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玲奈
今日もまたいる、あの人
「なに?……」
「なに?別に。アンタに関係ないでしょ?」
何も喋らないあの人
静まり返った部屋。時計の音だけが、やけに大きく響いている。
「……で?」
低くて冷たい声が、空気を切った。
目の前に立つその人は、いつも通り表情がない。
怒鳴りもしない。けど、その静けさの方がずっと怖い。
「さっきの、何?」
逃げ場がない。
分かってる。完全にやらかした。
「……悪かった」
短く言う。
いつもみたいに、平気な顔で。
でも。
「“悪かった”?それだけ?」
一歩、距離が縮まる。
心臓が跳ねる。
「タメ口、聞いたよね」
言い逃れはできない。
「……っ」
喉が乾いて、声が出ない。
「ねえ」
視線が刺さる。
「ちゃんと謝れって言ってる」
その一言で、何かが崩れた。
「……ごめん、なさい」
絞り出すみたいな声。
でもすぐに、
「軽い」
即答。
逃げ道、ゼロ。
「もう一回」
間違えられない。
ここでちゃんとしないと、終わる。
「ごめんなさい……っ」
少し強く言う。
でも声が震えてるのが自分でも分かる。
「何に対して?」
追い詰めるみたいに、言葉を重ねてくる。
やめてくれ、って思うのに。
「タメ口、聞いて……すみませんでした……」
息が浅くなる。
「反省してる?」
頷こうとして、止まる。
「……してる、」
「嘘だね」
被せるように否定される。
胸がぎゅっと締まる。
「してる……ちゃんと……」
必死に言い返す。
いつもなら絶対こんな言い方しないのに。
「じゃあなんでさっきあんな態度取れるの?」
言葉が刺さる。
何も言えない。
沈黙。
それが一番、怖い。
「……ごめんなさい……」
もう一回、今度は小さく。
声が、崩れそうになる。
「それで終わり?」
許されない。
分かってる。
それでも、
「……っ、ほんとに、ごめんなさい……」
視界がにじむ。
泣くな。
ここで泣いたら、もっと悪い。
分かってるのに。
「泣くのは違うよね」
冷たい声。
びくっと肩が揺れる。
「同情でも欲しいの?」
違う、って言いたいのに、声にならない。
「ちが……」
掠れる。
「ちがう、です……ごめんなさい……」
もう敬語も崩れそうで、必死に繋ぐ。
呼吸が乱れる。
足が、少し震えてる。
「……」
沈黙。
長い、長すぎる沈黙。
許される気配は、ない。
「……どうするの」
試すみたいな声。
答えが分からない。
何を言えばいいかも、何をすればいいかも。
ただ、
「……ごめんなさい……」
それしか出てこない。
もう何回目かも分からない謝罪。
それでも。
「それじゃ足りない」
はっきり言われた。
心臓が落ちるみたいな感覚。
終わった、って思う。
「……っ」
息が詰まる。
涙がこぼれそうになるのを、必死で堪える。
でも、
「顔、上げて」
言われて、逆らえない。
ゆっくり顔を上げた瞬間、
視線がぶつかる。
逃げられない。
「……ほんとに分かってる顔じゃないね」
その一言で、
ぎりぎり保ってたものが、今にも壊れそうになる。
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