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富来 えび
210
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越後――春日山城。
「さて、皆様。お集まりいただき、感謝いたす」
長尾景虎は、集まった者たちを見渡した。
そして、方円を横目で見ながら続ける。
「必ずや、憲政様をお戻しいたそう」
「うむ」
佐竹義重が頷く。
「北条は侵犯を繰り返す逆賊じゃ」
「佐竹は全面協力いたす」
「海は我らにお任せあれ」
里見義堯も続く。
「水軍で、必ずやお役に立とう」
「憲政様……」
長野業正は、静かに拳を握る。
「必ず、お戻しいたす……」
「……^^」
方円は微笑んでいた。
「皆様の力が集まれば、かなり有利に戦えましょう」
「ですが……」
私は地図へ目を落とす。
「小田原城が、面倒です」
「何せ、あの城は日ノ本でもかなりの名城ですからね」
「三代に渡って、改築を繰り返しておりますし……」
「何より、あの総構えが面倒で面倒で」
「籠もられた後に、今川の援軍が来たら……」
「ですので、対策を考えねばなりません」
私は景虎を見る。
「景虎殿は戦が大変お強いとか」
「何か策はありませんかね?」
「…………」
景虎は固まった。
(こやつ……いきなり丸投げか???)
「……確かに、小田原城は面倒だな」
「総構え、恐るべし……」
「うぬぬ……」
景虎が地図を睨む。
「あと、小田原までの道中にある忍城も気になりますわね」
方円が続ける。
「あそこも周りの沼が厄介な、かなりの堅城で……」
「元は上杉の城ですから、戻ってくださると信じておりますが」
「もし、北条に従い続けていたら……」
「……」
方円は、佐竹と里見をちらり。
「(⊃д・,,))チラチラ〜」
「…………」
佐竹義重と里見義堯は、顔を見合わせた。
(……こいつ、洞察力が恐ろしいな)
(圧力まで感じる……)
(信用ならんが……)
(実力は本物か……)
(くそっ、女と甘く見ておった……)
「まだ小田原の攻略を考えておる」
景虎が地図から顔を上げる。
「チラチラ見ないでくれ」
「まあ、そうですか^^」
方円はにっこり笑う。
「忍城の件は、某に任せてくれませぬか」
業正が口を開いた。
「必ず、こちらになびかせましょう」
「小田原城の攻略に、皆様は力を割いてくだされ」
「……!」
方円は業正を見る。
(おそらく、北条は小田原に全てを懸けるはず)
(業正殿が忍城をこちらへなびかせられたら……)
「上杉の忠臣、業正殿がやってくださるのなら……」
「私は頼もしいですね」
「賛成です」
「さて、あとは小田原……」
方円は地図を見つめる。
「ふむ……」
「私の考えとしては――」
「交代で包囲し、休憩中の方が兵糧等を届け続ける、というのはいかがでしょうか」
「ただ包囲するだけですと、やはり二ヶ月程が限界でしょうから……」
「ですが、交代で包囲し補給を途絶えさせなければ、かなり長く包囲できるはずです」
「…………」
方円は穏やかな表情を浮かべる。
「あくまで、表向きは……ですが」
景虎が眉を上げる。
「……確かに」
「ただ全員での包囲は、二ヶ月が限界だろうな」
「特に我らは越後からの出兵となる」
「兵站がかなり長い」
「交代で包囲し、話に出ていた食料の補給等もあれば、大変助かる」
(……あの一瞬で、包囲の限界を計算したというのか)
(やはり、油断ならぬやつ……)
「ふむ」
佐竹義重が腕を組む。
「女に従うのは癪だが……」
「交代包囲自体は悪くない」
「休ませることなく、嫌がらせですな」
里見義堯が笑う。
「侵犯してきたことを後悔させるくらい、定期的に海から襲撃してやる」
「佐竹殿」
業正が苦笑する。
「そのような言い方は宜しくないですぞ」
「方円殿にも、色々と思うことがあるのだ」
「いえ、良いのですよ」
方円は静かに笑う。
「兄がしてきたことを考えれば……」
「疑われるのは、仕方のないことかと……」
そう言いつつ、方円は、皆を見渡した。
「……あと皆様に、提案がございます」
そう言うと、方円は手にした正蛇の槍を静かに掲げる。
「此度の総大将は……景虎殿に務めていただくというのは、いかがでしょうか」
「なんと……!」
業正は、思わず目を見開いた。
(この包囲網を実現させた実績があるゆえ、てっきり方円殿が総大将を務めると思っていたのだが……)
一方、景虎もまた、驚きを隠せずにいた。
(なに……!?やはり、この女……何を考えている!?)
すると、義重が大きく頷いた。
「それは、大賛成だ!」
そして、少しばかり本音を漏らす。
「正直、方円殿が総大将であるなら、某はこの話から手を引こうかとも考えておったわ」
業正が声を上げる。
しかし、方円は気にした様子もなく、穏やかに笑った。
「いえ、良いのです」
「私は、総大将の器ではありませんもの。
ふさわしい方が務めるべきですわ」
方円は、景虎へ視線を向ける。
「兄の件で穢れてしまった私よりも……」
「義を持つ景虎殿こそ、それにふさわしいかと」
「……ふむ」
義堯は、口元に薄い笑みを浮かべた。
「某も、賛成いたす」
そして、方円の顔色を窺いながら、言葉を続ける。
「やはり、女子ではついて行きたくないと
思う兵も、おるかもしれませぬからな」
「決して、方円殿を軽んじているわけではない ことは――」
「分かっておりますよ」
方円は、にっこりと笑みを浮かべた。
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軍議を終えた景虎が自室へ戻ると、政景が声をかけた。
「此度の会談はいかがでございましたかな、 御館様?」
「うむ。実はな……」
景虎は、少しばかり複雑な表情を浮かべる。
「それがしが、総大将となったわ」
「なんですと……!?」
政景は、驚いたように目を見開いた。
「方円殿ではないのですか?」
「ああ。方円殿から申し出てきたのだ」
景虎は、軍議での方円の姿を思い返す。
「自分は、総大将を務める器ではないとな」
「……やはり」
政景は、しばし考え込んだ後、苦笑した。
「方円殿が何を考えておられるのか、
さっぱりですな……笑」
「それがしも同じだ笑」
景虎は、深く息を吐く。
「とにかく、政景」
そして、政景をまっすぐに見つめた。
「それがしが関東へ赴いている間、
越後は頼むぞ」
「はっ!」
政景は、力強く頭を下げた。
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そうして、夜が明けるまで――
話し合いは続けられた。
小田原を囲む者。
海から攻める者。
忍城を動かす者。
そして、越後から兵を率いる者。
それぞれが、それぞれの思いを胸に抱えていた。
憲政を取り戻すため。
北条に報いを受けさせるため。
荒らされた領地を取り戻すため。
そして――
二度と、同じ犠牲を生まないため。
それぞれの思惑を抱えた戦が、
今まさに、始まろうとしていた。
コメント
1件
おお、一気に主要キャラが揃って軍議、熱い展開だわ🔥 方円の「察しの良さ」と「自分は総大将じゃない」って譲る冷静さがめっちゃカッコいい。でも周りが「女だから」って軽く見てる空気もあって、そこを押し切る強かさも感じるな。景虎が総大将になって、それぞれの思惑が交差する感じ、続きが気になりすぎる! 戦略の組み立て方とか、キャラの立ち位置のバランスがいいエピソードだった👍