっちでお話しようか。」
「え…でも…。」
「良いから。大丈夫だから。」
「…は、はい…。」
そう言って赤葦を無理矢理木兎から引っぺがした。
ひっぺがしたは良いものの、何を言おうか…。別に特段言うことはないんだよなぁ…。鈍感なのも元からだし……。
「あ、あー…。とりあえず、すまん。邪魔しちまったわ。」
「?大丈夫ですよ?」
そういうことじゃないんだ。赤葦。すまん。木兎。邪魔しちまって。いやほんと、それにしても赤葦鈍感すぎるだろ…。
「あの。…そろそろ、部室戻っても良いですか?着替えたいので。」
「お、おう…。分かった。」
咄嗟に答えてしまった。木兎は大丈夫だろうか。いや、大丈夫な訳ないか。…すまん。木兎。あとで何か奢る。
「着替え終わったので、お先に失礼します。」
…やっぱり、赤葦って着替え早過ぎないか?
「あ!まって!あかーし!俺も一緒に行く!!ちょーど着替え終わったから!」
今日の木兎は立ち直りが早くて良かった。比較的楽そうだ。
…って、そろそろ時間もヤバい。早く着替えないと集合時間も遅れちまう。 急いで行かねえと。
「ギリ間に合ったァァ!!!」
「あ!木葉!!」
「小見やん!尾長!鷲尾!」
「おー。」
「お前ら来るの早えな」
「ふっふっふ。すまんな。」
「…なんだ?」
「俺ら全員、チョコレート貰っている!」
「…はぁ!?マジで!!??」
「すまんな!」
「すみません…。」
「すまない」
「…まじかよ……。」
もしかして…貰ってないの俺だけ…?
いや、まて。まだ、猿杙が貰ってない可能性もある。
「やっべぇー!!!遅れたぁぁ!!すまんー!!!」
猿杙が来たようだ。
「猿杙。お前、チョコレート、いくつ貰ったんだ?」
「あ、チョコレート?今年も変わらず0だぞ!どうせお前も知ってんだろ?」
「…ッ!!!同士よ!!!」
「……???え、なに?同士って…。一部を除く、部員みんなそうじゃね?」
「………。」
「は?もしかして……。は?」
「多分。お前の察してる通りだ。」
「ッ…!?………。まじか…、」
猿杙はこの世の終わりかのように床に膝をついて絶望していた。
「大丈夫だ。俺がいる。」
「木葉ッ…!」
「俺らは一生、心の友だぜ。」
「そうだな…!!!」
「なーーあ!!!お前等なに話してるか分かんねーけど、さっさと始めよーぜぇ…。」
「へーへーすまんな。」
「チョコレート貰ってやがる身分でよー。」
「はぁー!!!終わったァァァァ!!」
部活が終わった帰り、俺はいつもよりも大きな声で発した。
どうせアイツ等はバレンタインだろうとなんだろうといつものように体育館で時間ギリギリまでバレーをしているのだろう。貰えてるし。
「はぁ…今年も貰えないで終わるのか…。」
もうすっかり暗闇に隠れた青を見上げて呟いた。
アイツ等と俺って何が違うんだろ…。考えてもしょうがないことを考えてボーっと空を見上げていた。そんなことを考えていた時、ハッと思い出した。
そういえば、木兎は大丈夫だったのだろうかと言うこと、自分のロッカーにタオルを忘れていったこと。急いで取りに戻って確認しにいくことにした。
幸い、俺の部活の部室には小さな窓があり、そこからアイツ等の状況を覗くことが出来た。
「あのさ…あかーし…その…。えっと…」
「あの、実は俺からも言いたいことがあって…、言っても良いですか…?」
「あ、うん…。」
「あの…これ…なんですけど…。あ、で、でもあんまり上手くいかなくて、なんかその、要らないなら全然大丈夫なんですけど!!…その、えっと…。」
赤葦が木兎に渡したのは手作りらしきチョコレートだった。おずおずと渡すその様子は朝見た女の子のようで、まるでそれは赤葦が本当に木兎に恋をしているようだった。
「ううん。俺、それ欲しい。俺、あかーしからなら、…欲しい。」
「そ、ですか…。でも…他の方よりも形が歪で美味しくもないですし…。」
「大丈夫。ぜってーうめーし。」
「それに…!俺なんかがあげても…」
「俺なんかって言わないで!!俺は!”あかーし”に貰ったからこそ意味があるって言ってんの!!」
「えっと…、?」
「あーもう!……俺、俺は!!あかーしのことが好きなの!!だから…!!あかーしに貰ったものならなんでも嬉しいし、チョコレートなら尚更嬉しいの!!義理でも友でも良いから欲しかったの!!」
「えっ…や、でも、そんな、こと…。…えっと…。その…。」
「だから……その…えっと…。」
「あの、!!俺も!!俺も……木兎さんのことが好きで…でも…。俺、男ですし、生産性もない…ので、…。それに!!木兎さんが俺を…その……す、好き……だとは思ってもみなかったので…。俺なんか…隣に立つ資格はないんです……。」
「……。え?なんで?別に両思いだし、付き合えば良くね?てか、俺が選んだんだから隣に立ってるのはあかーしだけだし。」
「いや。、それだけはダメです。烏滸がましいですが、もしも俺なんかが木兎さんという、この世界を照らす大スターの隣に立ってしまったら貴方の評判を落としてしまうかも知れないんです。将来、貴方は世界の誰もが注目する大スターになります。そんな中、一般人の、それも男となんて付き合っていると知られたらそれこそ、貴方の、…足枷に…」
「うー…あかーしの言ってること、難しいからわかんねーけどさ、俺のことを考えてくれてるのは分かる。でもさ、それで付き合わないって、今の俺の気持ちはどうなるの?俺は、俺の隣には、あかーしがいてくれなきゃ意味ないよ。」
「……。」
「なぁ……だからさ、それ、俺にくれない?それで131歳までずっと俺の隣で応援して欲しい」
「…俺、男ですよ。」
「うん。」
「我儘ですよ」
「うん。」
「…重いですよ。」
「うん。」
「別れようって言われたらみっともなく縋り付きますよ。」
「俺、そんなこと言わない。」
「ッ…こんなのでも!!本当に良いんですか。貴方は本当に後悔しないんですか。今ならまだ、引き返せます。」
「いーよ。あかーしだったら。ゼッタイ後悔しない。」
「……ッ貴方は本当にッ…。……………。
…………好き。好きです。ずっと好き。」
「うん。俺も。ずっと大好き。」
まぁ、アイツ等結ばれて良かったわ。ま、当て付けしやがったから大人になってもずっと揶揄ってやるけど。これ以上はいても意味ねーし、さっさと帰宅すっかー。はーぁ今年もチョコレート貰えなかったわ。
木兎、赤葦。羨ましいけど、お幸せに。
—おまけ
(帰宅)
「おい、待て。タオルがない。もしや…あーーー!!!!忘れてたわ!!!最悪だ。やべ、取りに帰らないと、親に殺される」
「ハァハァハァ…。これだッ……ハァハァ」
なんとか間に合った。
タオルも見たかったし、帰るか。
「マジで今日、色々あったわー。」
そんなことぼやいていると目の前に手を繋いだカップルがいた。
「くそ…俺も彼女いれば…。」
とは言いつつ、カップルの様子が気になる。
別に?別に悔しいわけじゃねーけど。
心の中で言い訳しながら少しずつそのカップルに近づくと声が聞こえた。
「なぁ、あかーし。」
「はい?」
「これからもよろしくな!!!」
「ふふっ、俺もよろしくお願いしますね」
木兎と赤葦かよ!!!まあ、仲良さそうでなにより。俺もいつか、彼女作って、ああ言う会話をするやつらを超えてやるからな!!!覚えてろよ!!!
—作者から
投稿が遅くて申し訳ございません。
見ていただいた方、誠に有難う御座います。