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「…寝れないの?」
深夜の屋外。
季節は春、夜に照らされた桜の花びらがあたりを自由に舞っていく景色を、ただぼーっと見つめる。
そんな事を初めて少ししてからだろうか、突然そんな声が聞こえる。その声のした方向を見てみると、そこにはこちらをじっと見つめる少女が一人居た。
彼女の水色の髪が、風の吹く度に揺らされていく。真夜中の灯り1つすらないこの場所には十分過ぎる程に光の様に見えるのだろうか。
…私には分からないけれど。
「うん。実は最近そうなんだよね〜。」
あはは、と笑いながらそう彼女に返事をする。それを聞いて彼女は、実は私もなんだ、と同じ様に笑いながらそう言った。
最初はいつもと同じ様な世間話だった。
けれどどこからか、話の流れでいつもとは違う話になった。
「…ま、結局は本当の意味の”神様”なんて存在しないんだよ。私達が定義付けた神は偶像で、所詮は紛い物。」
かつては満月であった月を眺めながら、彼女はそう言う。
「人が過ちを犯すのは感情を持つから、人であるから。それを同族である人は認め、騒いだ所でそれが未来永劫まで続く事は無い。でも、もしそれが神…神罰ならどうなると思う?」
彼女は視線をこちらに傾け、そう問いかけてくる。その視線からは、彼女が真剣だという事が伝わってきた。同時に、何か違和感を覚えた。
「…どうだろう…人々はそれを信じ、崇め、関心を持たずに居た。どんな反応をするかは私には分からないけれど、彼らの心には、少なくとも疑心が生まれ、もう二度と同じ様に信仰する事はなくなるんじゃない?」
今は質問に答えるのが先だ、と思い、少し考えてからそう答える。その間も、その後も、少しの間は沈黙が続いた。沈黙の間は、時間が経つという事を、時間の流れというものを体で感じた。
そうしていると、彼女は息を一つ大きく吸った。そうして言葉の続きを紡ぎ始めた。
「そう。人は神を妄信していて、限りなく完璧に近しい状態を神と名付けた。そんな神が、もし人と同じ様に過ちを犯せば、人々は騒ぎ立て、神を糾弾し、それは未来まで記録として残っていく。」
こちらから目を逸らし、月を眺めながら悲しげな表情を浮かべながらそう言った彼女は、息を再び軽く吸い、続きを話そうとした。
「それでもね、本当は―」
そこまでを言うと、もう時間だからと背を向けて立ち去ろうとする彼女。数歩だけ歩けばこちらに振り返り、手を振りながら一つこう言った。
「じゃあね。またいつか会えたらその時は宜しく。」
私はそれを見送ると、彼女が来る前と同じ様に夜の景色を見つめる。
そうして一つの夜は明け、日差しが私を静かに、暑く照らした。