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「センベツ、ノ、ジカン、デス。 ヒロバ、ニ、アツマッテ、クダサイ」
シェルターにその音は響いていた。
また選別か、、、
人が選ばれ、死ぬ事は別に構わない。だが、わざわざ広場まで移動する事は面倒だ。僕はそう思っていた。
「バンゴウ3369、4389、5521」
、、、、、
、、、、
僕はおかしくなった。
番号が呼ばれ、その人が死ぬ。
それはいつもの光景だ。異常でも日常ではある。
だから、そこまで驚く事では無い。無いはずなんだ。無いはずなのに、思考がまとまらない。
心臓が早い。痛い。
あの機械は最後に何と音を出した、、、
番号1255
確かにそう聞こえたんだ。
でも、そんな訳が無い。
だって、
だって、、
だって、、、
それは僕の父親だ。
そうだ。きっと僕の聞き間違えだ。
そう信じて俺は父さんを見た。
「父さん。何、してるの、、、?」
父さんは進んでいた。死ぬために歩いていた。
「悪いな、俺は行ってくる」
父さんはそう言った。
「駄目、、、待って!」
「お前は俺の立派な息子だ。だから、きっと大丈夫」
「大丈夫じゃない!」
「、、、そうだな。悪い」
「違う、そう言ってほしいんじゃない!」
自分でも面倒な事を言っているのはわかる。
別れの言葉には相応しく無い事もわかる。
それでも、まだ理解しきれていないのだ。父さんが、これから死ぬだなんて。
「最期にさ、お前に言わなきゃいけない事がある」
「え? 最期って、、、」
「ああ、俺は死ぬ。だから、その前に言葉を残したいんだ……」
ハッキリと死ぬんだと言われ、やっと父の死の実感が少し湧いた。それにより、余計に僕の思考停止は更に酷いものとなった。
そんな僕に父さんは言った。
「”自由になれ”」
僕にその言葉を理解するほどの余裕は無かった。
だが、僕はきっとこの声を音を忘れない。
「_____」
母さんが父さんに何かを言った。
今の僕には音が聞こえない。聞きたく無かった。これ以上は自分が壊れる気がしたのだ。
父さんは母さんの耳元で何かを呟いて、再び進み出した。
、、、、
、、、
父は前に出た。
何も聞こえなかった。
何も見たく無かった。
だが、瞬きもできないほど僕はおかしくなっていた。
父さんの首に鉄の塊がぶつかる。
頭はどこかへ飛んだ。
残った身体は立ったまま動かない。
鉄の味がした。
僕は右手で頬に触れた。
その手は赤色に染まっていた。
僕は手についた赤を舐めた。
父さんの味がした。
そうかここまで飛んできたのか、、、
僕は奇妙なほど落ち着いていた。
自分でも怖いくらいだ。
でも、心に穴ができたのを感じた。
大きな大きな穴だ。
その穴を埋めようと、僕は赤い手を前に伸ばして、、、
握った。
突き上がった俺の右手がよく見える。
あれ、ここは?
そこは部屋だった。どこかで見たことはある。だが、見慣れた場所では無い。
立ち上がろうとすると、体に重さがかかっている事に気付いた。
俺は布団を被っていた。
そうか、今まで寝ていたのか。
その事がわかると段々と思い出してきた。
あの夢は俺がまだ五つの時の記憶だ。俺が【皇帝様】を憎む最大の理由。父さんの死。
新境地での生活があまりにも楽しかったから、忘れるなと僕が言ってきたのだろう。
だから、あんな夢を見た。
「あっ、メグル!」
アイが目を見開いて見つめてくる。
「父さん、母さん! メグルが起きた!!」
そんなに俺が目覚めた事が驚きなのだろうか。そう思っているとアイが信じられない事を口にした。
「おはようメグル。一週間ぶりだね」
***
どうやら、俺は一週間も寝ていたらしい。
そんな事が通常あり得るのだろうか。否、あり得ないだろう。
考えられる事としてはまず、瞬間移動の副作用だ。
カプセルに入るなどはせずに、直で強力なエネルギーを受けた。身体に負担があってもおかしく無い。
もう一つは、俺が食べた料理に睡眠薬の類いが入っていた可能性だ。
そうで無くて欲しいが、俺が眠ったタイミングなどを考えると、そうとしか思えなくなる。
「メグル、どうしたの? 食べないの?」
「いや、少し考え事をしていただけだから大丈夫。食べるよ」
「メグル君、大丈夫なのかい? 一週間も眠るなんて、、、」
「そうよ。あと少し長引いていたら、人工呼吸してたところよ」
「お母さん。何言ってるの!」
「だから冗談よ。そんなに怒らないのっ!」
「怒ってないよ!」
「いやいや、怒ってるでしょ?」
「やめてよ、お母さん!」
「まあ、そうよね。メグル君の事が大切だものねー。毎日ずっとメグル君の寝顔を見てたぐらいだもんねぇ、、、」
「そ、それは、、、!」
「ぷっ、、、はは、あはははー!」
俺は笑った。
皆んなを見て、俺が考えていた事が馬鹿らしく思えた。
少し悲しい夢を見て、憂鬱にでもなっていたのだろうか。
でも、あくまであれは過去だ。過去には戻れない。父さんは帰ってこない。
それでも、今が幸せならそれで良いじゃないか。アイと、皆んなと一緒にいられるこの時間があるなら。
「アイお前、俺の寝顔ずっと見てたって、ホント暇人だな」
「いや、まあ。ずっと寝てるのは不安だったし、、、 」
「そうか、心配してくれてたんだな。ありがとう」
「、、、そうよ。そう、メグルはもっと感謝すべきなんだから!」
「そうだな。これから、じっくり時間をかけて感謝してくよ。ところで、今日のお昼のこれは何ですか?」
「ああ、これはラーメンという食べ物だよ」
「ラーメン、、、?」
「あら、聞いたこと無い? まあ、日本食だものね」
「日本食? 日本食ですか!?」
日本。その地名は知っている。
【旧文明】時代の国の名称だ。でも、その国の料理についての情報まではシェルターには無かった。
この町には他にも、こういう失われた知識が残っているのだろうか。まあ、知って何になるという感じではあるが、気になりはする。
「このラーメンというのは、どうやって食べるんですか?」
「この箸というのを使うんだよ」
「箸ですか、、、こうですかね?」
「おお、上手に持ててるよ」
「なんかペンみたいな持ち方ですね」
「コツを掴むのが早いわねー」
「メグル、良いから食べな。早くしないと麺が伸びる」
「うん。そうするよ。えっと、こうかな、、、?」
ズルズルと音をたてながら、麺を啜る。
これは、、、美味い!!
今までに無い系統の食べ物だ。
予想以上に味が濃い。だが、しつこさが無く、ずっと食べていられる。
それでいて、かなりボリューミー。一口一口がずっしりと腹に溜まる。
このスープはなんだろう。鶏がらだろうか? コクが信じられないほど深い。
これはきっと、鶏がらだけで作れるものでは無い。様々な食材がこのスープに使われている。
このラーメンという食べ物では、麺もスープも全てが主役なのだ。脇役などいない。一つ一つの食材が自己を表しながらも、完璧に調和し、周りを引き立てている。
「ハニーさんとアイは、スープは飲まないのか?」
「スープは脂っこいのよー」
「飲むと太るわよ」
そう言われて見ると、確かに脂が凄い。だが、俺は見てしまった。スープを飲み干すグアニンさんを。
「アイ、、、 俺は飲むよ」
美味いが、脂っこい。これは太ってしまう。その罪悪感すらも良いスパイスになっている。
「メグル君、やるねー」
「ありがとうございました。めっちゃ、美味しかったです」
「太っても知らないよー」
「そうよー。せっかくスタイル良いのにー」
シェルターの健康管理の徹底さは異常だからな。スタイルはあそこで生活していれば、悪くなる事は無い。
「じゃあ、デザートにしましょうか」
「よっ! 待ってましたー!」
グアニンさんが嬉しそうに言う。
「はい! 今日のデザートはこれ!」
「お母さん、最高!」
「良いなぁ、、、」
「何ですかこれは?」
出てきたのは、アイスクリームよりも個体に近く、ツヤツヤしていている白いものだ。とても美味しいようには見えない。
「これはね。杏仁豆腐っていうデザートよ」
「杏仁豆腐。豆腐、、、 豆腐が使われているんですか?」
「いや、豆腐は使わないわよ。味とかも、どちらかと言えばプリンに近いわね」
「プリン、、、?」
「そうか、プリンもわからないのね。まあ、いつかプリンもつくるわよ」
「プリン、いつ作ってくれる!?」
アイが目を輝かせて言った。
「まあ、近いうちにつくるわよ」
「やったー!」
「メグル君。一度試しに食べてみて。たぶん美味しいから」
スプーンで杏仁豆腐を掬い、口に入れた。
柔らかい。甘い。
この杏仁豆腐も甘いが、アイスクリームとはまた違う。
深い甘さでは無いが、そこがまた良い。
食感は柔らかく、舌触りはツヤツヤしている。
アイスクリームは口の中の水分を奪っていく感覚が強かったが、この杏仁豆腐はそんな事は無い。
それどころか、上品な味わいで口が整う。
ラーメンの後にピッタリの食べ物だ。
「これも日本食何ですか?」
「いや、これは中国食ね」
「ご馳走様でした」
「あら、アイ。早いわね」
「うん。ちょっと疲れたから寝てくるー」
「うん、じゃあね。おやすみー」
「おやすみ! しっかり休むんだぞ」
「うん。メグル、おやすみ、、、」
「おやすみ」
「じゃあ、、、」
そう言ってアイは部屋へ行った。
「きっと、メグル君が目覚めて安心したのね」
「そうだな。ホントに目覚めてくれて、良かったよ」
「そういえば、ずっと気になってたんだですけど、何でアイは俺に拘るんですか?」
「拘る、、、?」
「赤の他人の俺を匿うために交渉したり、少し俺を特別視している気がするんですが、気の所為ですかね?」
「ハニーどうする?」
「まあ、メグル君には知る必要があるんじゃない」
「そうだね、、、」
俺は気軽な思いで聞いてしまったが、少し重い話なんだろうか。二人は目を合わせ、話しながら迷っている。
少しして、グアニンさんは言った。
「よし、メグル君。君にはいずれ話す必要があった事だ。アイのいない、今ここで教えよう。なぜ君がアイにとって特別なのか、、、、、、