扉が閉まる音。
足音が遠ざかる。
屋上には、風の音だけが残った。
イギリスはフェンスに持たれたまま、しばらく動かない。
🇬🇧「……はぁ」
長く息を吐く。
さっきの距離。
掴まれた手首。
見下ろしてた目。
🇬🇧「……最悪だ」
小さく呟く。
手首を触る。
まだ、熱が残っている気がする。
🇬🇧「なんで、追いかけて来るんだよ」
自分に向けた声。
逃げれば、終わるはずなのに。
なのに────
目を閉じる。
壁に押さえつけられた瞬間の視線。
あの問い詰めるような目。
🇬🇧「……気づくな」
低く、掠れた声。
風が前髪を揺らす
くすみ金が光に滲む。
🇬🇧「俺は、もう────」
そこで言葉が止まる。
続きが、出ない。
しばらく黙ったまま、空を見る。
🇬🇧「……面倒なんだよ」
吐き捨てるように言って、フェンスから離れる。
でも胸の奥のざわつきは、消えない。
怖いだけじゃない。
それが一番、厄介だった。
夕方。
オレンジ色の光が街を染めていた。
制服姿の
イギリスは、1人で歩いている。
誰とも話さず。
寄り道もせず。
ただ、まっすぐ帰る。
手には本。
それだけ。
家の前で、足が止まる。
大きな家。
門。
見慣れているはずなのに。
好きにはなれない場所。
鍵を開ける。
🇬🇧「……ただいま」
返事はない。
静かだ。
だが、それでいい。
リビングを通り過ぎようとした時。
テレビの音。
画面の中。
煌びやかなステージ。
ライト。
歓声。
そして。
そこに映っていたのは────
彼の親。
世界的に有名なアイドル。
完璧な笑顔。
完璧な歌。
完璧な存在。
イギリスの手が、わずかに止まる。
🇬🇧「……」
目を逸らす。
その時。
🇬🇧母「帰ったの」
背後から声。
振り向く。
そこにいたのは、母親。
同じ顔立ち。
同じ金髪。
でも、表情は違う。
🇬🇧母「学校は?」
🇬🇧「……普通」
短く答える。
母親は腕を組む。
🇬🇧母「最近、歌ってるの?」
イギリの指が止まる。
🇬🇧「…歌ってない」
空気が変わる。
🇬🇧母「もったいないわね」
冷たい声。
🇬🇧母「あなたは才能があるのに 」
イギリスは何も言わない。
言っても意味がないからだ。
🇬🇧母「あなたは”選ばれた”のよ」
母親は続ける。
🇬🇧母「私たちの子供なんだから」
その言葉。
何度も聞いた。
何度も。
何度も。
何度も。
イギリスの手が小さく震える。
🇬🇧「…興味無い」
小さく言う。
母親の眉が動く。
🇬🇧母「何ですって?」
イギリスは顔をあげない。
🇬🇧「もう、やめた」
沈黙。
重い空気。
母親の声が低くなる。
🇬🇧母「逃げただけでしょう」
心臓が強く鳴る。
でも。
否定しない。
否定できない。
🇬🇧「……そうかもな」
それだけ言って。
階段へ向かう。
🇬🇧母「待ちなさい」
止まらない。
止まらない。
部屋のドアを閉める。
静寂。
ベッドに座る。
手を見る。
震えている。
目を閉じると。
歓声が蘇る。
ライト。
視線。
期待。
全部。
全部。
重かった。
🇬🇧「……もう」
小さく呟く。
🇬🇧「普通でいい」
誰にも聞こえない声。
でも。
胸の奥では。
まだ消えていない何かが、残っていた。






