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辿り着いた先は工場や倉庫が建ち並ぶ一角にある三階建てのとあるビル。裏手の駐車場に車を停めた郁斗は裏口からビル内へ入ると階段で三階へ上っていく。
上り切った先にあるドアの前にはサングラスを掛けた金髪の男と目付きの悪い赤のメッシュが入ったロン毛男の二人が立っている。
「ご苦労さん、哲、槇」
「あ、郁斗さん、お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
そんな二人に郁斗が声を掛けると、姿勢をピシッと正して一礼しながら挨拶をする男たち。
どうやらこの二人も郁斗の部下のようで、彼がドアを開けて中へ入るまで顔を上げず頭を下げたまま立っている。
「恭輔さん、お疲れ様です」
「おう、郁斗か」
郁斗が中へ入ると、正面に窓を背にして机に向かい座っている男が一人。
彼の名前は巽 恭輔。すっと通った鼻筋に薄い唇、キリッと整えられた眉毛に切れ長の鋭い瞳をした黒髪ツーブロックの彼は高級そうなスーツを身に纏い、見た感じエリートイケメンと言ったところだ。
「井筒の件はどうなった?」
「それが、さっき美澄から連絡があって逃げられたと」
「またか。アイツ、懲りねぇな」
「今、美澄と小竹に探させてますんで」
「そうか。まあ、時期に見つかるだろう。しかし、何で郁斗はその場に居なかったんだ? お前が居れば逃がすなんて失態犯さねぇだろ?」
「あー、ちょっと野暮用で……」
「それは仕事より大事な用なのか?」
「いやー、まあ、成り行きで……」
本来、郁斗は美澄たちと共に井筒という男の元を尋ねる予定だったようだが、それには間に合わなかった。
その理由は勿論、詩歌との一件があったからだ。
しかし、恭輔に理由を問われた郁斗は詩歌の事は話さず、濁したままで会話を続けていく。
「まあいいが、井筒にいつまでも逃げ回られちゃ帳尻が合わねぇからな。きちんと金は回収しねぇとならねぇ。分かってるな?」
「勿論。美澄たちが無理なら、俺が直々に探しに出向きますよ」
「頼んだぞ。そうだ、郁斗、お前この後暇だよな?」
「まあ、暇……ですけど?」
「なら『PURE PLACE』と『ONLY ONE』に行って店の様子見て来い。何か問題があるようなら報告してくれ」
「了解しましたー。それじゃ、行ってきます」
恭輔に仕事を頼まれた郁斗は軽い返事をして部屋を出て行った。
『PURE PLACE』はキャバクラ、『ONLY ONE』はホストクラブ。そのどちらも指定暴力団関東連合【神咲会】の傘下組織でもある【市来組】が経営に携わっている。
恭輔はその市来組の若頭で、組長とは旧知の仲だと言われている。郁斗は恭輔や組長に気に入られている特別な男で彼らは皆、正真正銘のヤクザなのだ。
ただ、ヤクザと言っても神咲会は『堅気の人間には極力迷惑をかけない。やたら無闇に人を傷付けたりもしない。違法薬物や賭博はご法度』という独自の任侠道を掲げている、至極真っ当な組織と言える。
そして、郁斗は最初から組織に入っていた訳ではなく、初めは『ONLY ONE』のNO.1ホストとして女性に癒しを与える存在だったのだが、代わり映えのしない毎日に飽きてしまった彼はその後、顔の広さを生かしてスカウト業に勤しんでいた。
その途中で恭輔や組長と知り合った事で組織に興味を持った郁斗が直々に頼み込んで市来組に加入をして今に至る。