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「退院したらウチに来て欲しい。夏希さんの仕事部屋も作るよ」


「あっ! 仕事! 朝倉先生、イラストの納期が間に合わないです。ご迷惑をお掛けして、すいません」


そうだった。仕事の事でも迷惑掛けているんだ。作品のイラストを他の人が引き受ける事になったらしい。凄く悔しいけど仕方ない。


「今回は残念だったけど、無理しないで早く治して、またお願いするからね。右手が無事で良かったよ」


「本当に、右手が無事で本当に良かった」

点滴の針が刺さった右手の指先をグーパーと動かしながら、また描く事が出来るんだとホッと息を吐く。


「午後から検査だよね。私も宿を取ってまた後で顔を出すよ。要るものあったら買って来るよ」


宿まで取ってまた来てれることを嬉しく思いながら、今の所大丈夫だと返事をする。

朝倉先生は、軽くキスをして「また後で」と病室から出て行った。


連絡も取れずにいた朝倉先生が、まさか来てくれるなんて思っていなかったから嬉しくって、今は、キスの余韻にニヤニヤと浸っていたら


コンコンとノック音が聞こえた。

ドアが開くと将嗣のお母さんが立っていた。


「……少し、いいかしら?」

と声を掛けられ、ベッドの横の椅子を勧めるが、座ってくれない。ベッドの横で深刻な表情で立っていた。そして、大きく息を吐い込むなり謝罪の言葉を吐きだした。


「夏希さん、わざわざ来てくれたのに、こんな事故に巻き込んでしまってごめんなさい」


将嗣のお母さんに頭を下げられ、事故はお母さんのせいでも将嗣のせいでも無く、信号無視をしてぶつかった車の運転手のせいだから気にしないでと言った。ようやく頭を上げてくれて、ホッとしたのも束の間、将嗣のお母さんはパッと目を輝かせ私に宣言するかの如く言い放つ。


「夏希さんは、ご両親がいらっしゃらないから、入院中は、お世話させて頂くわ。美優ちゃんのお世話も任せてね」


美優の世話を自分で見れない以上お願いするしかないが、その張り切り様に不安が募る。


「病院は完全看護なので私は大丈夫ですが、美優のことは将嗣にお願いしてあるので、ご迷惑をお掛けします」


「美優ちゃん、可愛いわよね。孫だと余計に可愛いのかしら? お友達で孫自慢する人の気持ちがわかるわー。やっと、私も孫自慢が出来るのよ」


嫌がらずにお世話をしてくるのはありがたい事と思って、将嗣のお母さんのおしゃべりに暫く相槌を打っていた。お母さんは、普段の生活の事を中心にお父さんの介護の事や将嗣の事など色んな話しをされた。


私は、両親共にも就職して直ぐに亡くしているから、親の世代と話す事に慣れていなくて、愚痴とも取れる世間話を聞くのは随分久しぶりの出来事だった。

悪いけど、お相手をするのが、ちょっと辛くなってくる。少し眠りたいなとか、将嗣が早く帰ってこないかなぁと考えていたら看護婦さんがやって来て午後の検査のお迎えだった。

将嗣のお母さんには悪いけど、正直言って解放されるのは助かった。


「今日は、来て頂いてありがとうございました」


「夏希さん、美優ちゃんの事は任せてね」


「はい、よろしくお願いします。今日は来て頂きありがとうございました」


普通に挨拶をしたはずだった。

ただ、この時点で将嗣のお母さんが色々考えを巡らせているなんて私には想像もつかなった。

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