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第8話:「届かない気持ち」
私と斗真は最近、以前よりも言い合いが減ってきている気がする。しかし、その分、二人の間には微妙な空気が漂っていた。何かを言いかけては言えずに飲み込む瞬間や、ふとした沈黙が増え、互いにその理由が分からないまま日々が過ぎていった。
そんな中、学校で文化祭の準備が始まった。クラス全体で劇をすることになり、えりは小道具作り、斗真は音響の担当を任されることになった。二人は準備の関係で何度か顔を合わせることになったが、どこか距離感が生まれていた。私、こんなの望んでたかな…?
ある日の放課後、えりは一人で小道具の作業をしていた。すると、斗真が音響機材を持って部屋に入ってきた。
「まだ残ってんのか?」斗真はいつも通りの無愛想な口調で言う。
「そういうあんたこそ、何してんのよ?」えりも返すが、どこか声が弱々しい。
「音響チェックだよ。ほら、仕事だし。」斗真は視線をそらしながら答えた。その態度に、えりは少しだけ苛立ちを覚えた。
「別に手伝わなくていいけど、何か用ならどうぞ?」えりは突き放すように言い、作業に戻った。
「…いや、別に。ただ…お前、大丈夫か?」斗真が急に気遣うような口調で話しかけてきた。えりは手を止め、驚いて彼を見た。
「何それ、急に。」えりの声には戸惑いが含まれていた。
「最近、元気ないように見えたからさ。」斗真は照れ隠しのように視線をそらしながら言う。
えりは一瞬言葉を失った。斗真のそんな一面を見たのは初めてだった。けれど、すぐに笑ってごまかす。
「はぁ?別に普通てすけど。心配なんて似合わないことしないで。」
「そうかよ。」斗真は短く答えたが、そのままえりの隣に座り込んだ。そして、手伝いもせずに黙ってえりの作業を見つめるだけだった。
その後、文化祭が近づくにつれ、劇の準備も忙しくなった。そんな中、クラスメイトの一人である莉々華が、斗真に積極的に話しかける姿が目立つようになった。
「斗真くん、音響のことでちょっと相談があるんだけど!」莉々華の明るい声が教室に響く。えりはその様子を横目で見ながら、なぜか胸がざわつくのを感じていた。おぇぇ。莉々華きっも…
莉々華と斗真が楽しそうに話している様子に、えりは集中力を欠き、小道具を作る手が止まった。自分がなぜそんな気持ちになるのか分からず、無理やり心を落ち着けようとした。
しかし、その後も莉々華が何かと斗真に話しかける場面を目にするたび、えりは言い知れないモヤモヤした感情に苛まれていく。
ある日、放課後にえりが一人で帰ろうとしていたところ、莉々華の声が聞こえた。
「斗真くん、週末、時間あるかな?ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど。」
「ああ、いいけど。」斗真の答えがすぐに返ってきた。えりはその会話を耳にした瞬間、なぜか胸が痛くなった。痛い痛い痛すぎる!!
その夜、私は自分の部屋で一人、ベッドに横になりながら考え込んでいた。
「私、何でこんな気持ちになってるんだろう…。」
斗真と莉々華が仲良くしている光景が何度も頭に浮かび、そのたびに心がざわついた。まるで自分が置いていかれるような感覚。今までそんな風に思ったことなんてなかったはずなのに。
翌日、学校で斗真と顔を合わせたとき、えりはいつも通りの態度を取ろうとした。
「おはよ、斗真。」軽く挨拶する。…バレないように、バレないように…。
「おう。」斗真も自然に返してきたが、えりは何か言葉を続けることができなかった。結局、すれ違うようにその場を離れた。
その後、えりは文化祭の準備のために忙しく動き回ったが、心の中ではずっと斗真と莉々華のことが引っかかっていた。
「なんで、こんなに気になるんだろう…。私、バカみたい。」えりは一人つぶやき、頬を軽く叩いて気持ちを切り替えようとした。