幽霊とか呪いって信じてる?
俺さ、
最近信じる他ないほどになってるんだよね。
俺だって初めはそんなもの馬鹿馬鹿しいと思ってたよ。
でも今はこの様だ。
なんで俺がこうなったのか 、
始めに端的に言っておこう。
始まりは1通の手紙だった。
朝、いつも通り郵便受けを確認すると
黒い封筒が届いていた。
その中には黒い手紙が一枚。
手紙と言っても何も書かれていない。
そもそも真っ黒の紙に何を書かれたって
見えない訳だが、
まぁその時はなんとも思っていなかった。
悪戯か、変わった広告?みたいに思ってたかな。
しかしその手紙は毎日届いた。
3日、1週間、2週間。
流石に不気味に思えたよ。
初めの頃は悪戯かと思ってて気にしないようにしていた。しかしこんなにも続くと度が過ぎるし、意図が分からなかった。
手紙には何も書かれてないからね。
だから監視カメラをつけてみる事にした。
毎日朝見に行くとあるもんだから、
誰がいつ何のために手紙を送ってくるのか
見たかった。
そしてカメラを設置した翌日、見てみたんだ。
そしたら男の影が写ってた。
画質が悪いからかはっきりとは見えなくて、
誰かまではわからない。
しかし誰かに恨みをかった記憶もないし、
比較的温厚で友好的にやってきた方だと思う。
この男の怖いところは
決まって午前2時に現れるんだ。
なにが怖いって?
そりゃそんな早朝から来られるのは怖いけど、この午前2時っていうのは「草木も眠る丑三つ時」って言って、幽霊が出やすいって言われてる時間内なんだよ。
怖いのはこれだけじゃない。
これは比較的最近の話だが、家の中もおかしくなってきてさ、突然テレビがついたり、非通知の電話がやけに多くて、出てみるとしばらく無音で突然切れる。
寝てる時も日に日に体が重くなってきててさ。
確実に家に何かいるって思い始めたんだよ。
それが日に日に大きくなるから、毎日届く手紙となにか関係あるんじゃないかって。
ねぇどうすればいんだよー。
助けてくれよ友よー。
俺は高校からの同級生の春人に相談した。
「え、幽霊いる部屋に俺のこと呼んだわけ?あー、終わったわ。お前も俺も。」
「ちょちょちょ、ごめんって。でもこんな話外じゃできないだろ?黒い男に会うかもだし。もう絶対呪いとか送られてるわ。」
身震いする俺を横目に春人は溜息をついた、そして冷静に一言。
「とりあえず例の手紙みして。」
「なんでそんな冷静なんだよ…はい、これ。」
とりあえず溜めておいた手紙を机に広げた。
「うわ…こんなに溜まってんのか。」
「まだあるけど持ってくる?」
春人は大袈裟に嫌そうな顔をして首を横にふり、束の中の一つの封筒を開けた。
黒い二つ折りの紙が出てくるが、やはり何も書かれていない。
しかし春人はそれをまじまじと見つめ、
ゆっくりと紙を指でなぞり出した。
「どうかしたのか?」
「いや、ちょっと待って。」
春人は真剣に何か口を動かしている。
「い、、、×?いや、、こ。”た”か。」
「どうしたんだよ!ボソボソ呟いて。」
春人は指を動かしながら言った。
「これ、何か書いてあるよ。凹凸がある。黒か、それに近い色で書いてあるんだ。」
「見えないけど、なぞれば分かるのか?」
「全部ではないけど。ほら、この辺とか強く書いてあるから凹凸でなんとか。」
「まじか!なんて書いてある?」
「いた、、い、?」
「痛い?なにが痛いんだ?」
春人はまだ真剣な眼差しで
手紙を見つめている。
「違う。痛いじゃない。」
「?」
「あいたい。”会いたい”だ。」
その瞬間背筋が凍る感覚がした。
あの黒い男が俺に会いたいって?
なんのために?
「えっ、と、他に、心霊現象のこととかは手紙に書いてないのか?」
「うーん。同じ凹凸の繰り返しに思えるけど…」
あの男はなんで俺に呪いを送ってくるんだ?
そのくせ会いたいとか…
全然分からん!
頭を抱えていると春人が口を開いた。
「とりあえず心霊現象起きてるならお祓いしてもらった方がいいんじゃないか?」
それに俺はまた険しい顔をする。
「それがさ、有名だって人に来てもらったんだよ。そしたら幽霊は実態がないとお祓いが難しいって。家にあるのは残りカスみたいなので実態ではないから大丈夫だってさ。」
「でも日に日に多くなってるんだろ?」
「そこが分からないんだよな。最初は手紙と無関係だと思ってたから手紙の事話してなかった。あぁー!話とけば良かったか。」
「話すべきだな。」
「でもお祓いって結構高いんだよな。」
「今後のこと考えても出すべきだろ。それか引っ越しとか。」
「俺自身に来るタイプの幽霊だったら引っ越すだけ無駄じゃんか。それに本当バカにならないほど高い…」
「いくらだ?」
俺は春人の耳元でつぶやいた。
うん。馬鹿にならない値段を。
「うえっ!まじか、」
「そうなんだよ。」
「やっぱ有名な人だからか?もはやぼったくりだよ。」
「でも下手に安い人に頼んで意味ないのは嫌だし…」
「…今のところは実害ないんだよな。どうにかできるとこまで調べよう。何かあったら俺の家に泊めてやる。」
「さすが友よ〜。」
俺は春人に抱きつくと春人は誇らしげな顔をした。
ちょっとむかつくけど、
流石は我らの春人様だ。
その瞬間ガタガタと部屋が揺れ出した。
いつもは壁の装飾品だけが軽く揺れる程度だったが、これは違う。
激しい揺れ。でも地震とも違う。
これも心霊現象か?
慌てて俺たちはあたりを見渡した。
しばらくすると揺れはおさまり2人は顔を見合わせた。
地震の速報はない。
春人は言った。
「これはかなり深刻だな。」
今日は春人がウチに泊まる事になった。
勿論、真実解明のためだ。
監視カメラを2台増やし、外に一台玄関に一台設置した。
外に追加した一台は顔を写せるように設置した。
これで誰が手紙を送ってくるのかはっきりするだろう。
その日はそのまま眠りに落ちた。
朝日がカーテンの隙間から指しこみ、
顔を直撃する。
「ふわぁ、朝か。」
「遅いぞ。お前ほんと、よく寝れるな。」
朝から少し不機嫌そうな春人の目の下には薄ら隈ができていた。
「ほら、黒い手紙。届いてたぞ。監視カメラ確認しに行くぞ。」
春人に言われよしっと体に喝を入れて布団から飛び出した。
監視カメラは順調に作動している。
これで確認できる。
外一台目に写っていたのはいつものように斜め上からの角度、午前2時には黒い男の姿。
続いて外の2台目をみる。
これで、誰が判明する。
知らない人であって欲しいか、
知っている人であって欲しいか、
頭の中は少し複雑であったが今はもう見るしかない。
時間を午前2時に合わせる。
その瞬間、2人は呆然と立ち尽くした。
沈黙が流れる。
先に口を開いたのは春人の方だった。
「これって、裕也、だよな。」
『裕也』という春人の声が頭の中で幾度も反響し、こだました。
これは間違いなく裕也だ。
高校時代、春人や俺と共に時を過ごし、
笑いあい、バカし合っていた、あの裕也だ。
そして、事故で死んだはずの。あの裕也だ。
裕也がどうしてここに?
頭の中がぐるぐると黒い雑念で渦巻いている。
その中で幾つかの思い出が蘇る。
3人でマックに寄って大笑いしていたあの日。
勉強会と家に集まってゲーム大会をしていたあの日。
春人が風邪をひいて裕也と2人でお見舞いに行ったあの日。
そして、裕也の葬式に参列した、あの日。
考え込んでいると春人が言った。
「なぁ、これ。見てくれ。」
春人が持っていたのは玄関側に設置してあった監視カメラだった。
恐る恐る映像を覗き込む。
時刻は午前2時。
黒い手紙が郵便受けに入れられた。
しばらく見ていると郵便受けから黒い砂のようなものが湧き上がった。
それは物置部屋の方へと入っていく。
映像に写っているのはここまでだ。
なんだ、この黒い砂。
それに物置なんかに。
「手紙が来るようになってから物置に入ったか?」
春人は強張った顔をして言った。
「入ってない。」
ポツリというと春人はより顔をこわばらせた。
「…俺の予想が当たってないことを願うよ。」
「予想…?」
「いや、いいんだ。とりあえず物置を見に行こう。」
「あぁ。」
この部屋からだと廊下にでてすぐ左の部屋。
春人が物置のドアノブに手をかける。
そして俺の方へ振り返った。
「開けるぞ。」
春人のその真剣な顔持ちに、俺は唾をゴクリと飲み込んだ。
春人がドアを開けると同時に物凄い威圧的な、そして不気味な感覚が全身を覆った。
寒気と言っても耐え難い禍々しい冷気。
凍りつくようにその場から動けない。
春人はそんな俺を呼んだ。
「カイ!奥だ!見ろ!」
春人の声に物置の奥を見つめる。
そこには映像で見たよりずっと多くの黒い砂が立ちあがっていた。
それは複雑に動いているようにも見えるが、人形をしているようにも見える。
なんだ、あれは。
それを認識した瞬間、こだましていた黒い砂が様子を変え、俺の方へと飛び込んできた。
飲み込まれる。
そう思った時、春人が勢いよくドアを閉めた。
春人はその勢いのまま俺の手を引き家を飛び出した。
前を走る春人はしばらく口を開かなかった。
やっと口を開いたのは家の近くのコンビニ。
飲み物ケースの前でだった。
「カイはなに飲む?」
一見冷静な春人の顔は真顔の中に何か恐々しいものを感じた。
「じゃあ、お茶でいいかな…烏龍茶。」
「ん。」
春人は静かに頷いてレジへ烏龍茶を2つ持って行った。
いつもの春人じゃない。
それも当然だ。
あれはなんだったのだろう。
人形の何か。
春人にははっきり見えていたのだろうか。
コンビニの前、人のいない駐車場で烏龍茶を一口流し込む。
「あれ、なんだか人の形してたよな。黒い砂が人の形を作ってたというか。」
春人が少し黙ってから言った。
「あれは裕也だ。」
「えっ?でも裕也は手紙を、」
「間違いない。俺の予想は当たってたみたいだな。」
予想?
春人はもう一度烏龍茶を口に流し込んでから言う。
「毎日届く黒い手紙には裕也の一部が少しずつ含まれてたんだよ。それが少しずつカイの部屋に溜まっていって裕也の侵入を許してだんだ。」
「それってどういう…」
「裕也はお前の部屋に入るために外から自分を少しずつ送り込んで、また自分を作り直してる。お前に会うためにな。」
「でも、どうして裕也は俺に会いたいんだ?」
そこまで俺に執着する理由ってなんだ?
親友だった俺に会うのはわかるが、普通家族とか、いたのなら恋人とか…
「それは…はっきりとは分からないが、なんとなくなら。」
「?なんだ?」
春人は俯きながら口を開く。
「俺、正直裕也のこと、怖かったんだ。」
「えっ?」
一体なにを言い出すんだと思った。
あんなに一緒にいて、一緒に笑っていたのに。
「怖いって?」
「カイは気づいてないかもだけど、裕也が優しいのはカイだけにだったよ。」
「どういうこと?」
「裕也は俺がカイと仲良くすると嫉妬?みたいな。2人で話してたら必ず割って入ってきたし、目付きも怖かった。異常なほどカイには構ってたし、独占欲なのかな。カイとは仲良くしてたかったけど裕也がいつもそばにいた。」
なにを言っているんだろ。
そんな風に思ったことなど一度もなかった。
春人は僕が勘違いしていただけで
裕也とそんなに仲が良くなかったってこと?
「だから、今回裕也がカイの所へ来たのって、¢£%#&@〒*$」
突然視界が揺れ出した。
頭もクラクラする。
遠くで春人が叫んでいる声がする。
でも、なんて言ってるのか分からないや。
目が覚めると真っ暗闇の中だった。
その中に白いワイシャツをきた少年が立っている。
「裕也?」
少年が振り返る。
間違いなく、
高校時代と変わらない裕也の姿だった。
「裕也!裕也なんだな!」
「うん。僕だよ、カイ。ずっとずっと会いたかった。でも、こんな形で会うなんて寂しいな。」
「こんな形?」
「うん。今君が見てる僕は僕の一部でしかない。物置部屋で最後に忍ばせた僕の一部が君の目に細工をして見せている幻覚的なものだよ。」
幻覚?
そうか。俺はコンビニにいて。
春人は今どうなっているんだろ。
「ねぇ。」
突然裕也が声を上げた。
「僕と話してるんだよ。それも久しぶりに。”他人”のこと考えるのはやめようよ。」
他人って…
笑顔でそういう裕也はどこか不気味に思えた。
春人の話を聞いたからだろうか。
「僕がどうやって会いに来たか、なにをしているのか、知りたいでしょ。」
「あ、あぁ。」
息を飲む。
裕也はまた得意げに笑っている。
「霊ってのも結構不便なんだよね。霊力っていうのが合ってさ、それで姿を現したり、ものを動かしたりできるわけ。でもそれって限りがあるからカイに会うのも短時間だし難しい。だから住みつき法ってのを教えてもらった。住み着いてしまえば長時間その場にいられるし、そこにいる人には少ない霊力で会うことができる。でも住みつき法は色々条件があって、第一条件として、そこで死んでいなきゃいけないんだ。だから裏技を使ったってわけ。」
難しいな、
全然理解できない。
「はははっ、難しいよね。簡単に言えばカイと長く一緒にいるために家に住もうとしたってこと。そのために僕を少しずつ家に送り込んでた。」
「なる、ほど、、?家にあったのが裕也の一部だから実態がない分お祓いは成立しなかったのか。」
「午前2時から2時半の間は普段よりつかう霊力が少なくても色んなことができる。だからこの時間は、手紙を入れること、自分の一部を一つにまとめることの二つを同時進行することができた。」
「方法は、まぁ、ある程度わかったよ。でも俺が分からないのはその理由だよ。」
「理由って?」
裕也は少し揶揄うように笑った。
「会いたいっていうのは俺も同じだけど、そんな複雑なことしてまで会うのが俺で合ってるのか?」
裕也は腹を抱えた。
なにがそんなにおかしいんだ?
「ほんっとに鈍感なんだね!春人でも気づいてだのに。」
「春人が?」
確かに最後、何か言っていた。
目眩のせいでうまく聞き取れなかったが。
裕也は笑うのをやめてこちらに向き直った。
「好きなんだよ。カイのことが。ずっと前から。」
「え?おれ?」
「うん。こんなやり方して悪いと思ってるよ。驚かせたよね。でも、これしか思いつかなくてさ。」
「そう、なんだ…」
裕也はニコリと優しい顔で笑っている。
「気持ちを伝える前に死んじゃって。本当についてないよね。」
「そうだな。俺も沢山話したいことあったんだ。」
「告白の返事とか、求めたりしないから。なんたって僕、死んでるし。でもカイが負担に思わないならカイの部屋にいていいかな。方法探しに夢中でずっと一人で彷徨ってたんだ。」
裕也は俺に会うためにずっと一人で頑張ってくれたんだ。
負担に思うなんて滅相もないよ。
「もちろんだよ!いくらでもいてくれていいから。」
「カイは本当にお人好しで優しいね。」
裕也は嬉しそうに言った。
「それじゃ、またあとでね。もう少しで僕が完成するんだ。」
「あぁ、待ってる。」
「おい!おい!カイ!大丈夫か?」
まだぼやけた視界に春人の顔があった。
そうか、僕は幻覚の中で裕也に会ってきたんだ。
「裕也に会ったよ。」
「裕也に!?大丈夫だったか?」
「うん、全然大丈夫。裕也は悪い幽霊じゃなかったよ。春人の言ってた部屋で裕也を作ってるって話も当たってた。」
笑顔で報告するが春人の曇った顔は晴れなかった。
「それじゃぁ、まずいんだよ!」
春人は頭を抱えている。
「裕也は俺たちに会いたくて、話したくて会いに来ただけだよ。だからそんな心配しなくたって、」
「お前は知らないんだよ!」
いつもは冷静な春人が突然怒鳴り声を上げた。
珍しい姿に少しギョッとする。
なにがそんなにまずいのか。
「分かってないんだよ。あいつのヤバさを。」
「ヤバさ?」
「話をして分からなかったか?幽霊になってまで会いに来て、ずっと一緒にいるって。そのためにこんな方法まで使って。お前は分かってない!あいつの執着心のヤバさを。」
「分かってるさ。それなりに強く思ってくれてるのは。」
「それなりに?あいつはそんなレベルじゃないんだよ!」
「でも、」
俺が言いかけると春人は「もういい」と一言言い放ち、力強くで俺の手を引いた。
解こうとするが解けない。
「春人!どこ行くんだよ!」
「あいつの目につかない、力の届かない場所。」
裕也は悪いやつじゃない。
春人はきっと混乱してるんだ。
「ちょっちょっ、落ち着けって。春人も話せば分かるから!」
「そんな時間はない。」
春人は眉をひそめている。
いつも怖い顔はしているが、今の顔には敵わないだろう。
「一旦話し合おう、な。」
春人は相変わらずな顔のままだが、腕を掴む力がさっきよりも緩んだ。
「カイがそんなにいうなら、分かった。」
「ありがとう、」
「だがっ!裕也が完成しきる前までだ。いいな?」
「分かったよ。」
俺と春人は裕也の待つあの家へ向かった。
家に着くと人型の黒い砂は物置ではなく寝室に移動していた。
「やぁ、おかえり。カイ。」
「ただいま。春人も連れてきたよ。」
「久しぶりだね。」
「あぁ。」
春人は裕也を睨みつけている。
俺は裕也の肩をチョンと叩いた。
「あぁ、分かってる。大丈夫だから。」
「はぁ。」
そんな春人をみて裕也は言った。
相変わらずの笑顔は保ちつつ。
「久しぶりの再会なのに、敵意剥き出しだね。」
「そんなことないさ。最近また目が悪くなって。」
昔も二人は多少のギクシャクはあったが、どうすれば話ができるか。
とりあえず。
「そう言えば、裕也はあとどれくらいで完成するの?」
春人と聞くことを約束していた質問だ。
「うーん、あと1日ってとこかな。」
俺と春人は顔を見合わせて頷いた。
そして春人は続けた。
「この家に住みつけば長時間カイといられるって言ってたけど、ずっとではないのか?」
「うん。住み着いてたって何をするにも多少の霊力は必要だし、完全な同棲とはいかないかな。」
「”同棲”じゃなくて、”同居”な。」
「ははは、確かにそうだね。」
相変わらずピリピリしている。
敵意丸出しの春人と揶揄うように笑う裕也。
昔はこんなんじゃなかったのに。
それとも俺がいないところで二人はこんな感じだったんだろうか。
「お前さ、カイのこと好きなんだろ。」
「うん。そうだよ。」
「ははっ、お前みたいな独占欲強い奴が中途半端にカイと一緒にいたいと思うとは思えないけど?」
「つまり。どういうことかな?」
裕也の笑顔は少し曇りを帯びた。
「お前はカイを殺してでも完全に一緒にいたいと思いそうって話だよ。」
春人は強い口調で言い切った。
「面白いこというね。でも、幽霊にそんなことは不可能だよ。」
「実態が完成する”まで”はだろ?」
「…」
裕也は突然に黙ってしまった。
どうして黙るんだ?
何か言わないと勘違いされるぞ。
「ほら、図星なんだろ?分かったか、カイ。こいつの本当の目的。早く離れないといけない理由。」
「で、でも、、裕也!なんとか言ってよ!誤解だって!」
「…」
「カイ、行くぞ。早めに離れた方がいい。」
春人に手を引かれそのまま玄関へ向かう。
すると突然黒い砂の壁が行手を阻んだ。
なんで、こんな力が?
「まさかっ、」
春人は舌打ちをした。
反対に裕也は高笑いをしている。
「正解だよ。僕は初めからカイにこちら側に来てもらうつもりだった。だって一緒にいたってろくに触れられないし、時間だって限られてる。外へだってついていけないしね。カイをこっちに連れてきたら住み着き法なんてなくたって一緒に、どこへだっていけるんだ。それにカイだけ年をとっちゃうなんて、こんなに悲しいことはないでしょ?」
「連れてくるって、?殺すってこと?」
「言い方は良くないけどね。カイは僕と一緒にいてくれるよね?」
春人の言う通り、裕也は初めからこのつもりで…
「お前っ!騙したな!」
春人が怒鳴る。
「昔から僕よりバカな君はいつまでも僕よりバカなんだね。簡単に信じ込んでのこのこやってくるなんて。そうさ。僕はすでに”完成”している。」
完成?
「さぁ、カイ。こっちにおいで。君が約束してくれるなら春人のことは見逃してあげるよ。」
裕也は黒い砂の立ち込めた中からゆっくりと手を差し伸べた。
「カイ!行かなくていい!幽霊なんかに人二人も殺せる力があるもんか!」
「はははっ、それはどうかな?住みつきの霊は場所が限られてる分力は強まるんだよ。カイは試してみたい?」
春人は僕が巻き込んだんだ。
最後まで巻き込むわけには行かない。
「迷わないで大丈夫。痛いのは一瞬。いいや、一瞬も味合わせないよ。大丈夫、ずっと大切するよ。」
「行くな!カイ!」
僕はゆっくりと寝室へと歩き進める。
裕也の手招く方へ。
「ごめんな、春人。巻き込んで。」
「そんなことは心配しなくていい!だからカイ!行かないでくれ!」
「カイ、分かってくれて嬉しいよ。僕だって乱暴な真似はしたくない。でも、分かってくれるだろう?」
「うん。だから春人は助けてあげて。」
「約束するよ。」
裕也は優しい口調でそう告げた。
「カイ!!」
春人…ごめん。本当にごめん。
信じなくて。巻き込んで。
最初から春人を信じてれば、話をちゃんと聞いていれば。
裕也の手を取ると黒い砂が一気に体に流れ込んできた。
熱くてクラクラする。
体が重い。
遠くで春人の叫び声が聞こえる。
あれ、これ今日2回目だな。
こう言うの、なんて言うんだっけ。
デジャブ?だっけ?
こんな時にも呑気なこと考えてるな。
俺。
こんなだから迷惑もかけちゃうのかな。
「もう少しだから頑張ってね。」
裕也の囁く声がはっきりと耳元で聞こえた。
もうそろそろサヨナラかな。
そう思った時、黒い砂の流れが弱まった気がした。
いいや、確実に。
春人の声が段々と大きく、はっきりと聞こえてくる。
「やっぱり、完成しきれてないよな。」
完成しきれてない?どういうこと?
「お前、何をした!」
珍しく裕也の焦る声。
何が起こっているのかは分からない。
だが、春人が何かしたのか?
「毎日毎日こまめにこまめに黒い砂の送ってたよな。多少黒い砂がなくても完成できるなんて、そんな都合のいい整体してないよな。」
「お前っっ!」
「カイに幻覚を見せたときにお前が使った砂だけど。念の為に遠い場所に隠しておいた。物置を閉める瞬間にお前がカイに急いで砂を飛ばしたってことは少なくとも壁をすり抜けたりできない物理的なものだ。だから隠しておけば完成を防げると思ってな。それに、一定の距離があると砂をうまく動かせないってのも好都合だった。砂がないことに気づかないくらいだなんてラッキーだったよ。」
「ごたごたとっ、」
「無駄だよ。お前は今完璧じゃない。中途半端だ。完成しなければ手出しまではできない。カイ、立てるか?」
流れは完全に絶たれ、春人の肩にもたれながら俺たちは家をでた。
出る前にみた裕也と悲しそうな顔とあの一言を僕は一生忘れられないだろう。
「「さようなら、カイ。」」
俺は春人に問いた。
「どうして裕也が完成できないとか分かったの?」
すると春人は笑って答えた。
「正直、完成できないのも、裕也が気づかないのも賭けでしかないよ。でも念には念を。だろ?成功したからこそ笑えるが、な。」
実態に戻れない裕也の霊は残りの黒い砂を探すべく俺の家を出るしかなかった。
そして俺は一応引っ越しもした。
地元から離れ、裕也も知らない都会の土地へ。
実は最後の裕也の言葉には続きがありましたとさ。
「さようなら、カイ。また会うその日まで。」
-END?-
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