テラーノベル
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玄関の鍵を閉める音が、いつもより大きく響いた気がした。
reは靴を脱いでリビングに入り、そこに立ち尽くす。
人がいる。
椅子を引く音。紙をめくる音。
誰か、いる。…でも、誰?え?
re「…ただいま」
少し間があって、目の前の椅子に座っている誰かから返事が来た。
ko「おかえり」
声を聞いた瞬間、胸の奥がすっと落ち着く。
(……koや)
顔を見れば誰か、なんてすぐに分かるのに、顔だけがぼやけて誰なのか分からない。
re「……ぇ?」
ko「どうした?」
re「いや、なんでもない」
reは視線を逸らして、鞄を床に置いた。
昨日まで普通やったのに
なんで…?、
首から上が全部ぼやけて髪型も分かんない
視力が落ちた…訳ないよな…?
他のところは見えるもん
reは靴下のまま数歩進んで、もう一度koを見る。
肩の高さ、姿勢とかで、koやって分かるはずの情報は揃ってる。
やのに――首から上が、すりガラス越しみたいに認識できひん。
re(なんで……顔だけ……?)
reは無意識に目をこすった。
瞬きを何度かしてみる。でも、変わらない。
ko「疲れてる…?」
淡々とした声。
その“声”だけが、確かにkoやって教えてくれる。
re「……いや、大丈夫」
reはソファに腰を下ろし、両手で顔を覆った。
re「なぁ、ko……」
ko「ん?」
re「今、koの顔……見えてへんねん」
一瞬、椅子が軋む音がした。
koが姿勢を変えたのが分かる。
ko「見えてない?」
re「正確には、顔だけ分からん。首から上が、ぼやーっとしてて……他は普通に見える」
ko「……」
沈黙。
その沈黙が、reの不安を余計に煽る。
re「ちょ、そんな黙らんといてや」
ko「いや、考えてる」
そう言って、koは立ち上がったらしい。
足音が近づく。
ko「痛みは? 頭痛とか、めまいはある?」
re「ない。ほんまに、なんも」
ko「視界が暗くなるとか、二重に見えるとかは?」
re「それもない。首から上、が」
koはreの前にしゃがんだ。
距離が近くなっても、やっぱり顔は認識できない。
re(近いはずやのに……)
ko「俺の指、何本に見える?」
reはkoの手を見る。
顔の前に指があるのに、指は、はっきり見える。
re「……三本」
ko「合ってる」
koは小さく息を吐いた。
ko「kuちゃん、呼んでくる」
re「え、そんな大事なん?」
ko「今の話聞く限り、普通じゃない」
その言い方が、妙に冷静で。
それが逆に怖かった。
re「……なぁ、これ治るんやんな?」
koは一瞬、言葉を探すように間を置いてから、はっきり言った。
ko「分かんない。だから、ちゃんと調べる」
その瞬間、玄関の方からガチャッと音がした。
yu「ただいまー」
yuくん…?
reは思わず、顔を上げた。
re(……頼むから、見えてくれ)
けど。
yuの顔も、同じように、ぼやけていた。
re「……っあ」
消えそうな声が出る。
胸の奥が、さっきとは逆に、すっと冷える。
re「ko……」
ko「……yuくんも?」
reは、ゆっくり頷いた。
re「……顔、分からん」
部屋の空気が、一段階、重くなった。
yu「え?どういうこと?」
ku「ko~?どしたのー?」
ko「こっち来て」
ku「あ、yuさん おかえり」
yu「ただいまー」
ko「reちが、”人の顔が分かんない”って言ってて…」
ku「顔だけ?」
re「うん、顔だけ。」
yu「yuさんたちの見分けはつく?」
re「服変わったらわからんと思う…」
ko「可能性の話だけど」
ku「“相貌失認”に近いと思う。ただ……それとも少し違う気がする」
yu「相貌失認って、生まれつきとか事故のあとに出るものじゃない?」
ku「うん。でもreの場合、“急に” “全員” “首から上だけ”って条件が揃いすぎてる」
re「……」
kuはreの前にしゃがみ込み、声を落とす。
ku「怖がらせたいわけじゃないよ。ただ、脳の認識処理に一時的なエラーが起きてる可能性はある」
re「……エラーって」
ko「ku」
ku「あ、ごめん」
短い沈黙。
reは膝の上で、無意識に指を握りしめていた。
re「なぁ……」
全員の視線がreに向く。
re「これ、今は“顔”だけやけど……そのうち声とかも分からんようになったりせーへんよな?」
yu「……それは」
yuが一瞬、言葉に詰まる。
ko「現時点では、そういう兆候はない」
はっきりした口調。
ko「reちは“見えてる”。認識がズレてるだけだと思う」
re「……でも」
reはリビングを見回す。
家具も、壁も、床も。
全部、はっきり見える。
――そこにいるはずの“家族の顔”だけが、存在しない。
re「……めっちゃ、気持ち悪い」
小さく零れた声は、震えていた。
yu「……それは、そうだよ」
yuはreの隣に腰を下ろす。
距離は近い。でも、顔は分からないまま。
yu「でも、声は分かるでしょ?」
re「……分かる」
yu「触ったら?」
reは少し迷ってから、yuの腕にそっと触れた。
re「……yuくんやって、分かる」
yu「でしょ」
小さな笑い声。
yu「顔が分かんなくても、reちが一人になるわけじゃない」
その言葉に、reは喉の奥が詰まるのを感じた。
ko「今夜は様子を見る。どっかで検査受けよ」
ku「とりあえず、MRIかな」
re「……入院とか?」
ko「それは、まだ分からない」
正直な答え。
でも、koは続ける。
ko「俺たち全員で行く」
その瞬間、reの視界の端で、何かが揺れた。
re「……っ」
思わず目を閉じる。
ko「reち?」
re「今、一瞬……」
ゆっくり目を開ける。
――首から上の“ぼやけ”が、
さっきより、ほんの少し濃くなっていた。
re「……悪化、してる…」
誰も、すぐには言葉が出てこなかった。
玄関のドアが開く。
co「ただいま」
軽い足音。
いつもと変わらないテンポ。
reは反射的に顔を上げる。
……やっぱり、だめや。
首から上が、曖昧。
輪郭が溶けて、表情が存在しない。
re「……」
co「? どうしたの、reさん」
何も知らない声。
ko「おかえり」
yu「おかえり」
ku「おかえり、co」
co「うん。ただいま」
coは靴を脱ぎながら、部屋を見回す。
co「なんか、空気重くない?みんなで難しい話してた?」
ku「ちょっとね」
co「ふーん」
それ以上、踏み込まない。
本当に、何も聞いていない。
coは冷蔵庫を開けて、ペットボトルを取り出した。
co「reさんも飲む?」
re「……あ、あとでいい」
co「了解」
そのやりとりが、普通すぎて。
reは、胸の奥がじくっと痛む。
re(……coくんだけ、いつも通りや)
coはソファの背もたれに体重を預けて、スマホをいじり始める。
co「今日さ、駅前で工事しててさ――耳壊れるかと思った」
coは聴覚過敏の治療中で、常にイヤーマフ
つけてる。大分ましにはなってきてるけど、まだ環境音がだめらしい。
reは相槌を打ちながら、coを見ていた。
声。
姿勢。
癖で、coって分かる。
……でも。
re(顔、ないな……)
それを「変」と思う感覚が、もうreの中で当たり前になりつつあるのが、怖かった。
しばらくして。
co「……あ」
何かに気づいたような声。
reの心臓が、一瞬跳ねる。
co「ごめん、reさん」
re「……なに」
co「さっきからreさん、僕の方ちゃんと見てなくない?」
一瞬、空気が止まる。
reの呼吸が、浅くなる。
koが、ほんの僅かに身構えたのが分かった。
re「……そう?」
平静を装った声。
でも、喉が少し震える。
co「うん。いつもなら、話すとき目合うじゃん」
re「……今日は、ちょっと疲れてるだけやと思う」
co「そっか」
coはあっさり引いた。
co「無理しないでね」
それだけ言って、またスマホに視線を落とす。
……気づかない。
まだ、気づいてない。
reは、そっと息を吐いた。
re(今の、セーフやった……)
でも。
“目が合わない”
“視線が合わない”
――それは、いずれ必ず矛盾になる。
ふとした一言。
何気ない仕草。
その瞬間に、coは――
まだ、何も知らないまま、そこにいた。
――――数日後
上手いこと病院の予約がとれなくて、reの病名がまだ分かってなかった頃。
co「…kuー」
ku「なにー?」
co「最近さー、僕reさんに避けられてる気がするっていうか、…なんか僕の顔忘れた、みたいな反応が多くて…」
ku「、うん」
co「だからさ、確認するの付き合ってほしい」
ku「…いいよ?」
co「ありがとう!じゃあさ、僕がreさんの前立つから、kuが僕の後ろで喋って」
ku「…Ok、わかった。」
ーーー
coがreの前に立つ
re「?」
(誰…?)
ku「reちー、」
re「どしたー?」
(kuか…)
ku「紫外線指数少なかったから今からコンビニ行こうと思うんだけど買ってきてほしいものある?」
re「んー…なんかいいかんじのお菓子ほしい」
(顔を見て)
co(完全に僕のことkuだと思ってるよね…?)
co「reさん…」
re「っえ、?なに?coくん?」
co「簡単な質問してもいい?」
re「いいけど…」
coが自分の顔を指さす
co「これ、誰だと思う?」
re「ku…やろ?」
co「……僕なんだよね、今reさんの目の前にいるの」
re「っえ…?kuは?」
co「僕の後ろにいる」
re「…」
co「reさん…顔の、見分けつかない…?」
re「っ…ごめん」
co「謝ってほしいんじゃなくて…」
re「何日か前から、人の顔の区別、つかんくて」
「coくん以外にはもう話してたんやけど…話したときcoくんおらんくて」
co「なんで…話してくれなかったの、?」
re「coくんには…ちゃんと病名決まってから話したいな、って思って」
「安全、危険、分からんまま話したらcoくん考えすぎるんじゃないかなって。ただでさえ今聴覚過敏の治療中やのに…」
co「…そりゃ、考えるよ。大事な家族だもん…」
re「でもさ、reが中1の時だってめっちゃ考えてくれたやん?またあんだけ考えられるとcoくんの体が心配になってくるから…」
co「、それは…」
ku「! 病院、MRIの予約とれそうなところみつけた!」
最近niくんたち忙しそうで、他の先生じゃないと予約とれなかったんだよね…
ku「koー!病院、予約とれたー!」
ドタドタドタ
co「ちょっ…!うるさっ…!」
ko「あ、ごめん、!予約とれたって…」
ku「iris病院、この日ならniくんたち空いてるって」
「この日でも空いてるのは3人だけど…」
ko「3人空いてるなら十分だよ。いざとなれば俺らが回るし…」
ku「そだね」
co「明日、?」
ku「うん、明日だね」
re「あ、re今日夜ご飯当番や」
ku「一緒にやってもいい?」
re「え?いいけど…」
re「いつも手伝ってるイメージあるけど…なんで?」
ku「できるだけ、家の中で頑張らないとだから」
re「んー…そっ、かぁ…」
ku「大丈夫。前みたいに無理はしてないから」
re「coくん呼んでくる」
coくん、お皿の音が1番辛いみたいやからご飯の準備・片付けの時は防音室にいるんよね
呼びに行く人とかはきまってないんやけど、なんか今日はreって感じする(?)
カチャ…
re「coくーんご飯出来たよー」
co「reさん、ありがとー」
ーーー
「ごちそうさまでした-」
ko「coくん、薬飲んだ?」
co「飲んだー、明日何時に起きればいいー?」
↑coくんが飲んでる薬に関しては「聴覚過敏」の話読んでくださーい
ku「明日は昼からだから何時に起きてもいいよー」
ーーー(お風呂とか)
yu「じゃ、みんなおやすみー」
約all「おやすみー」
reside
明日…reの病名分かるんや、多分。
病名、分かって…酷いやつやったらどうしよう
てかまず病院入れるかな
あんときから病院入ってないから分からんなぁ…
…
re「、ん……ふぁ、あ…」
今…何時…?
11:23
よかった…まだ朝、
-リビング
re「おはよ…」
…、っ なんか…昨日とは違って顔のところだけクレヨンで雑に塗られた感じになってる…
yu「おはよ~、reち、……昨日より酷い?」
re「なんか…すりガラスがクレヨンになった感じ…」
ku「…?」
ko「…?」
yu「…?」
re「?…」
ku「え?なにこの空気」
ko「…っ俺、お昼つくるわ!」
yu「ありがとー」
yu「今日は健康診断のときとは違って病院行かないとダメなんだけど…行けそう…?」
re「わからん…ちょっと怖い」
yu「無理しないでね。ゆっくり入ろ」
…
ko「みんなー行くよー」
ku「はーい」
ーーーー
ru「あ、来た
えっとー、中入ったらすぐ右曲がったとこにある椅子、座っといて」
ko「はーい、ありがとー」
yu「reち、大丈夫そう?」
re「ふ、ぅ…っ」
yu「大丈夫だよー、落ちついてー…」
ku「ここまで来れてるから!成長してるよ~」
re「ん…」
yu「落ちついたかな…?今回は結構ましっぽいね」
ni「ごめん、遅くなったー…」
ht「どうぞーreちだけ入ってー」
re「…」
ni「この上に寝て…」
おっけー、じゃあ力抜くね。
reside
ru「動かないでねー」
って言われながら耳栓つけられて、ヘッドホンもつけられて。
はい準備完了、みたいな空気。
ベッドがウィーンって動いて、
気づいたら筒の中。
圧迫感…あるな…。うん、ある。
で、急に来る。
ドン!ガン!ガガガガ!
え、工事?
解体?
ってレベルの音。
これ外にも聞こえてんのかな
coくん大丈夫かな
MRIってレントゲンじゃなくて、
めちゃ強い磁石と電波で体の中をスキャンしてるらしい。
やからこんな音するんやって。
さっき説明されたけど…それとこれとは別。普通にうるさい。
時間は地味に長い。
5分が10分に感じるし、
10分がもっと長く感じる。
動いたらダメやから、
かゆくても我慢。
鼻ムズムズしても我慢。
「今くしゃみしたら全部やり直し説」を
勝手に想像して、さらに我慢。
途中でniくんの
「息吸ってー、止めてー、はい楽にしてー」
って声が来ると、
あ、解体されてるわけではないんや、ってなる笑。
音が止まった瞬間、
「あ、終わった?」ってなる。なんか、うるさいのに慣れたせいか、静かすぎて逆に気になる…
ベッドが戻ってきて、
筒の外の空気がやたら新鮮。
体は何も変わってないのに、
なんか中まで見られた気分。
スマホのロック解除された感じに近い。(?)
ni「じゃあ、待合室か、さっき座ってたところで待ってて」
reがMRIを受けてる頃ー
ht「あ!coくん、こっち来てー!」
co「…?」
ht「ここ入って」
co「?…はい」
ht「MRIって結構外でも重低音響くから辛いかな、って思って…」
co「え?あ、ありがとうございます!」
ht「ここ、防音室だから…reちのやつ終わるまでここいていいよ。終わったら呼びに来るね」
co「はーい」
…
ku「近くにいると結構重低音響くね~、俺中にいたことしかないからさー…」
ko「俺も外は初かも」
yu「coくんにこの音はキツかっただろうね…」
ku「htくんナイスすぎた」
ガチャ…
yu「reち!お疲れ様」
ru「今からいろいろ分析しようと思ってるんだけど…来る?」
ko「俺ついていってもいいですか」
yu「yuさんは外で待っとこうかなーreちに何かあったら大変だし、」
ku「俺もここにいよっかな」
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