19
『銅さん、お身体の方は大丈夫ですか?』
多くの方に心配された。
『はい、もう大丈夫です。』
僕は笑顔で答える。
そして、建物を出る。
『甘ちゃん、本当に大丈夫なの?』
琥珀さんが心配そうに言った。
『まだちょっと痛いけど、僕の責任だからね。』
僕は笑って言う。
琥珀さんは、怪我をした肩と反対側の腕に抱きつく。
『琥珀、心配だよ、』
『僕は、琥珀さんを守れてよかったと思ってるよ。怪我はまだ軽い方だろうし。』
おとといの帰る前、1人が大怪我をしていたことを思い出した。
もう少し酷かったら、命に関わっていただろう。
『本当に、無理はしないでね、』
『わかってる。でも、剣士として戦うのなら、いつどうなるかはわからない…』
無理をしなくても、命を落とすことだってあるだろう。
『あ、ちょっとこっちの家も見てきていいかな?』
そういえば、ここの家をほったらかしにしていた。
『うん、いいよ。』
僕は鷹也隊長から貰っていた家の鍵を使い、ドアを開けて中に入る。
慣れない場所だ。
でも家具など、ほとんどが揃っている。
食料や、小物類があれは、今日はもうここにいてもいいな。
食料も、すぐ近くにスーパーがあるのですぐに買える。
『今日はこっちに泊まるの?』
琥珀さんが訊いてきた。
『こっちに泊まるなら、スーパーで食料を買わないとだね。』
僕が答える。
と、
『あっちの家にも、今は食料ないの。だから今日はこっちに泊まろ?』
琥珀さんは、こっちに泊まりたいみたいだ。
『なら、スーパーに行こう。』
僕は琥珀さんと、スーパーに行く。
『今日の夜ご飯と明日の朝ご飯、あと飲み物とか買わないとね。』
僕と琥珀さんは色々見て、決める。
『琥珀も甘ちゃんのと同じのにする、』
『よし、これで全てかな。』
必要なものはこれでいいかな。
レジに持っていき、購入。
そして、2つ目の家に戻る。
さて、夕食を食べよう。
そうして食べ終え、風呂に入り…
『くぅぅぅぅぅっっっっっっ‼︎‼︎‼︎』
撃たれたところにお湯がかかり、めちゃくちゃ痛い。
痛みがしばらく続いた。
結局、片腕を曲げれず、琥珀さんが髪と背中を洗ってくれた。
『他のところも洗うよ?』
『ちょっ‼︎そっちは大丈夫だから‼︎』
琥珀さんが胸を触ってくる。
『ギャアァァァァァァァァァァァァ‼︎‼︎‼︎』
腕を速く動かしたせいで、
『あぁぁァァァァァァっ‼︎‼︎』
叫ぶことしか出来ず、今日も股間のあたり以外は全て琥珀さんの手により洗われた…
琥珀さんは満足そうだ。
次は…僕が琥珀さんを洗う番か…
『しばらくは大丈夫だよ?』
怪我のおかげか、僕が洗うことはないまま終わった。
た、たすかった…
心から安堵する。
風呂を出て、琥珀さんが髪を乾かしてくれた。
そして、僕はドライヤーを持つ係として、琥珀さんの髪を乾かす。
さて、もう寝ようか。
寝室は…
そういえば、この家には2階があるんだった。
2階に行ってみよう。
琥珀さんと、階段を登る。
2階には寝室とお手洗い場があった。
そして、寝室の奥に…
ベランダがある。
僕はベランダに続く窓を開ける。
そして、ベランダに行く。
琥珀さんもついてきた。
冷たい風が吹いている。
3月になったとはいえ、夜は冷えるな。
でも、暗い中で光る他の家の窓や街灯、車のライトなどが綺麗だ。
空を見上げる。
空には丸っこい月が光っていて、その周りを星が輝いていている。
『綺麗だね、』
琥珀さんが言う。
『あぁ、綺麗だ』
僕は琥珀さんを見て言う。
琥珀さんの目も星のようにキラキラと輝いている。
琥珀さんは嬉しそうだった。
寒くなってきたし、戻ろう。
寝室に戻り、ベッドで横になる。
琥珀さんもすぐ隣で横になる。
眠い。
目を閉じる。
『おやすみ、あまちゃん』
『おや…す……み…………』
ー俺の視界に、悲しそうな表情をした琥珀がいた。
『そんな顔すんなよ。どうせ、悲しそうにしても何も変わらないんだから。』
『でも、でも…』
やはり、悲しそうだ。
『俺には変えられない。アイツらの言うことを聞くことしか出来ないんだよ。』
そうだ。
弱い人間に、子供に、
未来を決める権利なんてないんだ。
全て、強い立場にいる大人が勝手に決めるんだ。
『でも、ずっと一緒にいてくれるって言ってくれたのに…』
『すぐに追い出されでもおかしくなかった。でも、今までずっと一緒にいられた。それだけでも良かった方なんだよ。』
俺はここを追い出されることになった。
あの大人たちが勝手に決めて、
“お前はここにいらないから、お前は、お前にお似合いの島へ行ってもらうことになった。明日にはやっとおさらばだ!クソ人狼。”
本当に腹が立つ。
『もっと、一緒にいたいよ…』
琥珀が涙を流す。
『最後くらい笑えよ。泣いても余計に悲しくなるだけだから。』
笑えば幸せになれるのか?
そんなわけない。
でも、
琥珀の悲しそうな顔を見たくない。
『最後なんて言わないでよ…私も連れてって、』
やめてよ、
こっちまで泣きそうになるじゃん。
でも、
『それは出来ないと思うよ…』
“あぁ、アイツはここに残すよ。お前と違って雑魚そうだし、ストレス解消用に1つは残すのも悪くないしね。”
クソどもが、
あんな奴らの言うことなんか聞きたくないし、従いたくない。
でも、
俺らに選択権はない。
『どうして…』
『俺だって、一緒にいたいよ。でも無理なんだよ。全てアイツらのせいで…』
本当は俺のせいだから。
『そっか…』
俺が強ければ、
俺らが人狼でなければ、
あの時、余計なことをしなければ、
こんなことにはならなかっただろう。
『きっと、これからも辛いことは続くと思う。もっと酷くなるかもしれない。だけど…』
あの時、俺は怒りが頂点に達していた。
だからアイツらをぶん殴って、怪我を負わせた。
そのせいで、大人たちは僕を追い出そうとした。
琥珀がここに残されるのなら、俺がしたことも全て、
琥珀に向けられてしまう。
『言っただけではどうにもならないけど、琥珀には絶対に幸せになって欲しい。だから…』
だからこそ、離れたくないけど離れるべきなのかもしれない。
俺のせいで、
関係ない人が傷つく。
俺もアイツらも、
許せない。
俺は行き場のない怒りで強く唇を噛み、強く拳を握る。
痛い、
血の味がする。
今にも溢れてしまいそうな涙を必死に堪える。
と、
ふんわりと、甘い香りがする。
この香りをよく知っている。
!
俺の唇に、暖かくて柔らかい、
琥珀の唇が重ねられていた。
やめてよ。
今だけは。
お願いだから。
やめ…
頬を、何かが流れていく。
今までの記憶が流れていくように。
今は思い出したくない。
でも、思い出してしまう。
唇が離れる。
琥珀も離れる。
そのまま離れてしまう気がした。
『初めては甘ちゃんにあげるね、私も初めては甘ちゃんがよかったし…』
『・・・』
俺は、言わないと。
謝らないと。
『だから…』
『その続きは言わないで、』
琥珀さんが遮った。
『そんなこと、ないんだから…ね?』
琥珀が俺の手を握る。
『甘ちゃんは自分をよく犠牲にしてしまうけど、自分を傷つけたらダメだよ。1人の時は自分しか守ってくれないんだから。』
琥珀さんが、涙を流しながらも笑顔で言う。
『絶対、また会えるから。絶対、会いにいくから。』
あんなに悲しそうな顔をしてたのに、
『甘ちゃんも、会いに来てね?』
なんで、笑顔なんだよ。
『会った時は、また甘えさせてね?』
このまま別れていいと思ってるのか?
琥珀が、俺の頭を優しく撫でる。
『初めて会った時からずっと、ずーっと!助けてくれて、隣にいてくれて、わがままも聞いてくれて、たくさんの幸せをくれて、』
今、それを言わないでくれよ!
『本当に!』
永遠に別れるみたいじゃん。
『ありがとう‼︎』
俺は覚悟なんてできてないのに、
『なんで、』
俺は言う
俺はできなかったのに、
『どうして笑顔でそんなことを言うんだよ!一緒に!隣にいたいって!言ってたのに!1人の時はとか!絶対会えるとか!会いに行くとか!会いに来てとか、ありがとうとか…言わないでよ……』
俺は、悲しみを、今まで我慢してきた全てを今、涙として流していた。
もう、止まれない。
止められない。
『琥珀だって!悲しいよ!でも!甘ちゃんが悲しそうにしても変わらないって!最後くらい笑えって!泣いても余計に悲しくなるだけだって!言ったから!無理だって、言ったから、琥珀は笑って…覚悟を決めて…いいことを、考えるように…して…』
琥珀は大粒の涙を流しながら、その場に倒れるようにしゃがみ、大声で泣いていた。
まただ、
また俺のせいで、
琥珀を苦しめてしまった…
『ごめん、俺が何もかも無責任だった。』
何をしてんだよ!俺が言ったことなのに!
俺は、琥珀の側に行き、しゃがむ。
と、
琥珀が俺を抱きしめる。
驚き、倒れる。
『いって、』
頭を打った。
『ふふふっ、』
気づくと、
琥珀は笑っていた。
さっきまで、あんなに泣いていたのに、
琥珀は覚悟を決めたみたいだ。
初めて知った。
俺は、琥珀は弱い子だと思ってた。
でも、違った。
琥珀さんは強いんだな。
俺も、
強くならなきゃ。
覚悟を決めなきゃ。
俺も、無理矢理に笑顔を作る。
『えへへ、かわいい♡』
と、琥珀が俺の頭を優しく撫でる。
『ば、バカにするなよ!』
恥ずかしくなる。
でも、
これでいい。
これがいい。
『琥珀の方がかわいいし!』
笑いながらも必死になって言う。
『好き、』
『え?』
よく聞こえなかった。
あ、
そうだ。
これを渡さないと。
俺が頑張って、
琥珀にあげようとしていたもの。
俺はポケットから、‘アレ’を取り出し、
琥珀さんのスカートのポケットに入れた。
『甘ちゃん、エッチ!』
『うるさい!今は絶対に見るなよ!』
『見るなって言われると気になる〜』
俺も琥珀も笑い会った。
人は悲しい時こそ笑った方がいいのかもしれない。
暗い人ほど悪く考えてしまう。
だから、いつまでも暗いままなんだ。
でも案外、
悪いことばかりでもないから。
そして、
悲しいのは、幸せを知ってしまったから。
幸せから離れることが辛いから。
俺は幸せだったんだ。
琥珀といることが、
楽しかったんだ。ー
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