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先日”日本右小説”で投稿した、『君の隣で、雨は優しくなる』の英日バージョンが完成しましたので投稿します。
ちなみに、ほんの少しだけアメ日要素ありです。ご注意を。
終業時間間近。帰る前に、愛しの日本さんの顔を一目見ようと、彼のいる部屋へと向かう
今日はどんな話をしようか。あわよくば、帰宅後の時間をもらって、夕食前のティータイムと洒落込もうか
そんな期待を胸に歩いていると、僅かに空いたドアの隙間から、日本さんの姿が見える
どうやら、誰かと話しているようだ
この角度では相手が見えない。なんとかして覗き込む位置を調整する
そして、見えた景色には……息子こと、アメリカがいた
「チッ…先を越されましたか…」
悪態をつきつつ、二人の会話を観察する
自分の入る隙を探している、その時だ
日本が、笑った
細まる瞳、口角を上げる桜色の唇。そして、少しの熱を孕んだ、甘い視線
蕾が花開くような、美しく愛おしい笑顔
私は、その笑顔を知らない
だってそれは、愛しい相手にしか見せない、”特別な笑顔”なのだから
ドアを静かに閉じた。これ以上、見ていられなくて
なぜ、私じゃないのだろう。なんで…
嫉妬が胸に渦巻く。それに苛まれる自分が酷く惨めで、醜くて
気づけば、建物の外に向かって走り出していた
冷たい雨が静かに降りしきる
灰色の空から落ちる雫は、まるで涙のように頬を濡らし、肌を伝い、静かに地面へと吸い込まれていく
あたりには誰の気配もない。ただ雨音だけが響く世界に独り、取り残されたよう
濡れた地面に映る淡い光がぼやけ、揺れるたびに、胸の奥に沈んだ想いが波紋のように広がっていく
風もなく、木々は静かに濡れ、遠くの景色は霞んで見えない
ただ、雨が降り続ける
ひとつ、またひとつと、冷たい滴が肩を打ち、指先を滑り落ちるたび、心の奥まで染み込んでゆく。
どこにも行くあてのないこの心も、やがて雨に溶け、静かに消えてしまうのだろうか
「…何やってるんですか。風邪ひいちゃいますよ?」
静寂を破る柔らかな声。音の先には、日本さん
大きい方の傘を私に差しだしながら、真剣な目で私を見つめる
本気で心配しているのが伝わってくる表情
独りでは持て余す大きな傘はまるで、私を庇うようだった
「なぜ貴方がここに…」
「窓からあなたの姿が見えたので」
何か嫌なことでもあったんですか?
覗き込む黒に映るのは、自分の酷い顔
汚れたモノクル、表情の崩れ、ドブ水のように濁った緑の瞳
こんな格好悪いところ見せたくなかった
最後まで”格好いいイギリスさん”でいたかったのに…
でも、今の自分には作り笑いを浮かべることしか出来なかった
「…ご心配いただき感謝します。でも大丈夫です。馬鹿は風邪をひかないと言うでしょう」
「それに、英国紳士は傘をささないのです」
「ですが…あなたの気遣いを無下にすることはしません。ありがたくお借りします。後日お返ししますね」
では、と背を向けた。挨拶もせず帰路に着く
びしょ濡れの自分を守る傘。あなたの優しさの現れ
そんな傘でも、私の心に降る止まない雨からは守ることができない
この雨は永遠に晴れないのだから
…辛くなるだけの優しさなら、受け取らなければよかった
頬を伝う熱い雨粒が水たまりに落ちて溶けた
コメント
4件
相手に対する知識と理解があった方が苦しいこともある。 好きだからこそ知りたくて、近付きたくて、不必要な痛みを背負うこともある。 苦しいくらい雨を優しく感じるのが日本さんの隣なの、マジで好きです。 タイトル回収エグいて。 イギリスさんらしい心の雨、最高でした…!
好きな人から受け取る 優しさって本当に 涙が出るほど嬉しいんだけど それが受け取り方によって 全然違うんだよね 本当に 。 突き放したい訳ではないけど 気がないなら 近寄らないで欲しい。その 優しさが 泣きたくなるほど 辛いものだよ