ちーんと仏壇のお鈴を鳴らし、じいちゃんばあちゃんに挨拶をする。
手を合わせ終わって顔を上げると、タイミングよく後ろから声を掛けられ、振り返った先には、ふたつ年下の従兄弟。
「勇斗、ビール飲む?」
「おー、あんがと」
片手にビールの缶2つと、もう片手におつまみの袋を持った仁人と並んで、縁側に腰掛ける。
「昼間っからビールって、なんか幸せだわぁ」
「な?贅沢だよほんと」
ふたりしてプルタブを開け、小さく乾杯をして口をつける。
あっという間に時は過ぎて、俺も仁人も数年前に成人を迎え、今やラムネがビールへと姿を変えた。
「俺らが子どもの頃と今の夏って、気温からして違うのかな?めっちゃ暑く感じない?」
扇風機に吹かれながら、縁側から太陽に向かって手を伸ばした仁人が聞いてくる。
「そりゃそうやろ。温暖化も進んでんだろうし、今の小学生が俺らとおんなじ事やってたら、秒で熱中症なんじゃね?」
「あはは、ほんとそうかも!無茶苦茶やってたからなぁ俺たち」
「な、虫取りなんて朝から昼までやってたっしょ。そっから無駄に山道歩き回ってたし」
「蛍もみたし、夏祭りも行ったしね?」
「ほんと、よぉやってたよ」
「あとアレだよね?壊れた車秘密基地にしようとして中入ったらさ、エロ本見つけて」
「あったわ!きゃっきゃやってたら結局、持ち主にバレて死ぬほど怒られたよな」
「そうそう!めっちゃ怖かったあのおじちゃん。エロ本読んでるくせにさぁ」
「おっちゃんだってエロ本くらい読むやろ」
変な言いがかりに吹き出しながら、晴れた夏の空を見上げる。
青い空に、白い雲。
同じ空と雲のはずなのに、夏ってだけで、どうしてこうも違って見えるのか。
「ほんと、楽しかったなぁ」
「ね。あの頃さぁ、俺、勇斗と会えるのほんと楽しみだったんだ」
突然の言葉に、食べていたサキイカが喉につっかえる。
「っ、え?」
「お盆の何日間かだけだったけどさ、勇斗と一緒にいるの、すごい楽しかったんだよ。だから、このまま夏なんか終わらなきゃいいのにって、毎年本気で思ってた。」
「…なんなん、それ」
思わず口籠って、それを誤魔化すためにビールを一口喉へ流し込む。
そんなの、俺だって一緒だ。
思い出すのは、高校3年最後の夏。
大学進学が迫って、簡単には帰ってこれないかもしれないと。仁人に会えなくなるかもしれないと思ったから。
いつか母さんから聞いた、「一緒に花火を見るとずっと一緒にいられる」っていうジンクスのある花火スポットに連れていってしまうくらい。
そのくらいには、ずっとこのままがいいと願ってた。
そんなの、こいつには口が裂けても言えなかったけど。
「俺の夏イコール勇斗との夏なんだよ」
口をぽかんと開けて、隣の仁人に視線を向ける。
「だから、これからもよろしくね」
相変わらずの、俺とは違う色白で大きな目。
髪は黒ではなくなったけど、うれしそうにたのしそうに笑うその顔は、何年経っても変わらない。
その笑顔に、つられて頬が緩む。
「…しゃねぇなぁ」
蝉時雨。
オレンジ色の空と雲。
じめじめした空気が、からだにまとわりつくような感じ。
それからそれから、
夏を思い出すとき。
必ずセットで頭に浮かぶのは、きらきらかがやく そのわらいがお。
(俺達の夏は、まだまだ終わらないらしい。)
end!