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「 好きだよ 」
って言われ、相方から恋人に変わってからどのくらい経っただろう。
と、ふと考えてみたらあと数日で1年記念になるらしい。
正直実感が湧かない。
叶という誰からも慕われてきた人物と一線を越えると日常は目まぐるしく変化した。
毎日毎日好きだよって伝えてきては、ご飯作っておいたよ、お風呂沸かしておくね、洗濯物畳んでここに置いておくよ、葛葉の好きなお菓子買ってきたよ、明日は収録があるけど僕が起こすからゆっくり寝てていいよ。
なんて召使いなの?ってぐらい俺に尽くしてくれて正直幸せな気持ちでいっぱいだが、叶はこれでいいのかな なんて思ってしまう。
俺は身の回りの世話とか苦手だし遅刻ばかりする。
だけど全部叶のお陰で最近は遅刻することも減ったしマネージャーにどうしたんですか?なんて疑問を持ち掛けられるぐらいだ。
嬉しいなんて気持ちがあるがそれ以上に叶がこんなに俺に尽くしてくれて、叶の大切な人生における時間を俺が奪ってしまってるんじゃないかっていう不安感が勝つ。
だから1年記念の日はいつもの感謝の気持ちを込めて何かプレゼントしたいなって思い立ったのだ。
今まで飯を食いに行った時は全て叶が出してくれた。
俺が叶の前で財布を出した回数なんて指の数に収まる回数だろう。
思い立ったら事は早い。
今日は特に収録もないから少し大きめのショッピングモールにでも向かおう。
適当に服を着替え、マスクをし深めに帽子を被る。
一応サプライズ的なものにしたいから叶にバレてしまったら元もこうも無い。
ガチャリと音を立ててドアを開ける。
今日は生憎の雨模様。風は少し強めで正直嫌気がさす。でも叶の為なら、って思うと自然と足は動いていた。
タクシーを呼びゆらゆらと揺れながら移動する。
雨に濡れる街並みも案外綺麗なもので見蕩れていた。
運転手が着きましたよ、という声でハッとなり代金を支払い礼を言いタクシーから出る。
久しぶりに来たショッピングモールはやはり人でごった返していた。
休みの日は極力人に会いたくないがこれもすべて叶の為。
いつも俺に向けられる優しい笑顔を嬉しそうに目を細めるあの愛らしい顔を全部俺だけに向けてもらいたい。
適当に歩き、良さそうなアクセサリーショップに足を運んだ。
店内は落ち着いており、これならゆっくり見れるかもと思いショーケースを覗いた。
どれもキラキラと輝いておりどれにしようかと悩む。
以前、叶からお揃いのピアスを貰ったのでピアスは却下。
バングルなどもありかなと思ったが何か違うと思い辞めた。
ショーケースをまじまじと見ているとある2つの指輪に目を奪われた。
それは、キラキラと輝くブルーダイヤモンドが埋め込まれた指輪。
やはり叶と言えば青という印象が強い為、それに強い魅力を感じた。
一方でもうひとつの方は、ルビーが印象的な正しくブルーダイヤモンドと相性が良さげな指輪。
常に優柔不断な俺だがビビッときた物には目がない。
俺と叶だけの指輪。
そう考えただけだ口角が下がらない気がした。
流石にニヤついてるのは気持ち悪いと思い、店員さんを呼び購入の流れへと移り変った。
会計前に店員さんが指輪の裏に文字を彫ることが出来るという何とも素敵な仕組みだと思い掘ってもらうことにした。
俺の指輪じゃなく、渡す叶の方の指輪にだけ掘ることにした。
なんて彫ろうかなと考えた時、真っ先に思いついたのは
「 Dear you 」
手紙とかでよく使われる文言。
在り来りすぎるかもしれないがこれぐらいで良いだろうと思う。
だってそれ以上に叶への愛は強いから。
丁寧に包装してもらい俺は浮き足立ってその店を後にした。
叶喜んでくれるかな。
渡した時の情景がふわんと浮き出てくる。
早く叶に会いたい。
早く叶に渡したい。
叶の喜ぶ顔がみたい。
そんな事を考えながら帰路についた。
次の日は収録だった為、何とか起き事務所に向かおうとリビングを通り抜けた。
その時目に映るのはテーブルに置かれた小さな紙袋。
それは紛れも無く叶に渡す為のプレゼント。
無意識に口角が上がる予感がして急いでドアを開けた。
事務所に着くと既に叶は着いていたようでソファに浅く座りスマホの画面を覗き込んでいた。
「叶、はよ」
俺がそう声を掛けるとふんわりとした笑みをこちらに向けてくれて、
「葛葉 おはよう」
と優しく声を掛けてくれる。
そんな声が堪らなくすきで胸がいっぱいになる。
俺はそそくさと荷物を置き叶の隣に腰を下ろした。
特にすることも無いのでぼーっとしていると不意に叶がスマホから顔を上げこちらに視線を送ってきた。
「んーぁに」
「葛葉さんさ、この後時間ある?」
いつもと同じ声色のはずなのに、背筋が凍るような感じがした。
別にこの後は暇だった為、普通にあるよって答えたいのに何故か少しだけ声が震えてしまった。
そんな状況の俺を気にしないかのように叶は、
「じゃあ収録終わったら待っててね」
と言い他のスタッフに呼び出され部屋を出ていってしまった。
俺何かしたか?と自問自答を繰り返すが全くもってなんにも思いつかない。
正直不安が勝ったが久しぶりに叶と2人きりで夜まで居られるんだと思い少しだけど楽しみにしながら収録へと向かった。
「葛葉行くよ〜」
いつの間にか来た叶に声をかけられ2人して事務所を後にする。
俺達の行きつけの焼肉屋でいつも通り叶が肉を焼いてくれて、世間話を軽くして店を後にする。
叶が家に来て欲しいと言い2人で叶の家へと向かう。
ふたりして無言のままエレベーターに乗り込む。
叶の家に着き入った途端ダンっと鈍い音を立てながら壁に縫い付けられる。
「葛葉最近いい事あった?」
「へっ!?え、なんで、?」
突然の問い掛けにびっくりしてしまい変な声が出た。
気を悪くしたのだろう叶が少し険悪そうにじっと見つめてきた。
「ねぇ何があったの?なんでそんなに嬉しそうなの?」
「え、やちょかな、」
「もしかして違う好きな人でもできたの?」
「そうだよねだって最近の葛葉可笑しいもん。スマホ見ながらニコニコしてたり早く帰宅したり、」
「昨日もなんで1人でアクセサリーショップから出てきたの?」
「え、なんで知って、え?」
叶の怒涛の質問責めに困惑しつつ、なんで俺が昨日アクセサリーショップに寄ったことを知っているのかそれが疑問だった。
「なんで困惑してるの?やっぱり嘘ついてるんでしょ!?」
「えやちょ、かなえ、!」
「もういい、本当は渡すつもりも付けるつもりも無かったけど、これ付けて?」
叶の手に置かれたそれを見つめる。
最初は頭が困惑して何が何だか分からなかったがやっと焦点が合いそれが何なのか理解出来た。
「葛葉に似合うと思って買ってきたんだよ?もちろん付けてくれるよね?」
「ねえ何か言ってよ!つけてくれるよね!?」
いつもとは違う優しい笑みじゃない冷たく向きでる殺意とも捉えられる笑みをこちらに向けていた。
おずおずとそれを手に取り自分の首へと持っていこうとしたが叶の手がそれを阻止した。
「んーやっぱり僕が付けたい、貸ーして」
俺の手から剥ぎ取られる黒と赤を象徴としたチョーカー。
まるで首輪ともなるようなそんな気持ちに身体が跳ねる。
優しく包み込むような叶の白くまろい手。
いっそその手で俺の首を絞めたらどれだけ俺は幸せに死ぬことが出来るのだろうと考えてしまう。
「やっぱり似合ってるよくず、さすが。」
俺の視点からは付けられたチョーカーはあまり見えないが叶がいつも通りの優しい笑顔に戻っており目を細める愛おしそうに俺の事をみていた。
よく分からないが嬉しい気持ちで満たされた。
「これで葛葉は僕のもの。どこにも行かせないからね?」
ふふとやや挑発めな笑みをこぼす叶。
それがどれほど愛おしいのか知らないだろう。
あぁ、折角買った指輪無駄になりそ。
まあいい。叶とずっと一緒に居られるならそれでいい。
俺の人生は叶に全て狂わされてしまった。
「ずっと一緒だよ、葛葉?♡」
それでも俺はこの男を憎めない。
だって俺だって叶の事を愛しているから。
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オチが分からなくて無理やり終わらせてしまった⤵️
続編も書きたい気持ち。