テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#いれりすさんと繋がりたい
40
兄が嫌いだ。
親が嫌いだ。
勝手に期待の目を向けてくるくせに失望する奴らも
哀れに俺を見てくる奴らも
全部全部大嫌いだ。
父 いつになればお前は価値のある人間になるのだ
私を失望させるな
青 申し訳ございませんお父様。
“価値のある人間”これはお父様の口癖だった
価値がなければ生まれてきた意味がない
お前は生きているだけで家名に泥を塗っている
そう言われ続けてきた
母は父を金としか見ていないため自分が産んだ子供でさえも興味を示すことはなかった
家にいるのは俺を嫌う父と興味を示さない母、機械的に働く執事と兄が一人いた。
兄はお父様に好かれていた
父 あの有名大学にお前も入学か… それも特待生。
私も鼻が高いよ。
黒 当然のことをしたまでです。
父 流石は家の長男だな
価値がある
黒 ッ…
父 はぁ…それに比べて青…なんだこの点数は。
どうしてこんな簡単な問題も解けないんだ。
お前の兄はこんなにも優秀なのに。
本当に呆れた。
こんな事も出来ないのならせめていないもののように生きろ。
兄の顔にそして家に泥を塗るようなことをするんじゃないぞ。
青 はい。申し訳ございません。
価値という言葉にあいつが苦しそうにしたのは俺の見間違いだろうか…
才能があって俺を悠々と超えていくあいつが
俺と同じ悩みを…?
そんなわけないか
無駄なことを考えるのはやめよう。
俺とあいつは違うんだから
昔は兄のことを純粋に尊敬していた。
青 兄様!すごいです。兄様は僕の憧れで誇れる兄様です!
そう言うと兄は
黒 お前も頑張れ
そう優しく撫でてくれた。
でももう、その時兄がどんな顔をしていたのか思い出せない。
座学1位
成績は常にオール5
それでも兄には勝てなくて
“青くんって黒さんの弟なんでしょ?”
“流石黒の弟”
“黒がお前の年の時はもっと…”
“お兄さんと比較されて辛いよね…”
“青くんって優秀だけどお兄さんほどじゃ…”
ずっと消えることのない自室の電気
増えていく腕の赤い線
学校、図書館、家と 毎日その繰り返しで
必死に努力してもどれだけ頑張っても
誰にも認めてもらえることはなくて。
ある時気づいてしまった。
いや、気づいていたけどずっと目を背けていた
でももう目をそらすことができなくなってしまった現実が押し寄せる
青 結局…努力は才能に勝てないんだな…
そう思ったらプツリと糸が切れる音がした
結局才能が嫌いでも
皮肉なことに才能に勝てるのは才能しかなくて
努力なんて報われる日は来なくて。
それなら
対等にしたって勝てないんだから
才能なんて消してしまえばいいじゃないか
あぁ
簡単なことだったんだ。
青 あいつがいるから俺には価値がないんだ。
あいつがいなければ…俺は価値のある人間になれる。
その日から兄の背中は越えるべき壁から殺すべき対象に変わった。
桃 なんか最近疲れてるね。
いつも頑張りすぎだし、疲れてる感じはしてたけど…
最近さらに酷くなってない?
青 別に大丈夫。
いつもと変わらないよ。
そう言いながらも俺の体は限界を迎え始めていた。
いつもの勉強に加えて兄の殺し方を考えるようになってからどうも頭が上手く働かない。
寝付きが悪くなり、ひどい時ではベッドの中で一睡もすることなく朝を迎えていた。
青 どうしてこうも何も上手くいかないんだ…
腕にあった消えない弱さは
片腕から両腕へさらには足にまで増えていた。
痩せ細っていく不健康な体
消えない頭痛
目眩で倒れそうになっても
それでもやめるわけにはいかなかった。
青 俺は…価値のある人間に…
赤い血が腕をつたう
この感覚がどうしても俺の描く未来と重なる
吐き気がした。
血は出させたくないな。
きっと殺した後に後悔と記憶が強く残るから。
思考をぐるぐると回していると
普段はしない俺の部屋の扉を叩く音がした
それと同時にいつもは聞かないはずの声も耳に入った
黒 入っていいか?
心臓が飛び跳ねた
俺の計画がバレたのか?
いや思考にとどめたこの計画がバレるはずがない
今日はお父様もお母様も共に外出していていない
執事はお父様たちの方へ行っている
俺の働かない頭は最悪の結論を出してしまった。
“殺すなら今しかない”
青 どうぞ。
黒 久しぶりだな。
顔を見たのはいつぶりだったか。
どこかぎこちなく話しかけてくる兄。
それでも俺を映す瞳が俺の情を呼び起こす
そんな情を捨て兄を押し倒した
いつの間にか越していた兄の身長
そっと兄の上にまたがると
兄は見たこともない驚いた顔をしていた。
黒 どうしたんだ…急に
それに身長にしては随分と軽いが…ご飯は食べているのか
こんな事をされても俺を心配し続ける兄
でももう声を聞くのも鬱陶しくて
青 もう喋んな
そう言って俺は兄の首に手をかけ少しずつ力を入れた
俺の手は震えていて
頬には汗が伝っていた
静かな空間に俺の荒い呼吸だけが響く
青 なんで…
黒 …
何も喋らない
何も抵抗しない
でもその時の兄の顔は
俺を撫でてくれた時の優しい顔をしていた
青 何してんだよ
さっさと抵抗しろよ…なんでやられぱなしなんだよ…
口ではこんな言葉をはいているが俺の目から溢れる感情は抑えられなくて
黒 そんな顔をするな
そう言って俺の汚い感情を拭うと兄は俺の手を掴んだ
黒 大学が忙しくてなかなか帰ってこれなくて悪かったな
お前がお父様から酷い仕打ちを受けていることを知っていたのに
“価値に縛られていることを 知っていたのに”
こんな家にお前を置いていって悪かった
青 …
兄が素直に謝ってきて
俺の計画はもう破綻しているんだと思った
俺はこいつを殺せない
嫌いになりきれなかった
言葉の裏に隠れるこいつの努力を
こいつの価値の意味を
理解してしまった
手に込めた力がふっと抜けた
なのに
俺の手を掴む兄の手は離れなかった
青 離せよ
俺が悪かった
俺はもう…
お前を殺せな…
黒 こんな外側に力を入れたって無駄だ
もっと内側だ
首の内側の方を掴んで力を入れろ
青 は?
こいつは何を言っているんだ
俺にどうして殺し方を伝える
死にたいのか?
俺の頭はもうこの状況を処理しきれなくて
黒 お前の兄として
お前の願いを叶えると言ってるんだよ
だから俺を殺せ 青
最期くらいお前の兄でいさせてくれ
名前を呼ばれたのはいつぶりだろうか
まっすぐ目を見てもらえたのは
誰かに俺を見てもらえたのは
いつぶりだったろう
ふっと肩の重荷が全て降りた気がした
汚い感情が俺の心から抜けていった
心地のよい暖かさが俺の体を埋め尽くす
青 …できないっ
俺はやっぱり兄様のことがっ…
俺兄様と一緒にいたい
1人になりたくない…
俺はただ
誰かに見てほしくて
誰にも見てもらえない気持ちを兄様にぶつけて
勝手に嫉妬しただけだった…
ごめんなさいっ
ごめんなさい…兄様
押し倒したままの兄をそのまま抱きしめる
俺より小さいはずなのに
兄の体はやっぱり大きく感じて
暖かくて
幸せに満たされてしまった
黒 もう一人にしないからな
大丈夫
いつまでも俺がずっと一緒にいてやる
お前のわがままを聞いてやれるのは俺だけだ
ぎこちない手つきで俺を抱きしめ背中をさする
その手はあの時撫でてくれた大きくて暖かい手と変わらなかった
兄はその手で俺を刺した
黒 お前の願い
叶えてやるからな
俺は兄が自分の事を刺すところを見て意識を手放した
俺は兄の愛のカタチを理解できぬまま深く暗い場所へ落ちていった。
コメント
1件
連載を終えてまた読切の短編を書きました。 考察や感想コメントお待ちしております。