それは、一夜限りの夢__。
今日も仮面をつけた紳士、姫たちが名前を明かさず踊り戯れている。
「僕と踊りませんか?」
それは真摯な願い。
「踊ろ~よ、姫さん、」
それは行為の前兆。
「今日だけ、今だけでいいから。」
それは今日を忘れるための一時の慰め。
そして、
「…君は誰なの?」
ご法度
そう言えるような行動を取るもの。
目的は違えども、仮面をつけたら皆同じ。
名前や身分にかかわらず参加することのできる。
そんな優雅な夜の夢を、少し覗いていきませんか?
※こちら、iris様の桃白の作品になっております。
※少し性的な表現がございます。
※エセ関西弁で御座います。あはは。
3様視点
コンコン
「私、執事です。入ってもよろしいでしょうか、初兎様。」
「ないちゃん、?どーぞ入ってぇ!」
畏まった声とともに、ドアから大好きな彼が現れた。
「朝食のお時間です。急いでご準備を。」
「もーないちゃん固いなぁ。僕とないちゃんしかおらんのやから、もっとゆるっとしてくれてもええんに。」
「…、」
困ったような笑みを浮かべる彼を見ていると、幸せになってくるから不思議だ。
本当にないちゃんをうちの執事に雇ってくれてよかったと思う。
ゴソゴソ
準備をしていると不意にないちゃんが近づいてきて、
「しょーちゃんの部屋って一応監視カメラあるからさ、迂闊にしゃべれなくって。」
耳元で言った。
「え゛」
驚いて声をあげると彼は口に手を当てた。
「しーっ」
んにゃぁかっこいい天才。
「ご準備は整いましたでしょうか、初兎様。」
「うん!終わった!」
「ではこちらへ。」
ウインクをしながら手招きする彼を眺めながら、ランチルームへと足を進めたのだった。
「ちなみにさぁ、」
「ないちゃんは僕と結婚してくれたりする?」
「…世間が、許してくれるのならば、」
「お約束いたしましょう。」
「お母様、」
「あの__」
「初兎、貴方頭大丈夫?」
「熱があるならお母さんに言ってごらん?」
違うよお母さん、
本気だよ。
「本気?」
「ちょっとないこ、お医者様を呼んでちょうだい。」
「了解いたしました。失礼します。」
ないちゃんが出て行って。
「ありえない。」
「あんな、ちょっと成り上がった家来みたいな低民と血をつなぐだなんて。」
4様視点
夕方_
「ねえないちゃん、」
「何でございましょうか、初兎様。」
「なんでさぁ、」
「執事と恋愛するのって許されんのやろうね。」
独り言のようにつぶやく君を見つめる。
目を伏せる様はとても美しくて。
「…なんででしょうね、」
両思いだということは、二人とも承知だった。
でも、
世間が許してくれない。
しょーちゃんのお母さま__仕え主が許してくれない。
「ごめん、」
「ごめんね、しょーちゃん。」
顔をあげこちらを君は見つめる。
「生まれてきちゃってごめん。」
「こんな俺が、しょーちゃんの近くに居ちゃってごめん。」
ごめん、
大好きな君に迷惑をかけたかったわけじゃなくて。
「そこまでにしろ。」
いつになくキツイ口調の君。
俺が悪いのは分かってるよ。
「…そんな謝らんとってや、」
「うん。」
ごめん、しょーちゃん。
…ごめん。
「え、こんなのあるの…?」
「物語の中の話だけかと思ってた…、」
「しょーちゃんに相談してみよ。」
「ええやん!ないちゃん!」
「でもこんなんホンマにあるんやなあ、」
「今度一緒にいってみよか!」
「ないちゃん、どう?似合っとるかなあ…?」
ひらひらなドレスを身に纏う君。
一回くるりと回り、見せびらかすように笑いかける。
「めっちゃ似合ってる!!ヤバイ可愛い!絶対ナンパされる。」
「え」
そう、冗談のような会話をする。
でも似合っているのは事実だ。
「仮面、忘れないでよ?」
「あ、忘れとった。」
「まったく…、」
「危なっかしいんだから。しょーちゃん。」
「へへw」
少し呆れながらも笑う君が愛おしい。
「…じゃあないちゃん、行こっか。」
「…仮面舞踏会に。」
「ないちゃん、ヤバくね!?めっちゃ広いやん!」
「それな?」
舞踏会の会場に着くや否や、その雰囲気と広さに圧倒される。
「うわあ…音楽の音デカ…。」
「それな?」
「皆ダンス上手すぎん?よくあんなひらひらふりふりな服着てあんな可憐に踊れるわあ…。」
「それな?」
しょーちゃんが踊っている女の人たちを「可憐」と思っていることに少し引っ掛かりながらも、圧倒的な雰囲気に飲まれていく。
「てか、ないちゃんさっきからそれなしか言ってないやん。」
「…それな?」
「www」
それはまるで媚薬のように__
雰囲気に飲まれてしまって、
君のことしか考えられなくなる魔法。
一夜限りの夢__。
見つめあって、
手を取り合って、
仮面越しの熱に侵される。
華麗にステップを踏むその姿、
スカートの裾を摘み軽く俯くその姿、
全てが愛おしい。
暑さと酔いと君の仕草で頬を赤らめると、
君はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
__本当に来てよかった。
そう、心から思えた。
「しょーちゃん大丈夫?疲れてない?」
舞踏会の会場を早々に抜け出す。
どうやら最後まで居た客には軽い検査があると、
そういう噂を耳にしたからだ。
「大丈夫よ、ないちゃん。」
「楽しかったね、」
「……また、来ようね。」
「うん。」
軽い。
それは軽い口約束だけど、
君との間には確かなる重さがあった。
「…また来ようね、しょーちゃん。」
それからはたまに二人で来るようになった。
いくら大変な仕事を押し付けられても、
いくら仕え主に貶されても、
生きがい。
これが、生きがいになった。
生きがいだった。
3様視点
「初兎!!少しこちらへ来なさい!!!」
お母さまの怒ったような声が聞こえて、
震えながらもお母さまの方へ足を進めた。
「座りなさい。」
お母さまの目の前に設けられた椅子。
それは話が長くなることを意味していた。
「…最近よく夜に出かけているわよね、」
冷たい汗が頬を流れる。
まさか、バレていただなんて。
全く気が付かなかった。
「それでうちの家来に後を付けさせてみたら貴方、」
「仮面舞踏会に行っているらしいじゃないの。」
そこまで、バレていたのか。
やはり、
お母さまの呪縛からは逃れられない。
「それだけだったらまだマシだったわよ。だけど貴方、」
それ以上は言わないで。お母さま。
「うちの家来のないこが相手らしいじゃないの!!」
急な大声に驚きながら、必死に言い訳を探す。
「……。」
なかなか言い訳が思いつかずに、思わず目が泳いでしまう。
「……やっぱり本当なのね…、」
がっかりしたような、失望したような、
そんな素振りを見せる。
そんなお母さまが、
僕は嫌いだ。
「いいわよ、わかったわよ、」
少し折れたような口調でものを言う。
…期待してもよいのだろうか。
そんなに愛し合っているなら、結婚を許すとか、
そう言ってくれないだろうか。
淡い期待は持つだけ無駄だった。
そう、改めて実感した。
「じゃあやっぱり、ないこを解雇しようかしら。」
「…は?」
「貴方が選んだ家来だからと今まで大目にみてやってたけど、」
「そこまでやるなら、もういいわ。」
ふざけるな。
「…ふざけんなよ。」
いつの間にか声が出ていた。
「親に向かってなんていう口をたたくの…!」
「……どれもこれもみんなないこのせいだわ。早急に解雇しないと…。」
まだ状況が呑み込めない。
「ねえ、ないこを呼んで頂戴…!!」
お母さまが他の家来へと声をかける。
逆らえないもんね。
そう気の毒そうな目で僕を見つめながら呼びに走っていく。
酷い話だよね。
あはは。
「どうかいたしましたか?」
ないちゃんがお母さまに声をかける。
こんなことになっているとはつゆ知らずに。
「解雇よ。荷物をまとめて帰りなさい。」
「…ぇ?」
瞬きをし、僕の方を一瞬見る。
「すみません、僕、なにか問題を起こしましたでしょうか…?」
「帰れっつってんの。命令。」
「……わかりました。では最後に初兎様と数分お話しさせていただけますか…?」
俯いて言う。
「いいわよ、数分ね。ただ、」
「二分以内に終わらせること__。」
『ねえねえ初兎ちゃん。』
『私ね、ハッピーエンドに終わりたかったの。』
『でも無理かなあ、はは。』
『ごめんね?』
4様視点
「ごめんね、しょーちゃん。」
呼び出してこちらをうるんだ目で見つめるしょーちゃん。
手には刃物を、
顔には笑みを。
振りかざした。
「…ぁ…ピク」
体中を痙攣させながら、声を小さく漏らす。
その様子を見届ける。
「ごめんね?しょーちゃん、」
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