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 空飛ぶ馬車での珍妙な空の旅も、もうすぐ終わる。

 それがどんなに揺れて寒くて座面が固くても、終わるとなると寂しいものっすね。多分。


「ほら、着いたぞ、降りな」

「あー、どもっす。ありがとうございました。」


 巨大なトランクと使い魔の白フクロウを連れて俺が降り立ったのは、魔法界、天界、魔界、人間界の全てに跨り、ありとあらゆる種族の天才たちが学ぶという四界最高峰の魔道学校。

 見た目はボロッボロの廃墟(超失礼)だが…中はちゃんとしてるんだろう。多分。

 では、そんな所になぜ俺がいるのか。俺のような一般人が。

 答えは簡単で、この年になって固有魔法という、ごく一部のエリートしか持ってないような、言わば外れ値の超強力な魔法が発現したからっす。

 普通はありえないので、なんらかの理由で使えなかっただけらしいが。


「暴走を防ぐため、か…」


 コレ、暴走するんすかね。未来が見えるだけっすよ。しかもちょっとでも使ったら魔力根こそぎ持ってかれてぶっ倒れるんすけど。


 てか、敷地広すぎやしませんかね。箒もフィールド以外で乗るのは禁止らしいし…歩けと?この距離を?


「やべぇ、早速先行き不安になってきたっす…」


 こうして俺は、憧れてもいなかった…失敬、魔道の道を志す者なら誰もが憧れるエリート校に、記念すべき第一歩を踏み出したのだった。

 正直今すぐにでもとって返したいが…親とはあまり関係がよろしくないまま連れてこられてしまった以上仕方ない。


「無理っすよ、やっぱり…」






 しっかしこの学校、すげぇっすね。外からは考えられないぐらいの豪華絢爛っぷりに、下手しなくとも俺が住んでた領の領主サマの屋敷よりよっぽどでかい敷地。

 正直住む世界が違いすぎてクラクラする。絶対みんなエリートばっかりなんだろうな…

 教師から生徒に至るまで全員が全員何かの「天才」だ、なんて噂も聞いたことがあるし、正直怖い。


「えーっと…着いたら到着連絡と今後の説明のため職員室に来るように…っすか…」


 入学案内を見て戦慄する。自分より目上かつ初対面の人と喋るなんて、よりにもよって俺が一番苦手としている事だ。

 いや、まぁ、行くしかないんすけど。


 せっかくなんか美術品や魔道具のすげぇのも置いてあるし、見ながら向かうか…と思った矢先、壁に穴を発見。

 授業かなんかで壊れて補修が追いついてないんすかね。いるかは分かりませんが、用務員さんお疲れ様っす。


 お、日本刀もある。やっぱかっこいいっすね…

 こっちは絵か、って動いたぁ!?ハーミット、やばいっすね。ちょっと楽しくなって来たかもしれないっす。






 幽霊とすれ違ったり、鎧に追いかけられたり、突然謎の罠に引っかかったりしたが、やっと職員室に到着っす。はー…やべぇー…緊張する…

 人、人、人…人人人人人人人人人人人…と、おまじないをして深呼吸してを繰り返すこと7回、心の準備が整う前に職員室のドアがギィ、と音を立てて開いた。


 中から出て来たのは、何やら不機嫌そうな顔の女の先生。すげぇこわい。

 え、やべぇっすね俺これ死ぬかもしれないっす。怖すぎて。なんつーかこう、人でも殺しそうな目をしてるんすけど。


 しかし、そんな妄想とは裏腹に、思いの外優しい声が聞こえた。


「あら、貴方は新入生の。名簿で見たわ。673番、星見留歌であっている?」

「え、あ、はい、そう…っす。」

「よろしい。私は副校長、ミナーヴァ・アシュリーよ。それじゃ、悪いけど今少し立て込んでいるから。」


 そう言った副校長先生は、『到着報告はこちらでしておくから、入学式が終わったら説明を受けにもう一度ここへ来るように』と伝えてキビキビと歩き去っていった。ああそう、と最後に一言付け加えて。


「入学式は大ホールよ。地図は入学案内に載っているから。」


 そしてなぜか、赤いメッシュの入った黒髪の中性的な格好をした生徒を連れて…もとい、引き摺って。


 不機嫌の原因と思しきその生徒は、これまたなぜだかこちらに向かって手を振っている。


「陽キャかな。陽キャっすね。こわい。」


 口をついて出た感想を聞く人はおらず、俺はまた一人取り残された。






 大ホール大ホール…お、やっと着けた、ここっすね。

 思いの外迷ってしまったため、ほとんど全員が席についていた。しかももう普通に打ち解けて話してる。そりゃあそうっすよね…

 中等部と高等部のテーブルがあそこだな。結構奥っすね…今から入っていってもこの大人数だ、目立たなそうなのが救いか。


 内部進学生は…多分あの辺りに固まってる。

 となると目立たず、かつズレるように頼まなくても良いところは…あ、一人で座ってる人がいるっすね。そこにお邪魔させてもらおう。


「し、失礼シマス…」


 声は多少裏返ったが及第点、挙動不審にならなかっただけマシというもの。そう思ったのも束の間、ギロリ、と睨まれた。

 所々に血のような赤が散る黒い髪。その隙間から見える鋭い眼光に息が止まりそうになる。固まる事数秒の後、相手が口を開いた。


「ざけんな、帰れよ。俺は誰とも馴れ合うつもりなんてない。」

「ご主人ご主人、コイツビビってるですか?弱いですか?」


 ……すっげぇ怖い人だった。どうしよう。しかもなんか影のお化け?みたいな使い魔を連れている。武闘派って感じの見た目だしピアス付いてるしヤバいかもしれないっすねこれ…

「というか、何気安く話しかけてんだ。しかも見慣れない顔だし…まさか人間じゃないだろうな。」

「え、あ、いや、その…とりあえず俺は魔法族っす。で…えっと…すんません…」


 しどろもどろになりながらも、どうにかこうにか口を開く。幸いな事に魔法族には思う所もないらしく、睨むのはやめてもらえた。正直やばかったっす。気絶するかと思った。


「…人間じゃないならいい。だが俺は悪魔以外は信用しないし、目の前にいる事も許さない。座りたかったら他所へ行くんだな。」

「ご主人無視すんなです、というかオモチャ返しちゃうですか?」

「…やるなら人間にしとけ。ムダに教師に目つけられたら面倒だ」


 人間が近寄ると余裕で殺しそうだな、なんて思いながらも、はい…と甚だ情けない返事をやっとの事で喉の奥から絞り出して俺はその場を後にした。

 幸い、先ほどは見落としていた空いている場所があったため、なんとか入学式が始まる前に座る事ができた。でも、非常に怖い体験だったっす…







 入学式はすっげぇ普通だった。逆に、なんでこんな普通なんすか、って言いたくなるぐらいだ。寮とかあるし普通は寮分けとかするんじゃないっすか。

 ああでも、首席入学者の代表の言葉はなんかすごかったっすけど。


「…それでは、これにて入学式は仕舞いじゃ。食べて、飲んで、騒いで、存分に親交を深めると良い。」


 そんな校長先生の言葉と共に、あっという間にテーブルの上に食べ物が運ばれる。小さな妖精やら精霊が、たった一匹でとんでもなく大きな皿を運んできたのを見て、俺を含め、新入生からの大きな歓声がホールに響く。

 何十人も食べれるようなでけぇ皿がひょいひょいと飛び交うもんだから、ぶつかりそうで怖い。でも内部生は平然と食べているし当たる事は無いんだろうな…なんて考えていると、目の前のテーブルの陰から中等部の制服が飛び出した。


「あー、そのお肉美味しそー!どこどこ?どこにあったの!?」

「あ、これっすか。あっちっすよ。ターキーらしいです。」


 しかもよくよく見てみると、さっき副校長先生に引き摺られていった生徒。やっぱ中等部だったのか…意外と背高ぇっすね。


「ってキミ、さっき職員室の前にいたよね?じゃあ新しい人!?」

「え、あ、まぁそうっすね、はい。星見留歌っす。よ…よろしく…っす。」

「わーいやったあってたー!高等部かー、先輩やったかー…まいっか、ボクはアモ・ユタリ、よろしく!」


 テンション高めにテーブルをバンバン叩くのに合わせて、結んでいる髪がぴょこぴょこと揺れている。なかなかどうして人懐っこくて良いヤツっぽい。それは良いんだが…


「あの、アンタ…」

「なにー?」

「机壊れていってるんすけど…」


 それを聞いた途端、やべ、やっちゃったー、なんて言いながら周辺を見回す少年…いや、少女?を見つつ、俺は頭を抱えた。絶対あの先生が怒ってた理由これっすね…


「…キミ先輩になるんだよね?今かいりん近くにいないし直すのお願い!じゃ、ボクそのターキー?っての食べに行くから!」

「あ、ちょ!」


 行ってしまった…えっと、杖、杖…あった。嵐みたいな人だったっす…とりあえず補修魔法っと。

 陽キャ?陽キャなのかあれ。どっちかっつうと破壊神っすね……

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