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最高すぎます!続きが気になります!
続き
嘔吐表現あります。
あれから1ヶ月が経っただろうか。
最近でも俺は、つぼ浦が死んで記憶を失う夢を見ていた。そして一週間前、ついに夢の中のつぼ浦が自分自身のことも忘れるほどに記憶喪失の症状が進んでいた。だが全部全部夢の中の話だ。寝なければいいのだ。もう、俺のせいで記憶を失うつぼ浦を、夢だとしても見たくない。
業務だってさほど支障が出ることはない。あの時、つぼ浦が弾け飛んだことに比べればこんなもの辛くはない。
今まで受け入れてきた苦しみだったはずの、俺のせいでつぼ浦が自らの手で死を選んだ、という事実が現実でさえも蝕む。
…夢での贖罪に甘えてばかりだったんだなと自覚した。
俺はつぼ浦のことが好きだ。愚かなぐらいに。だからもう俺はつぼ浦と関わってはいけない。不審に思われようとも避けなければいけない。
どうか、この勝手な罪の償いに気付かないで、未練を残させないでくれ。
リスポーンしてからアオセンが俺をめちゃくちゃ避けてる気がする。あと元気がない。アイツは気付いてねえみたいだが、体力も落ちているようだ。出勤から退勤するまでが明らかに早くなっている。本署の周りの地べたに座ってぼーっとしてるなんてこともザラだ。
仕事しろ、と面と向かって言っても「皆強いから大丈夫だよ」とへらりと笑うだけだ。前のアンタはそんなやつじゃ…?前っていつだ、1ヶ月前ぐらいのアオセンってどんなだったか。なにかが引っかかる。ぼんやり思い出せない、ではなくそもそもの記憶がない?
それはおかしい。皆との記憶はあるのにアオセンとの記憶だけ無いとかありえん。俺とアオセンは警察で、一緒に仕事をする機会もそれなりにあるというのに。
もし俺とアオセンの間になにかしらがあって、俺が記憶喪失になったとしたなら、それなりに納得はできる。
だがそうなった理由がさっぱりわからない。アオセンは周りの人間に危害を加えるような奴じゃないと思うしな…
そうだ。なにか記憶と結び付くものを探せばいい。アオセンの記憶だけがないなんてことは到底信じられないが何事もやってみるのが大切だ。署長もそう言ってたしな。
その前に仕事をしなければいけない。丁度さっきオイルリグが発生したところだ。…アオセンのヘリに乗せてもらおう。さっき近くでぼーっとしてるの見たし。ついでに俺が元気づけてやるぜ。
つぼ浦「アオセーーーン、オイルリグ連れてけ〜」
青井「…え」
急に後ろからつぼ浦の声がした。…なんだって?オイルリグに連れてけ?…正直だいぶ嫌だ。
オイルリグに行けばあの時の、弾け飛んでしまったつぼ浦を思い出して吐き気がしてしまう。だからずっと避けていたのにつぼ浦に連れてけと言われるとは。
だが俺に断る資格はない。ただ俺が我慢すればいいだけの話だ。一旦覚悟しなければ。
つぼ浦「おーい、大丈夫かあアオセン。」
青井「…っああ、大丈夫大丈夫。早く行こうか」
今からオイルリグに行かなければならないというだけで既に動悸と吐き気がする。つぼ浦だけにはこれを隠し通さなければならない。これも償いのうちだ、と自分に言い聞かせる。
着いた頃には金持ちが逃走するという段階だったようで、ほぼ終了という状況だ。
辿り着くまでにつぼ浦がめちゃくちゃ話しかけてきて誤魔化すのが大変だった。
今は夜だ。あたりは真っ暗で黒一色。海は空の色を写し黒になり、淡い月の光を反射していた。
ヘリに乗った金持ちを追いかけたかったがヘリポートへと降り立つ。…もう操縦できない。
そんな俺の様子を気にする様子もなく、つぼ浦は「犯人まだいるかー!」と言って手を大きく振りかぶる。
その手にはグレネードが握られていた。
あの瞬間がフラッシュバックする。今は夜だというのに目の前が鮮やかなオレンジ色になった気がしてしまった。
喉に不快な熱が昇ってくる。手から力が抜けて限界だということを悟る。せめてヘルメットだけでも取らなければ、と反射的に腕を動かす。
遠くで爆発音が聞こえた。
青井「う゛っ…ぇ゛…っゲホッゲホっぅ゛」
喉からげぽっという音がした。
つぼ浦「…あ?えっアオセン!?!?どうしたんすか!!!ちょっと誰か!!!誰かーーーーー!!!!!」
声が出せない。呼吸ができない。吐瀉物がヘリポートへ滴り落ちる。咄嗟にヘルメットをとったのでそんなには見苦しくなってないはずだ。
ああでもどうしよう。つぼ浦にこんなところを見られてしまった。どう言い訳しようか。
限界を迎えていた心とは対照的に頭の思考だけは驚くぐらい巡る。
俺がする呼吸音はただ空気が抜ける音へ変わっていたことと、つぼ浦の俺を呼ぶ声が聞こえることを認識して、俺は意識を手放した。
つぼ浦「…ッアオセン!?アオセン!!」
どうなってやがんだ、アオセンが急に吐いて倒れた。呼吸は…ある。気絶しただけみたいだ。ギリギリ倒れた身体は受け止めたが、アオセンの身体は不自然に軽い。
アオセンの顔は、空の悪魔とは思えないほどにやつれていた。
さすがの俺でも理解した。今、アオセンはなにかに苦しめられているのだと。アオセンでもどうしようもない物事に。
まずはアオセンを病院へ連れて行かなければ。
つぼ浦『アオセンが気絶したので病院連れて行きます!!』
そう無線で言った途端無線が騒がしくなる。やかましいのでそれ以上なにか言うことなく無線を抜けた。
アオセンを運転席から助手席へ移動させる。移動させるのに特に苦労はしなかった。
吐瀉物を片付け、運転席に乗る。
危険を知らせるように激しく鼓動する心臓の脈動が身体に響く。
誰かを乗せるとフラつくはずの、俺のヘリ操縦はひどく落ち着いていた。
病院に着き、アオセンを医者へ引き渡す。
神崎が言うには、膨大なストレスが原因らしい。
正直そんな気はしていた、というか、ほぼそれしかなかった。最近のアオセンはあまりにも様子がおかしかったからだ。
それにしても倒れるほどとは思わなかった。
案内をしてもらい、アオセンがいる部屋へ向かった。
まだアオセンは意識を取り戻していないらしく、ただベッドの上でうなされていた。
かけられた布団を手が白くなるほど強く握りしめてただ誰かに謝っている。顔は青ざめ冷や汗が伝っている。
そんなアオセンの様子を見て、俺の心臓が握り潰されているような感じがした。
目の前につぼ浦がいる。つぼ浦は俺を背に、海を眺めていた。あたりは見覚えのある浜辺、いつも見る夕暮れ。
ただ一週間前に見た時よりつぼ浦は儚げに見える。
彼は海水に濡れて、服は質量を感じさせるように風に少し揺られている。
ただその姿がつぼ浦にとても似合っていて、なにをするでもなくただ眺めていた。
__ひとつ瞬きをした。
その瞬間。彼は水となって溶けた。もう失うものは全て奪われたとでも言うように。
あの彼を象徴する涼しげな服とサングラスを残して、海水に溶け込んでいった。
急いで水をかき分ける。彼の水分を取り戻そうとする。彼を奪わないで、全て俺のせいだから。
そして俺は海の波に飲み込まれた。
どこからかつぼ浦の声が聞こえる。きっと海に溶けたつぼ浦の声だ。
このまま彼とこの海へ溶け込めたらなんて幸せなのだろう。
海の中で拡散して俺に届く光を、目を閉じて遮断した。
まだ続きます。だいぶ長くなるので一旦投稿です。まだハッピーエンドにするかバッドエンドにするかで悩んでいます。