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氷はそう簡単に溶けぬ

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氷はそう簡単に溶けぬ

1 - 第一話 溶かせない。

♥

181

2023年11月15日

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氷はそう簡単に溶けぬ


眠りたかった

ただ、眠りたくて。


冷たい氷の中、誰とも話さず眠っていたかった。

そんな願いが叶うわけもなく、アラームの音で目が覚めて一日が始まるのだ。


くぁ、と欠伸をして、まだうまく目の覚め切らない頭を珈琲で覚ます。

「おはよう」なんて、誰に向けたわけでもない独り言を零すのは俺の抜けないいつもの癖だった。


死にたいと思う憂鬱な日々を笑顔で過ごすのは精神的にも身体的にも苦しくて、でも捨て子の俺に本音を話して苦しい助けてと縋れるやつなんか居やしない。それが苦しくて酒を浴びるように飲むようになってしまった。

「今更なんだ」と割り切って、笑顔でつまらない一生を耐えきるしかないのだ。

それが、裏切り者の俺にできる最善の人生なのだから!






仕事も終わり、エンジェルズシェアに入ったのはいつのことだったか。

静かになった酒場と働かない頭で考える。

酒。

俺の心の支え。

甘く、苦く、物が違えば味も違う。

作り手によって同じものなのにまったく違うのもまた素晴らしい。

喉が焼ける程高い度数の酒を飲むのは好きだ。彼を、アイツを、愛しい人を思い出せるから。

まぁ、そいつは今目の前にいるのだが。


「閉店時間だよ」


優しいテノールボイスはいつ聞いても心地の良いものだ。

こいつの優しさはもう俺に触れてくれやしないのだろう。酔ってうまく働かない脳みそが甘えるなと俺に囁く。

煩い脳みそにあたりまえだと返して、顔を上げた。


「おはよう」

「寝落ちてしまう程疲れることがあるとはね。騎士団はやはり効率が悪い。」

「はぁ、挨拶くらい返せないのか?マナーだぞ」

「チッ……おはよう。」

「ン」


昔を感じさせない冷たい声や言葉、表情に酷く傷ついてしまう。

壊したのは俺なのに。


「はぁ、寝る予定はなかったんだ。」

すまんなと伝え、モラをカウンターに置いて酒場の扉に手をかけたとき、ぐ、と右手を引っ張られた。

「きみ、右利きだったよね。」

こちらを睨みつける男に、笑いで返すしかなかった。


右手。今日の任務で酷いけがをしてしまった。

飛ばされた剣を拾おうと伸ばした手目掛けてされた攻撃に、みっともないが当たってしまったのだ。


「どうして、右手を抑える素振りをしてから左手で戸を開けようとした。そういえば酒も左手で飲んでいたね。」

「お前には関係ない。」


ディルックを突き離そうとして出た声はひどく冷たかった。


「何故「ッう˝」…すまない」

ディルックが俺の腕をつかむ力を強めたせいで、傷口が痛んで声が出てしまった。

こんなはずではなく、逃げようとするもつかまれているから無理だった。

そもそも片手剣使いが両手剣使いに勝てるわけがない。そう、バレたら終わりだ。

今日は旦那が立つ日だと分かっていたのに来てしまった俺のせいだった。来なければよかったのに来た。何故かって?彼が好きだから。


まぁ、あいつが俺なんかのことを心配することなんかないと思っていたから正直油断していたところもあるんだが。


「……なにか、あったのか。」


ディルックの優しい声に、思わずなにもかも言いたい衝動にかられてしまう。

そんなのダメだと頭に浮かんだ言葉を打ち消していつも通りに笑みを浮かべる


「なにもない。」


離してくれと手を振り払った。ディルックの驚いた顔と、さっきまで掴まれていた腕に残る温もりが酷く寂しかった。

振り返らずに扉を開けて外に出ると、身を切る冷たい風が俺のことを嗤っているように感じた。


今日は酒を飲んでから寝よう。

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コメント

2

ユーザー
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続きとかってありますか??!とってもみたいです!

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